第410話◆マンモス激しい雪合戦

「パオーーーーーーーーーーーーンッ!!!」

「雪! 氷! マンモス! 時はまさに大氷河期いいいいいい!! ぐぼおおっ!!」

「っちょ!? グラン、大丈夫? ふざけてるからそんなことにー……ふぎゃっ!!」


 こちらに向かって爆走してきた巨大マンモスの魔物を余裕綽々でひょいっと躱したら、死角から突撃してきたちっこいマンモスの体当たりをモロにくらって吹き飛ばされてしまい、ふっかふかの雪の上に顔面からダイブをしてしまった。

 ぬあああー、リヴィダスの強化魔法を貰っていなかったら、大ダメージだったぞおおおお!!!

 その様子を見ていたアベルの声が聞こえたので体勢を立て直しそちらを振り返ると、ちっこいマンモスが長い鼻で掴んで投げた雪がアベルに当たるのが見えた。

 ちっこいマンモス君、ナイスショット!!


 いやいやいやいやいや、遊んでいるわけでもないし、遊んでいる場合でもない。

 マンモス君達と物理攻撃ありの全力雪合戦でちょっと童心に返りかけていただけだ。

「グラン~! ボーッとしてるとあっぶないぞぉ~!!」

「え? は? ぐほあっ!!」

 カリュオンの間延びした声が聞こえてきたと思ったら、ドデカマンモスの投げた巨大雪玉がすでに目の前まできていて避けられなかった。


 ここは九階層、雪と氷に覆われた真っ白な世界。

 現在、その雪原に棲むマンモス君ファミリーと絶賛雪合戦中……じゃない、戦闘中である。





 七階層を出発して荒野が広がる八階層を最短ルートで抜けて、雪と氷に覆われた九階層へ。

 火山、荒野、雪原という気温ジェットコースターで、体がおかしくなりそうな環境変化である。

 何が辛いってさ、雪原に入ってから寒冷地用装備に着替えるのは遅いので、八階層から九階層に入る直前で装備の交換。つまり時間は短いがくっそ暑い場所で防寒装備を着けるという地獄のようなことをしないといけないのだ。

 耐寒系の付与がされた装備に加え、靴は雪や氷の上でも楽に移動できる付与がされているものに履き替える。

 そしてまたゴーグル。

 寒さや雪以外にも白い雪に反射する光から目を守るための付与も光耐性も付与されている。

 くそ暑い荒野の出口で寒冷地用の装備に着替え終わったら、九階層に突入。


 がっつりと雪に覆われている九階層は、最も人が通る十階層への直通ルートはある程度雪が掻き分けられ歩きやすくなっているが、それ以外の場所は踏み込もうという気持ちを、見ただけでへし折られるほどの雪が積もっている。

 まぁ、その歩きやすいメインルートですら、吹雪が来ると埋もれちゃうんだけどね。

 とてもではないが人間が普通に活動できるような場所ではない。


 しかしそんな場所でも活動するのが冒険者。そして、さすが魔法のある世界! 降り積もった雪の上でも歩ける装備だってある!!

 というかそういうものなかったら、雪に閉ざされたダンジョンの攻略とか無理無理の無理だろ!?

 移動速度重視で雪の上を滑る系の装備、雪の上でも歩ける装備、雪を掻き分けてくれる装備など色々な便利そうなものがあるのだが、今回は突然飛び出してくる魔物を想定して、降り積もった雪の上を歩くことができる装備だ。

 と言っても地面と全く同じように歩けるわけではなく、積もった砂の上を歩く感覚で油断をすると足を取られる。

 そしてドリーくらいの巨漢だと装備を着けていても時々ズボッといくし、カリュオンもバケツの重量でズボッといっている時がある。それでも掻き分けて強引に進むのでドリーとカリュオンの後ろは比較的歩きやすい。

 なんというか、ヒグマと除雪バケツかな!?

 ちなみにこのもこもこ積もる雪の中に魔物が潜んでいることも多く、その気配は非常にわかりにくい。

 近くまで行くと雪の中から突然ボコッて出てきてびっくりする。


 そんな厳しい環境の階層なので当初はこの雪原を抜けた先、十階層の入り口にあるセーフティーエリアまでは直通の予定だったのだが、他の属性よりお高い氷の魔石と脂身たっぷりのマンモスの肉に全力で釣られてしまい、少し寄り道したらマンモスファミリーと大乱戦が始まってしまった。

 人間が脂の誘惑に抗うのは難しいので仕方ない。


 過酷な環境の階層のため、あまり無理はしないでおこうということで、はぐれてウロウロしている小振りなマンモスをお行儀良く狩っていたんだ。

 気付いたらでっかいのが混ざっていた。


 あれ? お父さん? お母さん? あ、でっかいの二匹いるね? ご両親かな!?

 なんだか中くらいのやらちっこいのやら増えてない? もしかしてファミリー?

 そうだよね、マンモスってわりと群れている系だよね。子供が狩られていたらそりゃ助けに来るよね。

 へぇー、マンモスってこんなに子だくさんなんだー!?

 パパパパパパパーーーーーーーンッ!!!

 げえええええ!! 雪の中からニョキニョキマンモスが生えてきたあああ!!

 ぎゃーーーー!! マンモスタックルやめてーーーー!!

 マンモススーパー雪合戦もちょっと遠慮したいかな!?!?


 一番でっかいやつは、氷耐性特化のバケツに着替えたカリュオンが相手をしてくれているのだが、時々暴走してこちらに走ってくることもある。

 そしてデカイのに気を取られているとマンモスファミリーのマンモスジュニア達が、死角から突進してきたり雪玉を投げてきたり。

 お行儀良くマンモスを狩るつもりが、近年稀に見る大修羅場である。

 装備のおかげで雪の中でもそれなりに動けはするけれど、やはり普通の環境に比べると動きは鈍くなるし、同じ動きでも体力の消耗が激しい。

 ランク的にはドデカマンモスより、火山で戦ったレッサーレッドドラゴン君やヴォルケニックルーラー君の方が高いはずなのが、環境のせいでめちゃくちゃ泥沼の戦いになっている。

 あっ! 泥沼だからって雪玉にドロや石を混ぜるのやめて! 痛っ! めっちゃ痛っ!!

 ぐあああああああああああ!! 雪玉に気を取られていたら横からマンモスジュニアタックルくらったああああ!!


「いい加減にしろおおおおおおおおお!!」


 あまりに白熱する雪合戦に温厚な俺もついに堪忍袋の緒が切れて、少しまろやかに威力を調整したインフェルノハイポーションを投げた。

 うむ、ここは平地だから大丈夫。

 マンモスだから重要な素材は肉と牙だし、毛皮が多少燃えるのは問題ない。


「あら、グランは素材を気にせず炎を使うのね。じゃあ、アタシも使っちゃおうかしら」

「だよねー、もうこいつら絶対に許さないから」

 飛び交う雪玉を浴びてすっかり雪まみれになっているアベルとシルエットも火魔法を使い始めた。

 いいぞ、もっとやれ!!




「いやー、正面から小細工なしで突っ込んでくる相手は清々しくていいねぇ。しかもでっかい相手だから力比べのやりがいがある」

 いやー、俺にはその理論はよくわからないなー!!

「ふむ、体を動かしたら暑くなってきたし、雪の中の活動にも馴染んできたな」

 いや、寒い! 冷たい! めちゃくちゃ体が痛い!! はやく次の階層に行きたい!!

 前衛二人は雪まみれで満足げな顔をしているが、俺としては酷い目に遭ったという感想しかない。


 マンモスファミリーの制圧も無事終わって、倒したマンモスを回収しながらの休憩タイム。

 最終的に雪と氷に覆われた場所で火を使ったため氷と雪が一部溶けて、それが気温が低いためすぐに凍ってしまい、その部分がトゥルットゥルッのアイスバーン状態である。

 うむ、カッとなってやった。少し後悔はしている。


「ホント、ここの階層嫌い。マンモスの肉も氷の魔石も手に入ったし、さっさと抜けちゃお」

 ものすごく不機嫌そうなアベルは、マンモスファミリーの雪玉攻撃ですっかり雪まみれである。

「そうね、火魔法バンバン撃つのは楽しいけど、そろそろ雪には飽きてきたわ。めんどくさいから、出口まで雪を火魔法で溶かしたらダメかしら?」

 やめろ、そんなことをしたら溶けた雪で洪水が起こりそうだし、この気温だとすぐに凍って足元がトゥルトゥルになる。しかも大規模な魔法を使ってまたマンモスファミリーなんかが出てきたら修羅の雪合戦再びだ。

 ん? 良いこと思いついた。


「ルートに沿って雪を回収して道の外に捨てながら進むと楽かも? もしくはアベルの魔法で転移させるとか?」

 俺って天才では?????

「大量の雪を出し入れしてどんだけ魔力を使うと思うの!? 転移も同じだよ!! それなら普通に雪の上を歩く方がいいでしょ!!」

 言われてみたら確かにそうだった。

 だが雪を回収する利点もあるぞ?

「雪を回収してストックしておけばいつでもどこでも雪崩を起こせるし、いつかどこかで何かに使うかもしれない」

 合法的に超範囲攻撃を俺も使えるようになれるじゃないか! 土石流と使い分けしてもいいな!!

 それに他にもなんか大量の雪って使いそうな気がする。

 ルチャルトラのような雪の降らない場所に持って行くと、子供達が喜びそうだな。バロンも喜びそうだな。

 よっし、お持ち帰り決定!!

 ついでに、満タンまで雪を回収して捨てるを繰り返せば収納スキルが上がるかもしれない!!


「どこでも雪崩って何考えてるの!? それにいつかどこで何かに使うって、それただのグランの収集癖でしょ!? あっ! すでに回収し始めてる!! 何やってるの!? また収納が溢れるんじゃないの!?」

 アベルが何か言っているけれど、アーアーアーアー聞こえなーーーい。

 しかしたくさん持って帰ると収納がきつくなるからな、適当に道を作ったらいらない分は捨てて、雪崩一回分くらいだけ持って帰ろう。


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