第404話◆ベヒーモタンインゴット
「ほかほかおコメにとろろイモをかけて~、とろろご飯といったらやっぱこれだよなぁあああ!! ベヒーモドキタンインゴオオオオオオオット!!」
昨日倒したベヒーモドキのタンを収納から取り出して、その大きさにうっとりとする。
スライスする前のベヒーモドキのタンは、まさにブロック。料理に使いやすい大きさにカットしても延べ棒。つまりインゴット。
少しグロいけれど、高級食材の塊である。
えへへ……今日は褒められちゃったから高級食材をドーーンッと、というか元々ベヒーモドキの肉にするって話だったしな。
そのベヒタンインゴットを食べやすく、それでいてボリュームある厚さに切る、そして焼く。
余計なことはしない、シンプルに塩胡椒だけでいい。もしなにか味を付けるなら、ご飯の上に載せた後、ほんの少しニンニク醤油を垂らすくらいでいい。もう少しアクセントが欲しくなりそうなので、ツン辛な薬味も用意しておこう。
少しだけ麦を混ぜて炊いた米と焼きたてのベヒタン、そして摺りおろしたばかりのヤマイモはそれぞれ別の器に盛る。
ほんとね、ヤマイモをくれた冒険者さんマジ神。あの冒険者さん達に食材の神の加護がありますように!!
そしてこの献立ならスープはミソスープ。アベルは単品だと味噌のにおいが少し苦手なようだが、スープなら平気らしい。
それから一口サイズに切ったララパラゴラの塩漬けを二切れほど添えておくか。
どっからどう見てもベヒーモドキタンとろろ定食だ!! タンはめちゃくちゃ大盛り!!
今日はレッサードラゴン相手に危ない場面もあって、最後の最後で体力を消耗したからな、いくらでも食べられる気がする。
きっとみんな胃袋がマジックバッグ状態になっていると思うので、米も肉もおかわりをたくさん用意した。
ヤマイモはもらい物なのでおかわりはない。
「グラン、奇声を上げながら料理してると他のパーティーから変な目で見られるよ?」
え? 奇声? 俺がいつそんなことをしたと言うのだ?
ベヒーモドキタンインゴットを前に少しハイテンションになりながら料理をしていたら、アベルが怪訝そうな顔をして覗きに来た。
「俺がいつ奇声を上げたと言うんだ」
「奇声を上げてるだけじゃなく踊りながら料理してるよね? あきらかに変な人だよ。ほら近くのパーティーの人達が笑ってるよ」
え? 踊っていた? 少しテンション上がりすぎてヤマイモを摺りおろしながら、クネクネくらいはしていたかもしれない。
思わずキョロキョロと周りを見ると、ちょっと離れた場所で野営をしているパーティーのお姉さんと目が合ってクスクスと笑われた。
どうやら無意識のうちに変な踊りを踊っていたようだ。
ここは七階層のセーフティーエリア。
今日も一日よく狩ったので、たくさん食べてゆっくり休むのだ。
七階層から八階層への入り口は火山の六合目付近にある洞窟の中にあり、セーフティーエリアはその洞窟の中――八階層への入り口手前にある。
この洞窟の中は元から魔物はいないらしく天然のセーフティーエリア状態だ。
しかし、魔物が迷い込んで来る可能性もあるため魔物除けの結界はちゃんと張られている。
たまに火山性の地震はあるが、丈夫な洞窟のようで崩壊の危険はないようだ。それでも安全のため、洞窟内の壁は機材が持ち込まれて補強されている。
そしてこのセーフティーエリア、なにが素晴らしいって、隅っこの方に天井から滝のように湯が流れ落ちている場所があるのだ。
流れ落ちてきた湯は小さな泉をつくり、そこから更に洞窟の地下へと流れて行っている。
流れて行った先にどうなっているかはわからないが、まぁダンジョンの中のことなので考えるだけ無駄だ。
そんなことよりお湯!! そう温泉!!
この湯は飲むこともできるようで、ここで休んでいるパーティーがこの泉で水を補充している姿が目に付いた。
泉の大きさは小さく、湯の温度は高めで飲用にされている場所なので浸かることはできないが、湯を桶に汲んで水を足して温度を調整してから足を浸けると絶対気持ちいい。
食事の後にこっそりやるんだ。ついでに温泉の湯も持って帰るんだ。
「お、昨日のベヒーモドキか」
「あら、コメじゃない。オーバロでたくさん買っていたやつね」
「これヤマトコか? 故郷にいる頃は嫌というほど食ってたなー。そういえばユーラティアではあまり見ないな」
「あることはあるよ。でもこれ汁で痒くなる人もいるから、田舎の方でしか食べてないと思う」
「あら、ヤマトコは美容にもいいし、お腹を整える効果や疲労回復効果もあるのよ」
料理ができ上がり食卓に並べていると、腹ぺこゴリラ達がわらわらと集まって来た。
カリュオンはその故郷の話、後で詳しく聞かせろ。
ヤマイモ――ヤマトコはダンジョンや山で時々見かけるが、あまりメジャーな食材ではなく市場ではほとんど見かけない。食品としてより乾燥させて粉末にしたものを薬草屋で見かけることの方が多い。
俺の故郷の山にもあったけれど、食べられるやつと食べられないやつの見分けづらいし、ほとんど食べられない方だったんだよな。
「ん、ヤマトコはどうするの? そのまますすると口の周りが痒くなりそう」
お上品なお貴族様組にはヤマイモをすするのはハードルが高そうだな。だが、今回はすすらないから安心しろ。
「これは、ちょっと醤油を垂らしてから米にかけて混ぜて食べる! その時一緒にベヒーモドキのステーキを載せて食べると美味しい!」
タンステーキにはやっぱとろろご飯だよなぁ。
「なるほど、こうして混ぜるとツブツブ感がなくなるな」
そういえばドリーは、米のツブツブの集合体が苦手だって言っていた気がする。
大丈夫、とろろご飯にすればするっと食べられる。とろろご飯は飲み物。
「おぉ、懐かしいな。故郷にいる頃にも似たような食べ方をしてたなぁ。俺の故郷だと麺にかけて食べるんだよなぁ」
む? カリュオン、その麺の話も、後で詳しく聞かせろ。
「これはベヒーモドキの肉でも舌の肉ね。さすがグランだわ、美味しい部位をわかってるわね」
「舌ってあっさりしてるのに歯ごたえはよくて、どんどん食べられるのよねぇ。やっぱりグランは酷い男だわ」
さすがリヴィダス、タンのよさを知っているようだ。シルエットが食べ過ぎるのは俺のせいじゃねぇ!!
さぁ、全員揃ったところで夕食の開始だ。
「ところで、この後は荒野、雪原と厳しい環境のエリアであまりうま味もない。明日はもう一日この階層に留まってレッドドレイクを狩ることにしないか?」
分厚いベヒーモタンととろろご飯のコラボレーションを堪能していると、ドリーが明日の予定の提案を始めた。
「レッサーレッドドラゴンは一度倒すと、一週間くらい次のは出てこないしねぇ。もうあんな酷い目には遭わなさそうだし、明日なら効率よくレッドドレイクが狩れそうだね」
ん?
「じゃあ明日はレッドドレイク狩りかー。レッサーレッドドラゴンの巣を漁りに行くのも悪くないな? あのひっくり返って寝てるサラマンダーを全部掻き集めてみるのも楽しそうだ。フェニクックの群も楽しそうだったけど、アイツらは棍棒で殴ると潰れるからなー。上の方はなにか強そうなのいるんだっけ?」
なんか明日も大型の魔物が追加されそうな流れになってきたぞ?
あと、バケツはサラマンダーを根こそぎ狩ろうとするな。
「ギルドで見た資料に燃えさかる牛がいるってあったわね。牛肉も悪くないわね」
「火山だから仕方ないけど、火に強い敵ばかりで面倒くさいわね。雪原の階層に行ったら火魔法を撃ちまくりたいわ」
やめろ、それは雪崩が起こる危険があるからやめろ。
このパーティー頭ゴリラかっ!
ゴリラ達が喜々として明日の予定を話し合っているが俺には不安がある。
「あのー、明日もこの階層にいるなら明日一日……半日でいいから荷物整理の時間を貰えないかな? 午前中だけでもいいや、今日の獲物は数も多いし大型が三体もあるから解体に時間がかかるし、そのままだとしゅ……マジックバッグの場所をとるので解体しておきたい」
この状態で更にレッドドレイクなんか持って来られると溜まる一方になってしまう。
それに燃えさかる牛だぁ? それ絶対にでかい系の牛だよな!?
うむ、一度荷物整理したい。
「む、そうだな。今日は大物が三体もあったしな。では、明日は午前中はセーフティー周辺でレッドドレイクを探して、午後からはグランと合流して上の方を散策することにしよう」
俺の希望を聞いて貰えてよかった。溜め込みすぎて入らなくなったらもったいないからな。
よぉし、食後は今日の戦利品の整理をするかー。
みんなが起きているうちに大型のものの解体を手伝ってもらって、細かいのは見張りの時間にやるかなー。
と張り切ったものの、フェニクックのあまりの多さに白目を剥くことになった。
おかげで温泉の湯で足湯をする時間もなかったし、ものすごく鳥臭くなって朝からアベルに浄化魔法をシュッシュッとされまくった。
しばらく鳥系は見たくない。
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