第417話◆異形の洞窟

「フハハハハハハハハハ!! これだけ気持ち悪いやつらばかりなら、情けは出てこないぞおおおお!!! 死ね! そして、死ね!! そして、そして晩ご飯になぁれ!!!」

 甲殻類と頭足類のキメラのような魔物を剣でバッサリと斬り捨てた。

「次は、どいつだー!! 死にたい奴はかかってこいよっ! かかってこなくてもこっちから行くけどなああああ!!」

 フハハハハハハ、気持ち悪い魔物に容赦はしない。慈悲などない。

 さっきはネコチャンだったから魅了をされてしまったのだ。ネコチャンなら仕方ないけれど仕方なくないネコォ。


「む、たいした素材もないのにグランが妙にやる気だな」

「さっきニャンドレイクに魅了されたのが相当屈辱だったみたい」

「ハハハ、グランは昔からちょっと変わった動物好きだからなぁ」

「あら、グランの動物、獣人好きは嫌いじゃないわよ。猫が好きなのは大変良い姿勢だと思うわ」

「グランの場合獣系だけじゃなくて、トカゲや虫も、なんならローパーだって可愛いって言うわよ」


 ザクザクとキモ生物を倒しているとパーティーメンバー達が何か言っている。

 そーだよ、ネコチャンにうっかり魅了されたのが屈辱だったんだよ。

 いやいやいやいや、あれはネコチャンではなかった、ニャンドレイクだった!!

 ネコチャンだったら魅了されても仕方ないけれど、ニャンドレイクなんかに魅了されるとは、俺もまだまだ修行が足りない。

 転生開花の使いすぎで少し前世の感覚が強くなってきているのも原因なので、こうして容赦なく魔物を倒して今世の感覚を忘れないようにしなければならない。

 このダンジョンではたくさん魔物を倒したはずなのに、恐るべし転生開花。恐るべし、ニャンドレイク。




 ここは十四階層、異形の生物が闊歩する洞窟。

 この階層に棲息している魔物は、複数の生き物を無理矢理組み合わせたような姿をした所謂キメラ種と呼ばれる異形の魔物だ。

 洞窟のような階層の中を彷徨うように徘徊しており、あまり好戦的ではないのだが、攻撃すると当然反撃してくるし、その強さはBランクでも強い部類からそれ以上の強さのものばかりである。

 ちなみに鳥や獣、竜などのキメラではなく、虫や魚介系のキメラばかりで見た目はわりとキモイ。

 俺が現在進行系で斬り捨てている魔物も、胴体と足はロブスター、頭にあたる部分からはイカのような足、背中にはトンボのような羽が生えている。

 体長一メートル半程のこいつの名前はニャン=ゴというらしい。

 おい、どこにニャン要素があるんだ!? ネコチャンなら許したがお前はネコチャン要素は名前しかないから許さねぇ! むしろ今すぐニャンなんて名乗るのはやめろ!!

 なんだこれは、前の階層でニャンドレイクに魅了された俺への当てつけか!?

 うるせぇ、死ね!! 死ね!!!

 俺の剣で胴体と頭部を切り離されたニャン=ゴは、地面に倒れてまだウゾウゾと頭部のイカ足、胴体の虫足を動かしている。

 さすが甲殻類と頭足類のキメラ、恐ろしい生命力だぜ。

 すごく気持ち悪いだろ? 食べられるんだぜ、こいつ。



 十三階層でマンドレイク掘り中に、聞こえて来たニャンドレイクの声にうっかり魅了されるという屈辱を味わう羽目になったが、その後も思う存分マンドレイクを採取して昼過ぎに十四階層に入った。

 十四階層はパッと見、天然の洞窟のような場所。

 資料によるとやや広い階層だが、わかりやすい大きな道がメインルートになっており、そこを直通すれば十五階層まで迷うことはないということだ。

 ただしあちこちから横穴が伸びており、そちらは複雑な構造になっており非常に迷いやすそうである。横穴に住み着いている魔物は多いようで、それらがウロウロしており、メイン通路にもフラフラと出てくるので魔物との遭遇率は高い。

 まぁ、こちらから手を出さなければ人間にはあまり興味がないのかあまり攻撃的ではなく、ちょっとキモイだけで害は少ない。


 ちょっとキモイといっても、ずっと見ているとなんだか愛嬌を感じるようになってくる。

 うねうねする触手とか、カサカサ逃げていく姿とか、ピクピクするエビみたいな尻尾とか、可愛いといえば可愛い。

 ニャン=ゴはちょっとキモさのが強いが、時々天井から降ってくる黒っぽいイソギンチャクみたいな触手の塊の生き物はわりと愛嬌がある。

 ちょっとウゾウゾする手のひらサイズのタワシのような生き物で、触手の根元にはギョロっとした目と小さな牙がたくさん生えた口。鷲掴みするとニャーニャー鳴いてキモかわいい。

 そのまま、壁に戻してやるとピョンピョン跳ねて天井に戻っていく。キモイけれど可愛い。

 シロイナという名前の魔物で、つい何匹が殺してしまったが、鑑定するとやはり食べられるようだった。

 黒いのに白という名の理由は気になるが、とりあえず後でテンプラにしてみよう。

 困ったらテンプラにすると、だいたい美味しく食べられる気がする。


 時々横穴からひょっこりと這い出してくるのは、ワームとスライムを合体させて大量の目玉と口を埋め込んだような魔物はポミュプ。

 ピローンと伸ばすと成人男性の身長くらいの長さがあり、細長い形で少しとろけた褐色のイモムシのような姿で、末端にいくほど分裂してスライムのようにドロドロとして不定形な状態となっている。その体には、不規則に大量の目と口がついてギョロギョロパクパクしており気持ち悪いの極みだが、倒して鑑定してみればこいつも食べられると見えた。

 少し水分が多いから、これはテンプラは無理なので酢で締めるのがよさそうだ。シンプルにそのまま串焼きにするか、湯がいてタレを付けてもいいかもしれない。


 ちょっとキモくて粘着質な見た目の魔物が多い階層だが、何だかんだで美味しく召し上がることができそうなものばかりである。

 さすが食材ダンジョン。




「ちょっと、グラン? さっきからキモい魔物を倒しまくってるけど、それ夕飯に出てきたりしないよね?」

 ノリノリで出会う魔物を率先して倒していると、アベルが不安そうに聞いてきた。

 そんな心配しなくても、鑑定さんが食べられると言っているから食べても大丈夫だよ。

「え? シロイナは小麦粉の衣を付けて揚げると美味しい気がする。ニャン=ゴは触手の部分は煮ても焼いても揚げてもよさそう、胴体も湯がくか焼くだけで美味いと思う。ポミュプはどうしようか? 串焼きにして醤油ダレでも付けて食べるか、それともビネガーで締めるか」

「やっぱり普通に料理するつもりなんだ。しかも聞いてるだけなら何だか食欲をそそられる気がするけど、俺は騙されないぞ。そのぐっちょんぐっちょんのキモいのとか、ニョロニョロのキモいのとか、ウニョウニョしてガサガサしてるキモいやつなのは、ちゃんとこの目で見てるからね!」

「む? 夕飯にする気はあるけど騙す気はないぞ。それによく見るとシロイナとか結構可愛くないか? ほら、手の上でウゾウゾしてて握るとニャーッて鳴くんだぜ? にゃー」


「ニ"ャー」

「うわっ!」

「あっ」


 ちょうど天井から落ちてきたシロイナをキャッチして、アベルに見せびらかしながら強めに握ったら、力を入れすぎてしまったようでシロイナが変な鳴き声と共によくわからない液体を吐き出した。

 力を入れすぎてすまんかった。


「グラン! それが可愛いってまた変な魅了にかかってるんじゃないの!? いいからそれ、早く倒すか戻すかして!!」

「魅了なんかされてないよ。触手はちょっとじっとりしたもふもふっぽいし、手のひらサイズで普通に可愛いと思うけどにゃー」

「ニャー」

 シロイナを目の前まで持ってきて、その目のある辺りを覗き込むと、シロイナが答えるように目を細めてニャーと鳴いた。

 ほら、可愛い。


「イテッ!」

 シロイナを覗き込んでいたら、頭の上に金属製の手刀が飛んできた。

 手加減はしてくれているが、指先までプレート金属装備のカリュオンのチョップは痛い。

「ハハハ、グランはホント妙な生き物が好きだなぁ。でも小さくて大人しいからといって無闇に覗き込んでると、変な状態異常をもらっちゃうかもしれないぞぉ。確かによく見ると可愛い気がしないでもないけど、目を見るのはやめておいた方がいいんじゃないかなぁ?」

「お、おう。魅了されてたわけではないが、確かに無闇に覗き込んだのは迂闊だったな。とりあえずこいつには愛着が湧いてしまって食べにくくなったので、逃がしてやろう。達者でにゃー」

「ニャー」

 掴んでいたシロイナを壁の出っ張りの上に戻してやると、ニャーと鳴いてダンジョンの天井へ戻っていった。

 うむ、やはりシロイナはキモ可愛い。一匹持って帰りたい。一匹くらいなら持って帰っていい気がする。


「ふむ、あのモジャモジャした触手玉は、俺が調査に来た時にも可愛いと言って持ち帰ろうとした奴がいたな。持ち帰るまではしなくても、攻撃しないで逃がす奴や、こっそりエサをやる奴も多かった覚えがあるな。とくに害はないようだが、油断はしない方がいい」

 わかる、シロイナ超可愛い。だがよくわからない魔物だから、あまり可愛がりすぎるのはダメだな。

「私、猫系の獣人だからわかるけど、あれは自分が可愛いって理解していて、あざとい行動をして生き延びてるタイプよ」

「ああ、わかるわ。人間でもいるわよね、可愛い顔して腹の中は真っ黒なやつ。チョロい系の人は簡単に騙されそうね」

 な!? シルエットの言い方では俺がまるでチョロいみたいじゃないか!!


 しかし、魔物に情を移しやすいのは冒険者としてまずいな。

 転生開花の影響でつい可愛いものに甘くなりがちだが、気を引き締めていかないといけないな。

 よし、その決意としてシロイナ君はテンプラにするにゃー!!


 この後キモ生物を狩りながら進み、夕方過ぎにこのダンジョンで現在進むことができる最深部、十五階層へと到着した。


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