第23話 自宅に帰ろう

 僕は斉藤さんたちに車で自宅へまで送り届けてもらった。

 1ヶ月以上留守にしていたから、帰ってきた感がもの凄いが、それを表情に出すわけにはいかない。僕自身は朝に家を出て、夕方に帰ってきた。それくらいの感覚のはずなのだ。


 自宅の駐車場に車は停まっていなかった。母さんも父さんもまだのようだ。斉藤さんの安全運転で、という助言を守ってくれているならいいんだけど。


 玄関に鍵を差し込んで回すと、開いていた。ドアを引いて開ける。自宅の玄関の臭いがして、懐かしさにちょっと涙が出そうになる。


「ただいま!」


 家の奥からドタドタドタと足音がして、階段を駆け下りてきた水琴みことが僕を見て声を上げた。


「本当にお兄ちゃんだ! 生きてた!」


 驚いたのか、喜んだのか、水琴は万歳のポーズを取ったまま固まった。


「あれ、なんかお兄ちゃん雰囲気変わった?」


 万歳ポーズのまま放たれた言葉に僕はぎょっとする。僕は努めて冷静を保とうとした。


「まあ、死にかけたようなもんだし、なんか死生観? とか変わったかも」


「そうだよね? お兄ちゃんだし」


 よく分からない返答が返ってくるが、それはいつもの水琴ムーブなので気にしない。


「それと斉藤さんですか? お兄ちゃんを送ってくださってありがとうございます! さあさあ、上がってください」


「いえ、ご家族の再会を邪魔してもいけませんし、私は外の車で待たせていただきます」


「そう言わずに。お母さんからちゃんとおもてなししなさいって言われてるんです!」


 母さんは斉藤さんからも話を聞きたいと言ったそうで、斉藤さんには悪いが、家で両親の帰りを待ってもらうことになっている。


 水琴が子ども特有の急接近ムーブで斉藤さんの手を掴んで玄関に引き入れた。


「では車を任せている水島に一言伝えてきますので」


 そう言って斉藤さんは一度玄関から出て行く。


「お兄ちゃん、何があったの?」


「お父さんとお母さんが帰ってきてからも説明することになりそうだから、みんな揃ってからな」


 斉藤さんが戻ってきて3人で2階のリビングに上がる。水琴が斉藤さんにテーブルの椅子を勧めて、斉藤さんは素直にそこに座った。少し居心地が悪そうだ。


「お茶はどうですか?」


「いえ、いいえ、そうですね。いただきます」


「はーい!」


 水琴がキッチンに駆け込んでバタバタとお茶の準備を始める。


「騒がしい妹ですみません。僕はちょっと部屋に荷物を置いてきます」


「はい。分かりました」


 斉藤さんたちをリビングに残して僕は1階の自室に向かう。部屋の中は掃除こそされていたが、僕が最後に後にしたときとほとんど変わらなかった。僕が行方不明になったにも関わらず、家族は僕の部屋をそのままにしておいたのだ。


 リュックサックと鞘に入れたショートソードを置いて、スマホを充電器に繋いだ。1ヶ月の間、洗濯と乾燥を繰り返して少しくたびれた服を全部脱いで着替える。

 洗濯済みの服に袖を通したところで何故か帰ってきたという実感が一気に湧き出してきて、僕は必死に涙を堪えなければならなかった。


 洗面所で顔を洗ってスッキリしてからリビングに戻る。リビングでは斉藤さんの隣に水琴が座って話を聞いていた。


 これから何度も説明することになるのに斉藤さんも大変なことだ。そもそもすでに17時を回っている。残業になるのかな? ダンジョン管理局勤めは公務員だから残業代がちゃんと出るんだろう。きっと。

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