第485話◆暫くの休暇

 波乱に満ちた朝練の後は普通に朝食をして――ちょーっと大きな音を出してしまったのが、リヴィダスとシルエットにも聞こえていたので、少々呆れられたけれど、だいたいドリーパーティーではよくあることで流された。日頃の行いってこういう時に役に立つんだな。


 朝食の後は、冒険者ギルドでは解体できなかったバハムートの解体作業。

 その前に検証で綻んでしまったジュストの装備をパパッと修理しておいた。カウンターで消耗した魔力は自然回復をするようだが、石やら氷を投げつけられた分の傷は修理しておこう。

 ドラゴンゾンビの骨君も綺麗に磨いておこうかな。これからもジュストを頼むぞ、キュッキュッ。

 おっ、そうだ、フォールカルテの図書館で回収した沌属性の魔石を少し削って、ベルト部分に嵌め込んでおくか。

 えぇと、魔力の消費軽減と自然回復速度アップ、それから聖属性への耐性を付与しておけばいいかな。俺が沌属性の扱いが苦手だからあまり上手くいかなかったけれど、元が性能の良い装備だから大丈夫だろ。

 うむうむ、元からそこにあったみたいに嵌め込めたな。ドラゴンゾンビ君も気に入ってくれたらいいな。


 バハムートの解体はドリーのコネで、ジュストが通っている訓練学校の解体場を貸してもらえた。今日は学校が休みなので他に人もおらず、使った後に掃除をして道具を元に戻しておけばいいということだ。

 ジュストはここの解体場で解体の実習を何度か受けていて、道具の場所や大型の魔道具の使い方も知っているということで、解体作業を手伝ってくれた。

 解体をしていると今日は休みだというのにジュストのルームメイト達がフラリとやって来て解体を手伝ってくれた。良い子達だなー、良い友達ができたみたいだなー。

 噂はかねがね? え? ジュスト、彼らに何か話したの? なんで苦笑いしているの!?

 解体が終わった後ジュスト達にはお礼にバハムートをお裾分けして、加工方法と料理のレシピを渡しておいた。

 友達とは随分仲よさそうで安心したな。これからもジュストをよろしく頼むぞ!!

 短い時間ではあったが久しぶりにジュストと会えて楽しかったな。また暫く会えないかもしれないが、必ず会いに来るぞ!


 ドリーとリヴィダス以外でひたすらバハムートを解体して、分配が終わる頃には昼を過ぎていた。

 軽く昼食を済ませたら、長かった食材ダンジョンパーティーもお開きだ。

 そろそろ家に帰りたいと思ってはいたが、いざその時がくると案外寂しいものだ。またドリーパーティーに誘われたらチョコチョコとついて行こうかな。

 頻繁じゃなければ賑やかなダンジョンアタックはやはり楽しい。




「それでは二週間ほど休暇だな。集合は冥の月、三ノ竜の日にクルイローのギルドだな。何かあれば冒険者ギルド経由で知らせを出すのでこまめに確認してほしい」

 長いダンジョンアタックの後はゆっくり休暇!!

 ドリーのパーティーは稼ぎが多かった後はとくに長めに休みにする傾向がある。

 しっかり働いた後はしっかり休む!!

 冒険者はめりはりのある生活が大事なのだ。


「休暇中にどこかの町に行くっていうなら今なら転移魔法で連れていってあげるよ。でもお迎えは行かないから帰りは自分でオルタ・クルイローまで戻ってきてね」

「私はこの辺りでのんびり過ごそうかしら。そうね、ジュストがグランの影響を受けすぎてるみたいだから、時々ジュストの様子を見るのも悪くないわね? ドリー、訓練校の臨時講師の仕事があったらやるわよ」

 お母さん、地味に俺を下げていないか? でもリヴィダスがジュストの様子を見てくれるなら安心だなー。

「アタシは久しぶりにこの近くに住んでいる魔女友にでも会いに行って魔女子会でもしてこようかしら。あまり遠くない場所だから送ってくれなくて大丈夫よ。それに魔女は居場所や正体を知られるのが嫌な人が多いのよね」

 魔女子会……それはやっぱナイスバデーな綺麗なお姉様がたくさん集まる夢のような女子会なのだろうか? 俺も紛れ込んでみたいけれどダメ? 女子会だからやっぱダメだよな……。


「アベルが近くまで送ってくれんのか……そしたら、いちにーさん……よし間に合うな。里に顔出してくるか! グラングラン、あの煙がもくもく出てたピザ焼き機を売ってほしい」

 バケツが指を折って数を数えた後、妙なことを言い始めた。

「あれはピザは焼けるが、煙が出て近所迷惑になるから……」

「いや、その煙がいいんだ。ほら、エルフの村って木が多いだろ? 長老の家なんで古い木だから害虫がつきやすいからなー、ピザを焼くついでに煙でいぶして害虫退治!! 久しぶりの里帰り! 長老孝行!!」

 なるほど、そういう使い方もできるのか。それならカリュオンに一つ売るか。


「じゃあ送って行くのはカリュオンだけでいい? どこに送って行けばいいの?」

「アッローロっていう町を知ってるか? オルタ領の隣の隣の隣の隣の更に隣くらいにあるアフィロス男爵領の小さな町なんだけど?」

 アッローロ? 俺は知らないな。

 アフィロス男爵領なら、俺の住んでいるピエモンのあるソートレル子爵領の隣、リリーさんのお店のあるアゲル伯爵領のアルジネの町から、北に進み別の貴族の領地を一つ越えた先の森だらけの小さな領だ。

 あの辺りに広がる森は、俺の家のすぐそばのアルテューマの森とも繋がっているはずだ。アルテューマの森の北側に高い山脈があって、その麓にアルテューマの森を含めいくつもの森が、合体するような感じで広い範囲で広がっているのだ。


「アフィロス男爵領かー、またすごい辺鄙な場所だねぇ。近くにハイエルフの里があるっていわれたら納得する場所だよ。アルジネまででいいなら送ってあげる。帰りもアルジネからオルタ・クルイローまで道中にあるピエモンって町に来たら、当日の朝一緒に連れていってあげるよ」

「おっ。アルジネでも充分助かるし、帰りはピエモンで拾ってもらえるなら更に時間に余裕ができるな。ピエモン側からでも里には行けるけど、あっち側はものすごく森が深いし、森の主様がめちゃくちゃ気難しいことで有名だから通り抜けさせてもらえるか微妙なんだよなぁ。じゃ、アベルにアルジネまで送ってもらってそこで一泊かな。帰りはピエモンに行くからよろしく」

 そのめちゃくちゃ気難しい主様って、うちで酔っ払ってダラダラしているシャモアのことじゃないよな? それとも賑やかで可愛い幼女達のことか?

「ん? アルジネで一泊してくならうちに泊まって、明日の朝アベルにアルジネまで連れていってもらうとか? 俺んちピエモンの目の前だし、俺もアルジネに行きたかったんだ」

 リリーさんにお土産を持っていきたかったんだよな。

「グランがいいなら俺は構わないけど……」

 アベルが肘で軽く俺の腕を小突いた。多分ラトや三姉妹のことを気にしているのだろう。

 まぁ、カリュオンなら無闇に他人に害を加えるようなタイプでも言いふらすようなタイプでもないし、人間以外の存在にも慣れていそうだし大丈夫じゃないかな?

 強いていうならテンションが上がりすぎて何かやらかしそうなくらいだ。三姉妹の中でもやや脳筋気味なヴェルとは混ぜると危険かもしれない。

「お、噂のグラン御殿か! 楽しみだな!」

 どんな噂だよ!


「では、今回はこれで解散だな。二週間後にまただ。グランはまた暫く会えないだろうが元気でな。ハメをはずしすぎるなよ」

「おう、またたまに誘ってくれ。ジュストも元気でな!」

「はい、グランさんもお元気で!」

 住んでいる場所は少し離れているが会おうと思えばいつでも会える。

 しんみりしすぎる必要もない。

 軽く手を上げて別れの挨拶を済ませる。

「それじゃ、まった二週間後にねー」

 アベルがドリー達にヒラヒラと手を振った後、馴染みのある浮遊感と共に視界が切り替わり、潮の香りが鼻をくすぐった。




 そうもう一つのお別れ。

 ドリー達とはまたいつでも会える。しかしカメ君とはこれでお別れをするとまた会えるかはわからない。




「カーーーーーーーーーーッ!!」

 少し……いや、すごく寂し気持ちになったが、景色が切り替わり海の気配を感じると共にすぐ横でカメ君の歓喜に満ちた声が聞こえ、俺の勝手な寂しさは腹の中へとしまわれた。

 目の前に内陸部の町とは違う南の島らしい町並み、そして建物の間を吹き抜けてくる夏の海風。


 ルチャルトラだーーーーーーー!!!





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