第25話 家族と晩ご飯を食べよう
その後、父さんも帰ってきて僕らは同じ話を繰り返した。水琴は僕がミミックに食われる辺りを詳細に聞きたがったが、事実――ではないが――を淡々と伝えるに留めた。
その後、斉藤さんが辞去して、車で去って行くのを見送ってから、僕らはファミレスで夕食ということになった。いつもは母さんが帰ってきてから夕食を作っているのだが、今日はそんな気にはなれないみたいだ。
なんでも注文していいという両親の言葉に甘えて、ファミレスでは高価な部類になるステーキの定食を頼む。アーリアではガッツリ肉を食べようと思うと、結構お値段が張る。資金に余裕の無かった僕は屋台で銅貨5枚前後の食事で済ませていた。
値段の割に安っぽい肉だったが、肉は肉だ。僕はガツガツと腹に収めた。
「アンタ、ちょっと変わったね」
と、母さんが言う。水琴にも同じようなことを言われた。この1ヶ月間、実際には異世界で肉体労働に従事していたし、魔物を殺してレベルも上げた。1ヶ月前そのまま、というわけには行かないだろう。
「気のせいじゃない? それともミミックに食べられた僕の複製がここにいるとか?」
「冗談でもそんなこと言わないで」
「ごめん」
冗談と言うにはちょっと質が悪かった。データである僕らにはそういうことが容易に起りうる。キャラクターデータコンバートを繰り返した僕が、以前の僕と同一の存在かどうか、僕自身も少し疑問に思う。
少なくとも僕の記憶には連続性がある。しかし家族からしてみれば僕の時間は1ヶ月飛んでいるわけで、不安に思うのも当然だろう。
「それよりこの1ヶ月の間に変わったことはなにかあった?」
「それどころじゃなかったなあ」
父さんが言う。
「ダンジョンにお前を探しにいこうかとも思ったが、具体的な場所も分からなかったし、ダンジョン管理局の人に止められてな。二次遭難の恐れが高いって。悪かったな」
「いや、ダンジョン管理局の人の言う通りだよ。第一、お父さんのレベルってそんなに高かったっけ?」
「父さんは探索者証も取っていないよ。世界がこうなった時には水琴ももう生まれていたし、危険なことをするわけにもいかなかったからな」
「母さんは大変だったわよ。あちこち連絡しなきゃいけなかったし」
「そうだ。学校。学校はどうなってるの? 退学ってことはないよね?」
「連絡して休校ってことになってるわ」
「本当に1ヶ月も飛んでるんなら授業に追いつくのが大変だろうなあ。出席日数も心配だし」
付け加えるなら元々成績は良くないし、中間テストでは赤点を取りまくることになるだろう。放課後や土日が補習で埋まるかも知れない。
「こんなことがあったんだもの。留年しても仕方ないわよ」
「2年生での留年は目立つだろうな。できれば普通に進級したいよ」
「これに懲りたら勉学に集中することだ。高校生のうちはまだダンジョンに行く必要なんて無い」
父さんはそう言うが、現代日本の高校生の過半数はダンジョン探索をしている。レベルが上がってステータスが上がれば、勉強でも運動でもアドバンテージを得られるからだ。
「そうよ。お小遣いならあげてるでしょう。ダンジョンなんてわざわざ行かなくともいいじゃない」
まあ、ダンジョン探索は僕の意思ではなく、檜山たちに無理強いされたものだったのだが、それを両親に説明するのはちょっと躊躇う。檜山たちからイジメを受けていることは誰にも相談していないからだ。
「もう橿原ダンジョンには行かないよ。約束する。僕もこりごりだよ」
少なくとも橿原ダンジョンには、ね。
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