第848話◆俺達の考えた最強の改装計画

 アベルとカリュオンは昼間は王都で冒険者ギルドの仕事なので、我が家の改装についての本格的な話し合いは夕食後となった。


 みんなちゃんと考えてきたかー!?

 決定は明日ペッホ族と話してみてからになるが、できるだけみんなの要望は取り入れるようにするぞ!!

 ……予算の足りる範囲でね。


 みんなが援助してくれるって言うから、俺だけで出すよりは予算に余裕はあると思うけれど、建物を改装するのは大変なことで資材もたくさん必要でその分費用もかかることだから、あれやこれやと追加しているとものすごい対価を請求されるかもしれないからな。

 物々交換になりそうだが、手持ちで足りる範囲に収めような。


 カメ君、こっそり自分の鱗を剥がさないでいいからね? 対価は渡しても大丈夫のものだけにするんだよ?

 メイルシュトロックも多分やめたほうがいいんじゃないかな? なんならそれは俺が買い取るよ?

 苔玉ちゃんも焦げ茶ちゃんも謎の素材は一度俺が確認するね? うん、場合によっては俺が買い取るからね?

 サラマ君は今日も遊びに来たんだね、それで改装会議に参加するんだね。自称ただのサラマンダーでも鱗はダメだよ、というか鱗を剥がすのは痛そうだから別のものにして?


 夏の日は長く、夕食の片付けが終わった後でもまだ空は薄らと明るい。

 そのため三姉妹達もまだ元気に起きており、今日も夕食時にフラリとやってきたサラマ君も加わって、みんなでわいわいがやがやと我が家改装作戦会議を開催している。

 ラトが酒を持ち出してきたが、昨日強い酒のせいで途中から記憶をなくしてしまったので、今日は作戦会議が終わるまで絶対に飲まないぞ!!

 カクテルが欲しければ作るだけなら作ってやるが、自分は飲まないったら飲まないんだからね!!



「俺はやっぱトイレを増やして欲しいかなぁ。グランがさー、時々トイレで本を読んでたり寝てたりして全く出て来ない時があるんだよね。こないだなんかさ、夜中にトイレで寝てたみたいでノックしても出て来ないから、王都の冒険者ギルドのトイレを借りにいっちゃったよ。そうだ、グラン専用の本棚付きトイレを作っちゃうのがいいかもしれない。それと夜中グランの独り言が聞こえてきて気になって寝られないから、壁にはしっかり防音効果を付与しよ?」

 確かにこの人数でトイレが一箇所しかないのは困るな。

 トイレと風呂と洗面台は元から増やすつもりだったし、俺の中では増やすことが決定している。

 って、なんかアベルのお小言が始まったぞ!? てか、俺の独り言そんなにうるさい!? そんなに独り言を言ってる!?


 トイレで読書は……うん、なんか居心地がいいからついね……ほら、誰にも邪魔されない個室みたいな。

 で、俺がトイレを占領しているから王都までトイレに行っているって、マジ稀少魔法の無駄遣い感が半端ない。ま、トイレで本を読んでいる俺が原因なんだけど。

 そうだな、俺がいくら引き籠もってもいいトイレは欲しいな。本棚まではなくてもいいけれど、小さな棚付きトイレがいいな。


 そしてトイレには俺も色々と希望がある。

 やっぱトイレといったら、便座に洗浄用の温水が出る機能を付けたいし、冬は便座が暖かくなる機能が欲しい。

 これは改装妖精に頼まなくても、便座を買って来て俺自身で改造すればいいな。

 でも洗浄用の湯の温度と勢いには気を付けないといけないけど……。



「俺は今の部屋で満足しているが、あえていうなら部屋に食品を保存できるスペースが欲しいくらいかぁ? 苔玉はなんか希望があるか?」

「キッ! キキキキッ! キキキキキキキッ!!」

「うわ、何だそれ!? 昼間のうちに書いたのか? 相変わらずマメなやつだなぁ」 

 カリュオンは部屋に冷蔵庫的なものが欲しいのかな? それは改装じゃなくてもいいよな?

 いや、クローゼット感覚で扉を開くと肉が吊してあるような冷蔵収納がいいのか?

 それなら、部屋にクローゼットを増やして、一つは冷蔵機能を付ければいいな。仕方ない、俺の加工肉コレクションを少し分けてやろう。

 クローゼットの中に加工肉が吊してある部屋なんて、何か嫌なことがあっても部屋に帰ってクローゼットを開ければ元気が出そうだな。


 ところで、苔玉ちゃんの出してきたその木の板は何?

 うっわ……木の板に木の実のインクのようなもので、改装の要望やペッホ族への対価がこと細かに書かれているよ。

 わざわざ俺にもわかる文字で書いてくれてありがとう。てか、苔玉ちゃんは人間の文字も書けてすごい!


 木の板に希望が細かく書いてあるけれど要約すれば、色々な小物や本を効率的に整理して収納できる棚が欲しいのね。

 うんうん、収納できるだけじゃなくて、それを並べて楽しむってやつだよね。

 わかるー! すごくわかるー! 集めたものは綺麗に並べて自分が見えるように、そして誰かにすぐ見せびらかせるようにしておきたいよなー!!

 その案、俺の部屋にも採用していいかな? そうだな、機能的に収納できて、取り出しも楽で見せびらかかしやすいように、スライド式の前後に何層にもなっている棚なんてどうかな?

 うんうん、これは俺が作ると時間がかかりそうだからペッホ族さんに相談してみような。



「僕は屋根裏部屋を使わせてもらってるんですけど、窓が小さめで風通しがあまり良くないので、窓を大きくするか天窓を追加して欲しい感じですかね。あ、でも屋根裏部屋は気に入っているので、また帰って来た時は屋根裏部屋が使いたいです」

 職業訓練校が夏休みになってうちに帰ってきたジュストは、物置状態だった屋根裏部屋を片付けてそこを自室として使っている。

 屋根裏は好きなように改造して使っていいと言ったら自分好みに改造しているようで、チラッと覗いた時には木箱で作った小さな机や藁にシーツを掛けただけのソファーもどき、木箱や梯子を組み合わせて作ったロフト状のベッドが見え、手作り秘密基地感を醸し出していた。


 それはそれで、すごくいい雰囲気で俺は好きだなぁ。

 ロフトベッドとか、藁のソファーとかベッドとか木箱の机って憧れるよなぁ。

 うんうん、俺も前世ですごく憧れていたからジュストが改造した屋根裏部屋を見ると、何だかワクワクしてくるな。

 でもやっぱ屋根裏だからこの季節は暑いよな。元から換気用の小さな窓はあるけれど人が生活することを想定したスペースじゃないので、屋根裏内の空気は篭もりやすい。

 そうだなぁ、風通しが良くなるように窓を増やしてもらおうか。だけど窓を増やして冬に寒くなりすぎないように、雨戸的なものも付けようか。


 ところでその木箱とか梯子とか藁とかシーツは俺んちのじゃないよね?

 ああ、ギルドの仕事で引っ越しの手伝いをした時に、貰っていいって言われたから貰ったんだ。

 藁は農家の手伝いをした時に? シーツはバザーで布が安かったからつい買ってしまった? いつか使うかもしれないと思って?

 わかるー! 良かったじゃないか、”いつか使う”が本当に使う日がきて。これからもいつかのために備えてしっかりおくんだぞ。



「私は飯と酒と寝床の世話になっているだけで十分なのでとくに希望はないな。三姉妹達は希望がありそうだが」

「ええ! すごくありますわ!!」

「私達専用の部屋が欲しいわ!!」

「ですですぅ、ラトと部屋を分けて欲しいですぅ!!」

「むっ!?」


 ラトはとくに要望はないようだが、三姉妹の要望を聞いて固まってしまったぞ!?

 ははは、年頃の娘に拒絶された父親みたいな顔になっちまってるぞ。

 そうだなぁ、三姉妹はラトと同じ部屋に寝泊まりしているから、これを機に三姉妹とラトの部屋を分けるのもありだなぁ。

 ラトは二日に一回くらいリビングで潰れて寝ているけれど……。


 屋敷自体を増築して部屋数を増やせば、ラトと三姉妹の部屋を分けることもできるだろう。

 でもラトが悲しそう顔をしているので隣同士で、部屋と部屋を繋ぐ扉を付けてもらおうか。扉には鍵を掛けられるようにして。

 せっかくだから三姉妹の部屋は可愛い部屋にしたいなぁ。といっても女の子向けのインテリアはわかんないから、リリーさんに相談してみようかなぁ。


 それからカメ君達は何かある?

 あ、みんな苔玉ちゃんと同じように、希望を書き出してきたんだね。

 カメ君は大きな貝殻に、焦げ茶ちゃんは石版に、サラマ君は何故か上品な紙に、それぞれ要望を俺にもわかる文字で書いたり掘ったりして見せてくれた。


 カメ君は海!?

 いやいや、海は無理だからカメ君専用の池で我慢して? 海水は問題がありそうだから淡水で我慢して?

 焦げ茶ちゃんは地下室にマイスペースが欲しいんだ。

 そうだなぁ、かっこいい地下の隠し部屋が俺も欲しいから、予算を相談して地下室も作れたら作ろう。

 サラマ君はでっかい暖炉?

 ああ、うちの空調は魔石を使った魔道具だから、暖炉はあるけれど使っていないからね。

 暖炉は火災的な意味で恐くて使ってなかったんだ。


「ケッ!」

「ゲゲ!? ゲーッ!!」

「カッ!? カーッ!!」


 おっとぉ? カメ君がサラマ君に向かって煽るように前足の中指を立てたぞぉ?

 それにサラマ君が反応して、バンザイ合戦からのペチペチパンチバトルが始まったぞ!?

 いったい何があったんだ。


「暖炉なんて必要ないからトカゲは焼却炉で燃えていればいいカメ~。山奥に海こそ必要ないから井戸にでも沈んでいるがいいトカゲ~。あ~あ、しょうもないことでケンカになっちゃって、どっちも同じレベルで必要ない……冷たっ! 痛っ!!」

 通訳ついでにアベルが煽るから、カメ君とサラマ君から水鉄砲とサラマキックが飛んでいったぞ。


「で、グランの希望はどんなのなんだ?」

 カメ君とサラマ君の攻撃を食らって、頭を抱えているアベルを横目にカリュオンが俺に尋ねた。


 えへへ、聞かれるのを待ってました!!!

 俺の家だから、俺の希望は全部言っちゃうぞ!! 



「え? 俺は広い風呂にゆっくり入りたいから、風呂を増やしたいなぁ。今ある風呂はそのまま残して、風呂用の別棟でもいいなぁ! それなら広い風呂も可能になるし、ついでにサウナ付きでシャワールームも付属したい。それで増築して部屋数も増やして、収納スペースも充実させたいし、隠し部屋とか隠し通路とかかっこいいよなぁ。そうそう、キッチンも広くしてコンロの数も増やしたいし、オーブンも大型のが欲しい。それからリビングも広げて、バーカウンターを設置して各種酒をズラーーーーーーーーッと並べて眺めながら色んなカクテルを作りたい。そのためのグラスや機具をかっこよく飾って収納できる棚も欲しいし、つまみやカクテル用の氷を保存しておく場所も欲しいな。他にもキッチン裏の物置の棚を効率を考えたものに変えたいし、テラスもお洒落にしたい。倉庫も拡張したいし、家の改装も綺麗にしたい。もちろん悪天候や地震に備えて母屋も倉庫も補強したい。ああ~~~~、万が一やっべーことが起こってもいいように地下シェルターも作りたいし、だったら地下に秘密基地も作りたい。秘密基地も作るなら、からくり仕掛けの部屋も作りたいし、かっこよく変型する家とかでもいい――それからそれから」


「うっわ、息継ぎなしでめっちゃ早口。広い風呂までしか聞き取れなかったよ」

「カ……」

「ゲ……」


 頭を抱えていたアベルが顔を上げてポカーンとした表情になり、ペチペチ合戦の続きを始めようとしたカメ君とサラマ君も、ペチペチの構えの状態で止まってしまった。

 カリュオンはニコニコしているけれど、これは話を聞き流した時の表情だ。


 あ、うん。少し興奮しすぎて早口だったかもしれない。


 もう一回ゆっくり話すから、俺の考えた最強の俺んち計画を最後まで聞いてくれ。




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