第88話 鏡の代金を受け取ろう
「というわけで、今回は買い出しは済んでいるんだ」
僕が休日があったこと、その日に買い出しを済ませていることを伝えるとメルは唇を尖らせた。
「えー、日本行きたかったなあ」
メルは完全にその気だったのか、前回購入したガーリーな服を着ている。
「次の機会にね。ただその服はマズいかも」
「え? どうして?」
メルに日本でメルの画像が流行していることを伝える。多分、町を歩けば色んな視線だけではなく、声も掛けられるだろう。これまでのように気楽に散策というわけにはいかない。
「えー、まさかぁ、ただの町娘だよ?」
アハハ、とメルは僕の言葉を取り合おうとしない。一応、次回までに大きめのパーカーを用意しておこう。いざというときはフードを被ってもらうしかない。
「次も甘いもの食べたいな!」
「分かった。なにか考えておくよ」
「それなら我慢する」
まだちょっと渋い顔をしながらメルは言う。僕は何を食べてもらえばいいのか考える。ビュッフェで大抵の甘いものは食べてもらったような気がする。
「あー、でもパフェがなかったか」
「パフェってなぁに?」
「なんて説明すればいいんだろうなあ。色々トッピングしたアイスのようなものかな。綺麗に飾り付けてあることが多くて、見た目にも鮮やかだね」
「おおー!」
メルが目を輝かせる。ご機嫌は取れたようだ。
僕らはまず砂糖を売るためにエイギルさんの店に行く。
「カズヤよ、この後、会頭のところにもいくんだろう?」
エイギルさんは現れた途端そう言った。
「ええ、まあ」
「お前の持ってくる砂糖はウチでは売れん。結局は会頭がエインフィル伯のところに持って行っておるから、直接会頭のところに持って行っていい。話は通しておく」
「それは助かります」
それは次回からということでエイギルさんから砂糖の代金として金貨10枚を受け取る。その足でレザス商会本店に向かった。いつものように応接室に通されて、レザスさんがやってくる。
「おお、見違えたな。今日はその衣装も売り物か?」
レザスさんはメルを見るなり開口一番でそう言った。
「残念ながら衣服は扱っていませんよ。これは彼女のために用立てたもので、売り物ではありません」
「確かに衣服は流行り廃りがあるからな。扱うなら専門の者が良いか」
「それより前回は鏡を10枚も持ち込みましたが、売れましたか?」
僕がそう聞くとレザスさんはニヤッと笑った。
「鏡1枚につき金貨50枚、合わせて500枚になったぞ。エインフィル伯はあるだけ買いたいとのことだ。他の貴族にもっと高値で売りつけるんだろうとは思うが、ウチには伝手が無いからな。エインフィル伯に売るしかない」
「では今回の鏡がこちらです」
僕はリュックサックから10枚の鏡を取り出す。高級感を持たせるための演出はもういいや。レザスさんにはバレているわけだし。
「確かに。それからボールペンは手に入ったか? ウチの業務に影響する」
「持ってきていますよ」
僕はボールペンを取り出してテーブルに置いた。
「助かる。それとコーヒーと緑茶という飲み物だ。確かに覚醒作用があるようだな。寝る前に飲むと寝付きに苦労した」
「試したんですか……」
「つい、な。あれらも今後とも売ってもらいたい。自分たちで消費したいところだが、おそらく貴族に高値で売れるだろう。飲めなくなるのは辛いが……」
「それなら緑茶とコーヒーは手数料3割の契約でいいですか?」
「ああ、そうしてもらえるか。ただ売れると約束はできないが」
「契約は売れてからでいいですよ。今回持ってきた分は試供品としてばら撒いてください」
僕は緑茶とインスタントコーヒーをテーブルに出した。ついでにチョコレートも出しておく。
「エインフィル伯の料理人はチョコレートをどうしましたかね?」
「分からんが、追加注文は来ている。チョコレート1枚につき金貨1枚だと言ったら、それでも2枚は欲しい、と」
「ふっかけすぎたんじゃないですか?」
「しかしこれくらいの利益が無ければお前に旨みがあるまい?」
「それは確かに」
鏡で儲けられているから、他も同じくらいとは言わずとも持ち運ぶ重さに見合うくらいの利益は出て欲しい。
「大きいビーズは評判が良かった。紐を通して首飾りにしたところご婦人方に売れた。金貨20枚だ。小さいビーズも既存の服に縫い付けてみたところ、反応が良くてな。こちらは金貨30枚で売れたが、服の仕入れやらに結構金がかかった。お前の取り分は金貨15枚というところだな。手数料は別途いただく」
「それでいいですよ。次回からは大きいのも小さいのも仕入れてきます」
「では精算しよう。鏡が金貨500枚、ビーズが金貨35枚、ここから手数料を引いて金貨374枚と銀貨20枚がお前の取り分だ。それにボールペンが銀貨10枚だったな」
レザスさんはあらかじめ用意していたのだろう革袋から金貨をザラリと出して、テーブルの引き出しから銀貨を足していく。当然のことながら数えるのにはちょっと時間がかかった。
「確かに金貨374枚と、銀貨30枚いただきました」
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