第11話 日本で魔石を売ろう

 近鉄大和八木駅で下車した僕たちは改札を出てバス乗り場へと移動する。週末は15分ごとに橿原ダンジョンへのシャトルバスが運行されている。


「おっきい車? だね!」


「これはバスって言うんだ」


 土曜日の朝ということもあってバスの待機所には人が多い。誰しもが武装していて、探索者であることが分かる。まあ、探索者以外に橿原ダンジョン行きのバスに乗る人なんて滅多にいないけど。


 僕らは並んでバスの座席に座る。メルは窓側の席を選んだ。まるで小さな子どものように窓の外の景色に釘付けだ。


「どこまで行っても建物があるんだ。日本ってすっごく大きな町だね」


「日本は町というか国だね。今は橿原市って町にいるけど、町と町のつなぎ目はあってないようなものだなあ」


「町の外って無いの?」


「山林とか原野もあるよ。だけど普段生活する範囲で緑があるところとなると田んぼとか畑とか、それか公園だね。それ以外の町は普通に繋がってる感じ」


「はえー」


 あ、これはよく分かっていないな。とは思うが、僕も説明は難しい。


 メルが窓の外の景色に見入っているうちに、バスは橿原ダンジョンに到着する。バスを降車すると橿原ダンジョンを覆う建物の目と鼻の先だ。とは言っても今日は橿原ダンジョンに潜るために来たわけではない。用事があるのは魔石の買取所だけだ。


 買取所はダンジョン入り口の改札より外側にあるのでメルでも付いてくることができる。朝なので買取所はガラガラだった。


「すみません。魔石の買い取りをお願いしたいのですが」


「はい。探索者証をお願いします」


 僕は探索者証を取り出す。マイナンバーに紐付けられた探索者証は魔石によって受け取った金額がきっちりと記録されていて、100万円の控除こそあるものの、それを越えた場合は確定申告して納税が必要だ。


 探索者証のQRコードを読み取った職員さんは、僕が並べた魔石の大きさを確認していく。第1層のスモールスライムの魔石も沢山あるため、ちょっと時間がかかった。


 結局、アーリアのダンジョンで稼いだ魔石は23,000円ほどになった。第3層で1日狩りをすれば3万、あるいは4万だって狙えるだろう。


「ねぇねぇ、いくらくらいになったの?」


「アーリア換算だと銀貨7枚か8枚くらいかなあ」


「あんまり変わんない感じだね」


「確かに」


 しかし日本円は砂糖や鏡などの商品を介することで何十倍にも膨れ上がる。僕らはバス停に戻って大和八木駅へのシャトルバスに乗り込んだ。

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