第427話◆閑話:赤いギルド長と学ぶ古代竜の生態
ぶぇっくしょいっ!
おっと、すまない。
あぁ、いや、偉大な俺は風邪などひかない。これは風邪ではない、誰かが俺の悪口を言っているようだな。うむ、一っ飛びしてハイエルフの森を焼き払いたい気分になってきた。
ついでに、あの赤毛がまたルチャルトラに来た時に面倒臭い仕事を押しつけたい気分になった。
すまんすまん、些細なことでイラッとしてしまった。
ぬ? 心配するな、バロン。森は燃やさない。ルチャルトラのジャングルではなくとも、自然は大切にしなければならない。
自然は一度破壊すると元に戻るまでは時間がかかる。
ハハハ、少しハイエルフを燃やしたい気分になったが、俺はどこぞの迷惑海竜とは違うからな、無闇に自然破壊はしない。
ハイエルフの森の近くにはテムペストもいるから、燃やすと怒られる。面倒臭い。
だいたい木のくせに暴風なんて名前を持つアイツは面倒臭い。本当に面倒臭い、面倒臭い。
うむ、あの赤毛に面倒臭い依頼を用意しておくだけで我慢してやろう。
おっと、座学の途中だったな。
今日は我々の住むルチャルトラの守護神、偉大なる古代竜シュペルノーヴァ様の話だったな。
ルチャルトラの未来を担う子供達よ、冒険者ギルドで一番強くて一番偉いこのベテルギウス様が直々に講義をしてやるのだ、心して学べ。
ん? いつも講義をしている?
うむ、子供は財産、知識は武器だからな。子供は大切に育て、たくさんの知識を与え、たくさんの道を選ぶことができるようにしてやるのも年長者の責務だ。
む? ギルド長の仕事はしなくていいのか?
こうやって青空の下、島の未来を拓く者達のことを知るのも仕事の一環だ。気にすることはない。
それに部屋に押し込められてする座学は眠いだろう。どうせ学ぶなら気持ちよく、楽しく、実践を交えてのほうが身につく。
そうだ、子供はそうやって世界に触れながら伸び伸びと育てるものだ。
話が逸れてしまったな。
それでは古代竜の話をしよう。
ん? シュペルノーヴァの話はたくさん聞いたから他の古代竜の話も聞きたい?
そうか……そうだな、知識は偏ってはならないな。
それでは、創世の時代から生き続けている古代竜という種族についての話をしよう。
古代竜は不死とも言われる強靭な体に、無限の寿命を持つこの世で最も強くて偉い存在だ。
しかしその反面、繁殖力は非常に低く個体数も少ない。
まぁ、古代竜の数が多すぎると他の生命が営む場所がなくなりそうだしな。今くらいの数で程が良いのであろう。
古代竜は個体が少ない故に、古代竜同士の番となるとどうしても血が近い者同士になってしまい、体が弱い個体や、先天的な難病を持った子が生まれやすく、ただでさえ低い繁殖力が更に低くなり、血の濃い古代竜の個体数が大きく増えることはないのだよ。
む? シュペルノーヴァは大丈夫なのかと?
シュペルノーヴァは古代竜の中でも始祖と呼ばれる、創世の時代から生きる最も長寿の古代竜の一隻である。
始祖と呼ばれる古代竜は古代竜の中でも特別で、最も純粋な古代竜の血を持つ者なのだ。
故に始祖の古代竜であるシュペルノーヴァは古代竜の中の古代竜なのだ。
うむ、そうだ。古代竜の単位は隻だ。若い奴らは適当でいいが、始祖の古代竜は隻と数えるのだぞ、覚えておくがいい。
ん? 血が濃いなら他の種族と番えばいいのではと?
ああ、リザードマンは人間や獣人とも番える種族だったな。
うむ、古代竜も他の種族と番えるぞ。
偉大なる古代竜にとって他の生物に化けることも容易いからな。中には他の種族に興味を持ち、その中に紛れ込んで生活して番を見つける者も少なくないな。
そうやって生まれたのが混血種の古代竜だ。
混血古代竜は混血故に世代を重ねるごとに竜の姿からかけ離れ、混ざった種族の特徴が体に出るという特徴がある。
そして力が強ければ強いほど、その特徴ははっきりと体に表れ、純粋な古代竜の姿とはかけ離れた姿となっていく。
ん? 純粋な古代竜はどんな姿か?
うむ、シンプルで美しいバランスの竜らしい竜の姿だな。
シュペルノーヴァはまさにそのシンプルでかっこいい竜らしい竜だな。
そうだ、始祖の古代竜は全ての竜の源である故、誰よりも竜らしい竜の姿をしているのだ。
ふむ、混血の古代竜はどんな奴かと?
そうだな、昔この近くの海に海竜のクーランマランという、亀に似た暴れ者の海竜が棲んでおったな。
バロンもあやつの被害に遭ったことがあったな。
うむ、わかるぞ、迷惑な亀だったな。
あやつは偉大なるシュペルノーヴァ様にケンカを売ったばかりか、あろうことかシュペルノーヴァ様の縄張りであるこのルチャルトラに津波をぶつけおってな。
沿岸部が大きな被害を受けてしまい、これには寛容なシュペルノーヴァ様も大激怒。あの愚かな亀がすぐに戻って来られない水のない山奥に箱庭を作って封印したのだ。シュペルノーヴァ様が。
うむ、それからこの付近の海は随分平和になったが、クーランマランがいなくなったせいで、ちょーっとシーサーペントやバハムートが増えてしまって騒がしいので、シュペルノーヴァ様もそれの始末をしておるのだ。
そうだ、ルチャルトラだけではなく、海の平和も守ってくれているシュペルノーヴァ様を崇めよ。
ん? クーランマランは封印から出てくることはないのか?
そうだなぁ……、そろそろ改心しておるころかもしらんな。
俺は一人でも生きられる、弱い奴には興味がない。などと粋がっておったので、それならと延々と一人で生きられる場所に入れてやったのだが……。
まぁ、己の力だけでは出られぬ場所故、そこを偶然訪れた者の力を借りることができなければ出てこられぬだろうな。
果たしてあの古代竜としての誇りを拗らせた愚か者が、自分より小さき者の力を借りることができるかな?
まぁ少々時間がかかっても、あそこは時間の流れが速い故こちらの時間の感覚ならさほど時は流れぬだろう。
奴をあそこに埋めたのは、何百年前の話だったかな。あの中は万の時が過ぎているかもしらんな。
……少しやりすぎたか?
元々デカイ木があって大規模な魔力溜まりがあった場所だから、ちょうどいいと思って埋めて適当な仕掛けで封印が解けるようにしておいたら、うっかり魔力が溜まりすぎて、その場所にダンジョンができてしまって、更に合体までしてしまった……何事にも不測の事態は付き物だ。俺は悪くない。
さすがに亀でも万年はキツイか? まぁ、外の世界では数百年しか経っていないし、問題なかろ。
おっと、すまない、少し考え事をして独り言が漏れてしまった。
ん? 古代竜について何故そんなに詳しいかと?
ギルド長ともなると物知りなのだよ、ハッハッハッ!
なんだ、バロン言いたいことがあるのか? そうか、とくにないか。
ん? 純粋な古代竜と混血の古代竜どちらが強いかだと?
それは野暮というものだな。
強さというのは単純なものではない。
知っての通り古代竜に限らずこの世の生き物は持って生まれた相性の良い属性がある。
その属性による得手不得手、地形や気候の条件、その時のコンディション、時の運、他にも色々とあるだろう、その全てが強さに関わってくる。
たった一度や二度の勝負では強さは計れないものであり、強さは常に変化するものである。
そして強さというものは単純に己の力だけが強ければ良いというものではない。
力は弱くとも強い者はこの世にはたくさんいる。
うむ、これは説明するのは少々難しいな。
生き物というものは他者に頼りそして頼られて生きている。
その中で他者に頼らず孤高を貫き、自らの力で生きる者もいる。彼らは自らの力だけでも生きていける強さを持っている。
そうだな、古代竜もそのような強さを持った生き物だ。
だからといって他者と関わらず生きることだけが強さというわけでもない。
共にある者を認め、共に生きるのもまた強さの一つだ。
自分と違う者を認めるのは難しい。自分より優れている者を妬まないのも難しい。また自分の弱さを認めるのも難しい。
世の中には難しいことがたくさんある。その難しいことを乗り越え、成長した先に強さがあるのだ。
そうだな、バロンはそれを乗り越えたから今の強さを手に入れたのだったな。
生きるということは、それだけで強いのだ。
強さにはたくさんの形がある。お前達も成長し自分なりの強さを見つけるのだ。
強さとは他者と比べて優越を計るものではない。
皆違って、皆強さを持っている。ただ、それに気付けぬ者のほうが多いだけだ。
少し難しい話になってしまったか。
いずれ大人になりたくさんの大切なものが増えれば、きっとわかるだろう。
おっと、部下が呼んでいるようだな。そろそろギルドに戻るとするか。
うむ、ギルド長は忙しいのだ。あまり出歩いていると仕事がたまるのだ。
大人は辛くとも書類仕事をしなければいけないのだ。
ではまた、時間のある時に古代竜の話をしよう。
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