第18話 橿原ダンジョンを脱出しよう

 アーリアに滞在を始めて4回目の滞在許可証の更新を終えた。

 月が変わり、夏の暑さは少しずつ和らいできている。


 薪割りの仕事にももう慣れた。今では日に銀貨3枚を堂々と受け取れる。


 ステータスはこうなった。


柊 和也


レベル 4

体力 168/172

魔力 112/114

筋力 35(35)

耐久 28(28)

知力 32(32)

抵抗 22(22)

器用 29(29)

敏捷 24(24)

技能 キャラクターデータコンバート 異界言語理解

称号 異界到達


 筋力と耐久は同学年の平均値を超えてきた。

 もうレッサーゴブリンに遅れを取るようなことはない。まだスモールウルフやゴブリンを相手にすると危ないところがあるが、勝てないというほどではない。

 小回復と着火、湧水の魔術も習得済みだ。

 資金にも余裕ができて、中古のショートソードを購入した。


 今日、ほぼ万全の体調に整えてきたのは、メルと橿原ダンジョン第3層に挑んでみることになったからだ。

 メルもひとつレベルが上がってステータスが成長した。2人でならダンジョン内でモンスターに挟み打ちにされても対処できる。そう判断したということだ。


 安全を考えて、キャラクターデータコンバートは宿屋のメルの部屋で行うことにした。ダンジョン内で不測の事態があって慌ててこちらの世界に戻ってきた場合、そこにまた別の脅威が待ち受けていては困るからだ。


 装備を調えた僕らは頷き合う。メルにとっては初のダンジョンアタックだ。


 キャラクターデータコンバートと念じて、橿原ダンジョン第3層、妖精の小径の小部屋に転移する。


「僕は平気だけど、メルはどう? 体調におかしなところとかはない?」


「大丈夫みたい。それじゃ予定通りに行ってみよ」


 僕らは妖精の小径からダンジョン本流に戻った。妖精の小径はそれまで存在していた事が信じられないように消滅して、ダンジョンの石壁に変化した。


「ポータルへ向かおう。こっちだよ」


 幸いなことにマップは僕の手にあった。妖精の小径があった場所も覚えている。モンスターと出くわさなければ30分ほどでポータルに到達できるはずだ。


「まあ、そう上手く行くはずもないよね」


 正面からゴブリンが2体。第3層で複数の敵とエンカウントするとは運が悪い。


「私は右」


「じゃあ僕は左だね」


 ショートソードを構える。僕らを視認したゴブリンたちは走って迫ってくる。


 振り上げて、振り下ろす。


 手斧で何千回か繰り返したその動きはショートソードの正しい使い方ではないかも知れないが、僕にとっては一番威力の出る動きだ。

 狙い通りにゴブリンの左肩から胴部にかけて切り下ろす。が、浅い!

 ギリギリでゴブリンが足を止めたのだ。


 手傷を負ったにも関わらず、ゴブリンは威嚇の声を上げて襲いかかってくる。僕の顔を狙って振り抜かれた拳を左腕で受け止める。僕は1歩後退し、ショートソードを振り上げる。1歩前に踏み込んで、振り下ろす!


 僕の攻撃をゴブリンは後ろに下がって回避した。しかし次の瞬間、その首にショートソードが叩きつけられ、首が両断される。首が飛んで、血が噴き出した。もう一匹のゴブリンを早々に片付けたメルからの援護だ。


「うんうん。問題ないね」


 僕たちは魔石を回収して先に進む。2度モンスターとエンカウントしたが、無事に倒して魔石も回収。

 ポータルが近づいてくると時折だが他の探索者ともすれ違うようになった。


 やがて第3層のポータルが現れる。僕はほっと息を吐いた。ポータルにさえ辿り着けば、望めば一気に外に出ることができる。実質、脱出成功だ。


 僕はポータルに触れ、第1層へと転移しようとした。そしてポータルに拒絶される。


「あっ!」


 気付いた。メルは橿原ダンジョンの第3層しか経験が無い。第1層の実績が無いから、一気に第1層に飛ぶことができないのだ。


 とりあえず第2層に転移して、周りに人がいないことを確認してメルに説明する。第2層の敵はレッサーゴブリンやスライムでそれほど強い相手ではないが、念のためメルには第1層まで付いてきてもらいたい。


「もちろんだよ」


 まあ第3層でもなんとかなった僕たちだ。第2層は軽々とモンスターを倒して魔石も回収していく。なんとか第1層へのポータルに辿り着いて、第1層に転移した。

 それから人のいない辺りまで移動する。


「じゃあ一旦戻るよ」


「うー、ここまで来たのになあ。外見てみたいなあ」


「出るところでチェックがあるからメルはそのまま出て行くわけにはいかないよ。それに僕は一ヶ月以上も行方不明だったんだ。面倒な事になると思う」


「分かってるって。言ってみただけ。今度連れて行ってくれるんだよね?」


 その辺のことはもう話し合ってある。僕は夜にメルの部屋に転移して状況報告をして、お互いの予定をすりあわせて、タイミングが合う時にメルに外の世界を案内する。


「えへへ、楽しみだなあ」


「まずはメルの部屋に戻ろう」


 僕はキャラクターデータコンバートと念じて、転移する。一瞬で景色は切り替わり、宿屋のメルの部屋に到着した。


「それじゃ僕の部屋の鍵はメルに。悪いけどチェックアウト手続きをお願い」


「任されたよ」


「今夜は無理かも知れないけど、明日の夜には顔を出せると思う。それと本当に魔石は僕が持っていっていいの?」


「大した量じゃないし、こっちで換金すると怪しまれちゃうからね」


「分かった。じゃあまた夜に」


「うん。絶対だよ」


「もちろん」


 パーティを解散して僕は再びキャラクターデータコンバートを使った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る