第405話◆白熱! ビーフバレーボール!!
何が困るってさ。
このペースでいくと足りなくなるんだよ、瓶が。
レッドドレイク二体に、レッサーレッドドラゴン一体ってさ、どんだけ血液回収できると思ってんだ!?
「ごっめーん! 待ったーーーー?」
「ぎゃーーーー! 追加きたーーーーーーー!!」
昨夜、夕食後にドレイクを解体しようとしたら、カリュオンとシルエットがやって来て手伝ってくれると言うので、ドレイクより先にレッサーレッドドラゴンを解体した。
その間アベルが、周囲を警戒してくれていた。
そうだよな、高級素材ちゃん解体する時は念のため周囲を警戒しておかないといけないよな。Aランク限定エリアで比較的治安がいいといっても念のためな。
それから一眠りして、見張り中はコカトリスとフェニクックの羽をひたすら毟って。
朝食の後、みんなが七階層の探索へ行くのを見送って、俺はセーフティーエリアの簡易解体場でレッドドレイクの解体。
がんばったけれど時間的に二匹目は無理そうなので一匹だけにして、山のようにあるコカトリスとフェニクックを処理していたら、超ご機嫌のカリュオンを先頭にパーティーメンバー達が戻って来た。
ピエモンの冒険者ギルドで中古品の血抜き用の魔道具を売ってもらったおかげで、血抜きの効率はものすごく良くなった。
速度も量も品質も。
おかげで、このペースでランクの高い竜種や亜竜種を狩ることになると、持ち込んで来た保存用の瓶が足りない気がしてきた。
ゴリラ達が手加減してほどほどで帰って来ますようにと思ったら、追加で二体のレッドドレイクが持ち込まれた。
一匹減って二匹増えた。
レッサーレッドドラゴンじゃないからまだいける。いけるけれど、瓶の在庫が減ってきてソワソワしてしまう。
うん、足りなくなったら鍋にでもとりあえず入れておこうかな? 最悪そのまま収納に――実際はそんなことはないのだが、収納が血なまぐさくなりそうな気がするのでなんかいやだ。
そういえば坂道で転がすために樽もストックしていたなぁ。あの樽を綺麗にして使うか。
アッ! いいこと思いついた!! 瓶が足りなくなったらダミー用のマジックバッグの中身全部出して、ここに突っ込んでしまおう。深刻な瓶不足はだいたい解決した、よっし!
うむ……追加されたレッドドレイクは、とりあえず収納に突っ込んでおいて今夜がんばろう。
俺達が野営をしたのが六合目付近にある洞窟内のセーフティーエリア。この洞窟を奥まで進むと八階層目への入り口がある。
つまり七階層の六合目から上は、八階層に直通すれば踏み込まない場所なのだ。
で、この六合目から上に何があるかっていうと、七階層のフロアボスのレッサーレッドドラゴン君が山頂の火口付近に住み着いている。
しかし彼は俺達が倒してしまったので、次に出現するのは倒してから一週間後らしいので、この階層はしばらくボスが不在になる。
ボスが不在でも他の魔物はいるし、ドレイクを始めとする高級素材君がいるので稼ぎのいい階層である。
更に六合目から上にはレッサーレッドドラゴンほどではないがレッドドレイクよりも強い魔物が棲息しているし、宝箱の発見報告も多い。
その中でも特にランクが高いのがヴォルケニックルーラー――火山の統治者なんていうご大層な名前の付いた牛。
フロアボスがレッサーレッドドラゴンだから、そっちが統治者じゃないの?
彼はただのボス? 住み着いているだけ? 名前を付けた人の趣味? かっこいいじゃん? うん、わかる。かっこいいは正義。
このヴォルケニックルーラー、名前もかっこいいけれど見た目もかっこいい。
めちゃくちゃ筋肉質でマッチョな牛で大きさは十メートル弱。ものすごく立派でかっこいい角が生えている。
そしてこのヴォルケニックルーラーの最大の特徴は、全身が炎に包まれているということ。
なんだこの生き物!? セルフ焼き肉か!?
フェニクックも炎に包まれていたが、あれは不死鳥種というそういう生き物だから気にしない。
ヴォルケニックルーラー君、牛なのに火に包まれているのだ。ものすごくこんがりしていて見ているだけでお腹が減る……わけないよ!!
めっちゃムキムキ!! 俺、知ってるよ。君、ダブルマッスルっていうやつだよね!? あれ? ダブルマッスル君なのに、角もすごく立派だね!?
あ、ダンジョン生物だから気にしたらダメ? かっこいいじゃん?
そうだね! かっこいいね! お願いだから、それで突き刺してこないでね!!
それにその燃えさかる炎と滲み出る闘争心、あふれ出る殺意。
わかる、めっちゃ好戦的でめっちゃ強いやつだよね!?
これ、わざわざ触る必要ある!?
ああ、このダンジョン固有種で個体数も少ないから、希少性という意味で素材がお高い。
立派な角はコレクターにも需要がある。
確かに金のにおいはするけれど、無理に触らなくてよくない!?
あ、他では見ない魔物だから触って見たかった? 主にバケツが? 牛肉を食いたかった? リヴィダスが?
そんなわけで、昼ご飯の後は山を登りヴォルケニックルーラー君に会いに来た。
その住み処は山頂手前の岩棚の上にあるほら穴の中。
俺達が住み処の岩棚の下まで来ると、炎を吹き上げながら住み処のほら穴から飛び出して、そのまま斜面を駆け下りてきた。
こんなやっかいそうな魔物でもゴリラ達ががんばって普通に穏便に平和に倒せれば、何の問題もないんだよ!!
そう、普通に、穏便に、平和に倒せれば何も問題ないんだよおおおおお!!
「グランー! そっちにパーーーッス!!」
「やめろおおおおおおお!! 俺の盾スキルだとこんなやつ受け止められねええええ!!」
突進してきた牛をカリュオンが力任せに盾で押し返し、その巨体がまるで弾き飛ばされるようにこちらにふっ飛んで来た。
その大きさの敵を盾で弾き飛ばすのか!? すごく便利そうで羨ましいな!!
それ、俺の盾でもできる? ちっこいウッドなバックラーならあるけど? やっぱ、無理だよねえええええ!?
俺の近くに着地した牛君は怒りも露わに前足で地面を数回蹴った後、頭を下げて俺の方へと突進してきた。
「あっぶねっ!!」
全然穏便じゃないし平和でもないし、牛が飛んで来るのは全然普通じゃねえええ!!
慌てて牛の攻撃をかわしたが、牛の勢いは衰えずそのまま進行方向にいたアベルの方へ。
「うっわ、こっち来た!!」
その牛をアベルが空間魔法で向きを反転させた。その先にはリヴィダスが。
「私もいらないわよ!」
突進してきた牛の前にリヴィダスが光の壁を出すと、それに触れた牛がポーンと弾かれるように跳ねて今度はシルエットの方へ。
「やだ、こういうのは近接の仕事でしょ!」
牛君の前に黒い謎空間が出てその中に取り込まれたと思ったら、ドリーの目の前に黒い空間がパカッと口を開けて牛君が吐き出された。
沌魔法のショートワープ便利だな。
「ぬお!? こいつは熱すぎるからなぁ、カリュオン、タンクが責任を持って引き止めておけ」
熱いと言いつつ剣ではなくタックルで目の前に出てきた牛をカリュオンの方へと押しやった。
「よっ! おかえり、牛君っ!」
なんだよ、この牛のなすり合い!!
なんでこんななすり合いになるかというと、ヴォルケニックルーラー君がメラメラ燃えすぎて、さすがのカリュオンも張り付きっぱなしだと、スキル効果の切れ目にダメージを受けるらしく、スキルを更新するタイミングで誰かに牛をパスするのである。
カリュオンで熱いものが他の者に耐えられるわけがなく、こうして牛をなすり合うというか投げ合うような状態が発生してしまうのだ。
なんだこれ!? ビーチバレーボールならぬビーフバレーボールか!? まったく楽しくない命がけのバレーボールだな!!
あれ? バレーボールってなんだっけ!? あ、そうそう前世にあった球技!!
アーッ!! すっげー無駄なことに転生開花のギフトを使った気がするぞおおお!!
やだー! 前世の思春期真っ只中の記憶じゃないですかーーー!! うっ……反動で当時の黒歴史が一緒に……っ!!
それでこの牛君さ、炎にまみれた突進攻撃の他に、炎をまき散らしながらその巨体で踏みつけてくるし、当然のように炎のブレスや火魔法も使ってくるし、深紅のバケツのカリュオンも持て余し気味なんだよね。
もしかしてこいつ、レッサーレッドドラゴンと同じくらい強いのでは?
さすが火山の統治者。
うっかりレッサーレッドドラゴンが生きている状態で、こいつと同時に相手する状況になったらとか想像したくないな。
そんなことになったら多少トレインになったとしてもセーフティーエリアに一直線で逃げ込むな。
それでもカリュオンとドリーなら喜々として二匹同時に相手をするのだろうか?
……昨日のうちにレッサーレッドドラゴン倒せてよかったな。
「おーい、グランー、そっちに牛がいくぞーーー!!」
「へ? げえええええええええええ!!」
少しボーッとしていたらまた牛がこちらに飛んできているのが見えた。
他のパーティーが通ったら危ないでしょ!!
ギルドの規則にはないけれど、燃えさかる巨大牛でバレーボールをしてはいけません!!!
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