君のことが好きなんだ【番外編】
待宵月
#1 無人島へは誰と?
有馬真一と音無千鶴は、週末に二人だけで映画を見に来ていた。
はずだった。
だが、なぜか映画が終わった後で昼食に入ったカフェでは、人数が五人に増えていた。
「……どうして、おまえ達がここにいる?」
真一は素直な疑問を口にする。
「え? そりゃ、俺達も映画を見た後で、お腹が空いたからだよ。な? 森口?」
答えたのは、真一のクラスメイトの佐倉要だ。彼の横には存在感が半端ない同じくクラスメイトの森口が頷いている。真一は溜息をつきながら視線を千鶴へ向けた。彼女を背後から抱きついているのは千鶴の親友の三嶋舞だ。舞は真一の視線に気付くと、にっこりと応じる。
「私は本を買いに来ていたのよ。そうしたら、たまたまちづの姿を見かけたから声をかけただけ」
だけ、と言っている割には千鶴から離れそうにない。
「舞、今日はごめんね」
千鶴は振り向くと、舞へ謝罪する。
「いいの。ちづが気に病む必要ないよ。誰かさんが、ちづの予定も聞かずに勝手に映画の予約を取っちゃったって言うから、仕方ないよ。でも、来週の日曜日は一緒に買い物に行くのは付きあってよね!」
「もちろん!」
『ちづ大好き!』とさらにギュッと千鶴を抱き締めながら舞はちらりと真一の表情を窺ってくる。真一は底冷えするような眼差しで舞の視線を受け止めていた。真一は諦めの混じった吐息を一つ吐くと、気持ちを切り替えるように千鶴へ優しく声をかける。
「キノはここに座るだろ?」
「うん。ありがとう」
6人掛けのテーブルへ案内されると、真一は椅子を引いて千鶴に座るように誘導し、その向かい側に当然のように腰を下ろした。
「じゃあ、俺はここに座ろうかな」
さり気なく真一の左隣の席を陣取ったのは要だ。森口は何も言わず要の横に座る。
「佐倉君と森口君も、今話題のあの映画を見たの?」
向いの席に座る要達に話しかけながら、舞は千鶴の隣の席に座った。
「うん。評判のとおり面白かったよ。三嶋さんは見ないの?」
「原作は読んだから、別に映画は見なくていいかなって」
「本が好きなんだね。どんな本を読むの?」
要は舞が持っている本屋さんの袋に視線を向ける。
「結構なんでも読むよ。……私が買った本が気になってる?」
そう言いながら、舞は袋から本を取り出す。
「あ! それ、俺も気になってたんだ!」
「あら、そうなの? 読み終わってからでよければ、お貸ししましょうか?」
「貸してくれるの?! 嬉しいよ! ありがとう!」
賑やかに話し始めた舞達の姿を楽しそうに見つめながら、千鶴はにこにこと真一に笑いかける。
「映画も面白かったし、偶然みんなで一緒にランチが出来るなんて、何だかわくわくするね!」
「……そうだね」
完璧な笑顔を顔に張り付かせ、真一はメニューと開いて千鶴の前に置いた。
「キノはどれにする?」
「ん? う~ん、どれも美味しそう……。 よし! 私は、Aランチ! でも、Bランチもいいんだよね……」
「それなら、おれはBランチにするから味見してみるといいよ」
「本当! 嬉しい! そうする! ありがとう! じゃあ、真一もAランチの味見してね!」
「うん」
真一は意図的に千鶴が自分へ注意を向けるように誘導しながら二人だけの世界を作っていく。料理も運ばれてきて、皆がそれそれ楽しんでいると、ふいに舞が声を上げた。
「ねえ、もし無人島に自分とあと一人連れて行けるなら、誰を連れて行く?」
突然のお題に、皆の視線が舞に集まる。
「俺は佐倉を連れて行く」
一番初めに応えたのは森口だった。答えはこれしかないというように、迷いのない声で言い切る。名指しされた佐倉は大いに憤慨した。
「何で俺がおまえと無人島に行かなきゃいけないんだよ!」
「俺が一緒に行きたいからだ。佐倉との無人島でのサバイバル。燃えるよな」
「勝手に一人で燃えてろよ!」
騒ぎ出した佐倉達から舞は視線を滑らせ、我関せずとコーヒーを静かに飲んでいる真一に目を向ける。
「有馬君は、もちろん千鶴を連れて行くんでしょ?」
「いいや」
即答だ。予想外の答えに、皆の視線が一斉に真一に向かう。
「え? なんで?」
佐倉が不思議そうに尋ねる。
「無人島のような辺鄙で危険極まりない場所に千鶴を行かせるわけがないだろう。もちろん、千鶴が居ない場所におれは行かない」
どこまでも千鶴本位な真一だった。
「私は一泊くらいなら無人島に行ってみたいな~」
だが、真一の気持ちを知ってか知らずか、向かいの席で、邪気のない笑みを浮かべて千鶴が呟いた。
千鶴の言葉に真一は即座に応じる。
「……分かった。おれと一緒に行こう。危険な場所が無く、電気水道空調完備の綺麗なロッジのある無人島を探す。夕食はそこで獲れた魚や野草を使ってフルコースが作れるようになっておくよ」
真一が文武両道になった理由を垣間見た仲間達だった。
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