第17話 魔術について教えてもらおう
最初の一回は運が良かったのだとすぐに分かった。上手く頭部に攻撃を加えられて、それでレッサーゴブリンが目を回したから簡単に勝てたのだ。
2匹目には2回殴られたし、3匹目には危うく噛まれるところだった。回復手段の無い僕らにとって怪我は致命的だ。
「私、簡単な回復魔術なら使えるよ」
「えっ、そうなの?」
それは聞いていなかった。
「というか、ひーくんは使えないんだ。教えたげるよ」
「でも僕は回復魔法のスキルが無いし」
「魔法じゃなくて魔術だよ。使い方さえ分かれば誰でも使えるって。ちょっとそこに立ってて」
そう言ってメルは僕の胸の辺りに手で触れた。
「今から回復魔術の構成を作るから、ちゃんと感じてね」
メルから何かしらの力が流れてきて、それが僕の中で複雑な構造に変わる。魔法陣というよりは電子回路のような何かだ。
「どう、分かった?」
「今のは?」
「だから回復魔術の構成だって。ひーくんだって同じ物を構成できれば回復魔術が使えるはずだよ」
僕はメルが作ったという構成と同じ物を思い浮かべる。だが細部が思い出せずに回路は完成しない。
「ごめん、メル、もう一度お願い」
「構成を作るのだって魔力を使うから、もう一回だけね」
「ありがとう。お願いだよ」
今度はしっかり感覚としてそれを記憶する。そして再現してみようとするが、上手く形にならない。惜しいところまでは行ってると思うのだけども。
「あはは、初めて見た構成をいきなり作り上げられたら天才だよ。こういうのはね、何回も手ほどきされて覚えていくものなんだから」
「またお願いできる?」
「うんうん。余裕があるときにね」
スモールウルフの相手はまだ危ないということでメルが担当する。スモールウルフの攻撃をひらりひらりと躱していくメルの姿は見応えがあったが、そちらにばかり集中しているわけにはいかない。メルが戦っている間の警戒が僕の担当だからだ。
とは言ってもレッサーゴブリンにしても、スモールウルフにしても、劣化変異種で、群れを作らないんだそうだ。それでもハグレ同士が近くにいることもあって、普段なら警戒しながら戦わなければならない。
「やっぱり仲間がいると楽だね。戦闘に集中できるし」
「でも稼ぎも半分になっちゃうよ。お金も経験値も」
僕とメルはパーティを組んでいる。僕が倒したレッサーゴブリンの経験値も、メルが倒したスモールウルフの経験値も、お互いに等分されている。メルにとっては損しかない取引だ。
僕が彼女に返してあげられることがあるとすれば、いつか地球の光景を見せてあげることくらいだろうか。そのためには僕らが強くなるしかない。橿原ダンジョンの第3層から帰還できる程度には。
その日、僕らはアーリアに生還して、銀貨1枚と銅貨12枚を分け合った。
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