飲み物を取りに行ったら、異世界転移したんですけど!?~でも安心してください! SNSが使えて世界の情報まるわかり!? え!? この世界滅びるの? じゃあ世界救うしかないっしょ! 俺、ハピエン厨なんで~
久遠ノト
プロローグ
その足は確かに歩こうとしていた
――ばかみたいだ、ほんとに。
喉の奥に石が詰まっているのかと思うほどの痛みと苦しみが、永遠と続く。
声を振り絞ろうにも喉奥が閉じて、声ならぬ叫び声しか通してくれない。
藻掻こうものならば、冷たくもゴツゴツとした地面が頬に当たり、擦り傷を付けてくる。
――こんな自分でも、できると思ってたんだ。
腹の中がずっと浮かんでいるような感覚だ。
胸の中央が嫌に熱く、気持ち悪く……吐き気に姿を変えた。
しかし、その吐瀉物は口まで到達することはなく――
喉元から真っ赤な固形物が飛び出して行った。
今まで聞いたことのない音が喉から鳴って、ビチャビチャと汚らしい音を立てて地面に広がっていく。
――喉を突き刺されるなんて、ほんっと……。
浅くなっていく呼吸。
どれだけ喉を手で覆おうとも、血の流れは止まらない。
なんなら、意識すらも喉元から一緒に出ていっているのではないかと思えた。
目がかすむ。
耳がよく聞こえない。
頭がぼーっとする。
色白の手首に見える、赤色の文字が音声波形の形に歪んで何かを叫んでいる。
が、耳の中に透明な膜が張っているような感覚で、心臓の音を煩く跳ね返してくる――段々とゆっくりとなっていく心臓音だけを、だ。
「馬鹿みたいだ……っ、俺」と言ったつもりだったが、ごぽごぽと血の泡を吹いただけで終わった。
地面にか細い手をついて持ち上げようとして……血液を巻き上げながら、固い地面に落ちた。
まるで体に力が入らない。
もはや、痛いという感覚はなくなっていた。
ただ熱く。
ただ苦しい。
そして、喪失感に対する恐怖があった。
自分の中にあるナニカの残量が分かる気がする。
それが無くなった時に待っているのは――おそらく『死』なのだろう。
しかし、無情にも喉元から空いた穴からは大量に血液をまき散らし続けている。
命を削るように。
男に現実を突きつけるように。
今や、辺りで白い部分はなくなっていた。
横たわる視界が赤に塗りつぶされていく。
もはや、息を吸い込んでいるのか、血液を吸い込んでいるのか分からない。
呼吸もできなくなりそうだ。
頭が痛い。苦しい。
「――……どうして」
そんな男の元に、酷く動揺をしているというのに不思議と落ち着きのある声が耳に入って来た。
気のせいだったかもしれない。
いいや、気のせいであっても――気品すらも感じられる声色が珍しく荒立っていることに気づくと、血の海の上に立っている男を見上げた。
目は霞み、顔も服装も色が滲んだように見えなくなっているが……大丈夫そうだ。
「――――は、はっ」
勇ましく笑おうとして、無様で惨めな笑顔をうかべた。
燃え上がるような熱さと突き刺さるような痛みが鈍痛の中で際立って、体を動かすことがままならない。
だけど。
もう一度だけ。
最後の力だったとしても――力を振り絞って体を持ち上げようとした。
「――……かっこわるい、なぁ」
赤髪の男の手が体を支えてくれてるというのに、なかなか持ち上がらない。
かっぴらいた喉元からは、血液が真っ赤な布のように途切れなく地面に落ちていっている。
手が血で滑る。
やっぱり、力が入らない。
体の中にある血液が全部外に出て行ったんじゃないかと思うほど、体が寒い。
寒くて――燃えているようだ。
「――いってぇ~なぁ、これ……! 死ぬかも……けど」
愚痴を呟けど、全てが血の気泡になる。
そんな絶望の状況であっても、やっとこさ仰向けになった男の顔は……満足げに笑っていた。
バシャリと血しぶきを上げ、立っている男のズボンを血で汚しても、笑みが薄れることはなかった。
笑顔だ。
これほどの笑顔を見たことが無い。
だけど、唯一、笑い声だけが聞こえてこない。
しかし、どうでもいいのだ。
どれだけ、カッコ悪くても。
どれだけ、惨めでも。
どれだけ、血にまみれていようとも。
――――ミタは初めて、自分の力で人を助けることが出来たのだから。
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