第18話 聖女ギルドに寄付をしよう
僕らがレザス商会に戻って意図せず脱税していたことを伝えると、レザスさんは笑い転げた。レザスさんが言うには冒険者が鞄に入る程度の量を持ち込んで商売をするくらいはお目こぼしされているのだという。
だけどそれは見逃してもらっているだけで、本当なら税金は払わなければならない。特に僕の場合は稼いでいる額が額だ。税金を払わないというわけにはいかない。
「というわけでエインフィル伯に上手く言ってこれまでのことは誤魔化しておいてもらえないかなって。もちろんちゃんと税金は払うので」
「商材はウチに卸しているもので全部か?」
「ええ、それ以外に持ち込んでいるのは私用の物だけです」
「分かった。次回までに過去の分を精算できるようにしておこう。それからこれからも荷馬車を使ったりはしないんだな?」
「その予定は無いですね。僕が持ち運べる分しか扱う気は無いです」
「なら次回からもこれまで通り冒険者として入市していいように話をつけておこう。エインフィル伯からも鏡を持ち込んでいる行商人に不都合が無いようにと言われているからな。なんならエインフィル伯から直筆の書面をもらってきてもいい」
「そうですね。トラブルを回避できそうですし、お願いできますか?」
「分かった。お前の運んでくる利益に比べれば安いものだ」
そう言うわけで話がまとまって、僕らは今度こそレザス商会を後にした。
「税率1割かあ」
「それくらいなら、まあ、次回受け取る金額から支払えそうな気はするけど、お金は残しておいたほうが良さそうだね。聖女ギルドへの寄付はどうしよう?」
「金貨10枚ずつこつこつ寄付していくことにするよ」
「それがいいね」
別にメルの養育にかかったお金は請求されているわけではない。ゆっくり返していって、それ以上に寄付をしていけばいいだけの話だ。
僕らはまず冒険者ギルドへと向かった。夕刻ということもあって冒険者ギルドには依頼の報告や、魔石の持ち込みに来ている冒険者が多数いたので、目立たないように金貨を預ける。別に僕らを殺して冒険者証を奪ったところで、お金が引き出せるわけではないが、僕らを脅すなりなんなりでお金を奪う方法はある。念には念を入れて、だ。
その足で僕らは聖女ギルドに向かった。教会とか聖堂とか、そんな感じの建物を想像していたが、メルが入っていったのはアーリアではごく一般的な建物だった。まあ、確かに権威が必要ないのであれば、特注の建物を作るより他の事業にお金を回した方がいいよな。
建物の中は冒険者ギルドと似たような作りになっていた。カウンターがあり、奥で事務仕事をしている人たちがいる。冒険者ギルドと違うのはカウンターに詰めている専任の受付がいないことだろうか。
「こんにちは! ご無沙汰してます!」
「あら、メルシアちゃん! こんにちは」
「おっ、メルシアか。よく来たな」
メルの姿を認めた職員の人たちが口々にメルに声を掛ける。
「今日はなにがあったの?」
「えへへ、お金ができたから寄付をしようと思って」
「そうなの!? ありがとう! ということは冒険者に?」
「うん! なれたよ!」
メルは首元から冒険者証を取り出して見せる。
「それもこれも全部ひーくんのお陰なんだ! ね、ひーくん」
メルが急に話を僕に振ってくる。もうちょっと傍観者に徹するつもりだった僕はいきなりのことに対応できない。
「え、えっと、いや、まあ、メルが頑張ったからだよ」
「そんなことないよ。ひーくんがいなかったら冒険者になれるのだってもう何年か先だったと思うもん」
「お二人で頑張ったということですね」
「そうそう」
職員さんが綺麗にまとめてくれたので乗っかることにする。
「それでわざわざギルドまで来たということは少額の寄付じゃないのね?」
「うん。それと回復魔法使いの人を紹介して欲しくって」
「冒険者になったんだもの。そうよね。それでどれくらい寄付してくれるの?」
「えっと、金貨10枚持ってきたんだけど」
「え゛っ!?」
職員さんの顔が引き攣る。
「だ、だ、大丈夫なの? そんなに寄付して、無理してない?」
まあ、14歳の女の子が100万円以上寄付するって言ってたら、いくらこの年齢の子が働いているアーリアでも異常だよなあ。
「大丈夫だよ。ちゃんとお金は残してるから!」
「えっと、僕も金貨10枚寄付していこうと思います」
「あなたもっ!? 冒険者ってそんなに稼げたかしら?」
「まあ、冒険者としての稼ぎじゃないので……」
「そう、なのね……」
奇妙な沈黙があって、それから職員さんは慌てて書類を出してきた。
「高額な寄付だと記名してもらって記録を残しているわ。名前と市民証の番号、寄付する金額を記入してね」
僕らは書類に記入して金貨を納める。
「それから回復魔法使いの紹介だけど、レベルを合わせた方がいいわよね?」
「レベル1でも冒険者じゃなくとも構いません。冒険者登録のお金はこちらで用意しますし、その後もなんとかします。将来性のある人をお願いします」
「そういうことなら何人か紹介できると思うわ。その中から合った人とパーティを組めばいいわよ」
「よろしくお願いします!」
僕らは揃って頭を下げた。
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