第388話◆肉から始まる今日一日

 金シャモア君との遭遇から一晩明けて、朝食タイム。

 昨日、夕食の後にランポペコラを捌きすぎて、口の中がすごく羊だったので朝からラムチョップにしてやった。

 ランポペコラの肉は柔らかく、獣臭さもないので俺の中ではラム!! だからこれはラムチョップ!!

 フライパンで焼くだけお手軽簡単ラムチョップ!!

 味付けは軽く塩コショウをしたニンニク醤油味とハーブソルト味だ。

 肉を焼いていると臭いに釣られてみんなゾロゾロと起き出して来て、肉々しい朝食の時間だ。


「肉はいいね~、腹と心を満たしてくれる」

「朝ご飯で一日の気分が決まるのよね。魚もいいけど肉もいいわねぇ」

「そうね、朝食べた肉は魔法を使えば全て消費されるからいくら食べても贅肉はゼロね」

 朝からガッツリと肉ばかりなのは嫌がられるかと思ったが、今回のメンバーは肉食系ばかりだった。

 カリュオンは両手に骨付きの羊肉を持って頬張っている。誰も横取りしないからゆっくり食えよ。

 リヴィダスは猫獣人だからな基本肉食だよな。シルエットはー……、この様子だと今日はゴリラ組みにシルエットも参戦かなぁ。

 朝から皿に山盛りのラムチョップだなんて、家でのんびりしている日は少し胸焼けがしそうなメニューだが、ダンジョンテンションだと起き抜けでも肉厚メニューがすいすいと腹に収まるんだよな。

 ダンジョンはホント不思議な場所である。


「はー、朝は一日の始まりだからやっぱり肉だよねー。肉に始まりに肉に終わる、まさに人生。そういえばグラン、昨日こっそり抜け出してシャモアに会ったって言ってたっけ? 見張り番をしてたら血まみれで帰って来たからビックリしたよ」

 なんとなく哲学風に聞こえるが意味がわからない。

 昨夜は金シャモア君の血を浴びて帰って来たせいで、見張り中だったアベルを驚かせてしまった。

 血で汚れた装備はアベルに浄化魔法をかけてもらって、大まかな話だけして詳しい事は朝食の時に話すと先延ばしにしたんだっけ。

 

「ああ、うん。まぁちょっと色々あって、シャモアの血がかかってしまった」

「む、シャモア? ああ、カモシカみたいなやつだな。たしか三階層でカモシカ系のような魔物の目撃情報はあったが詳細は不明なままのやつだな。うむ、朝から肉の塊も悪くないな」

「カモシカっぽいのなら俺も調査の時にも見たけど攻撃したらすぐ逃げちゃうんだよね。ああ、今ならあれはカモシカじゃなくてシャモアだなって思う。帰ったらシャモアに訂正するように報告しとかないとね」

 うむ、ラトを見ていなかったら俺もカモシカ系の何かだと思っていた。

 あの辺の角が二本生えている系は牛、山羊、羊、鹿くらいしか見分けがつかないんだよおおお!!


「で、グランはそのシャモアと戦ったのか? 報告によると、こちらから手を出さなければ攻撃をしてこないタイプだが、戦闘になると足は速く魔法も使いかなり手強い。そのくせ追い詰めるとすぐに逃げていくしで、今ではあまり触る者もいないみたいだな。単体で行動しているみたいだし、素材のうま味はあまりなさそうな魔物だ」

「ああ、俺が会ったのも一匹でフラッと出てきて戦ってはないな。角や肉が素材になるとしても、一匹だけだと仕留めるのに時間がかかってしまうと効率が悪いしな」

 金シャモア君に矢が刺さっていたのは、冒険者と戦って逃げて来たからだろうか。

 あれだけ深々と矢を撃ち込んで生きているのなら仕留めるのは大変そうだなぁ。

「そうそう、追い詰めたと思ったら大きな地震起こされて、地面が割れたり陥没したりで逃げられたんだよねぇ」

 アベルの魔法からも逃げたということは、とんでもなくしぶとそうなシャモアだな。

 ああ、資料にも高位の土魔法を使うってあった気がする。地面が割れるほどの大地震ってやべーな!?

 攻撃しなくてよかった。たぶん俺一人では倒せないやつだったな。


「あら、戦ってないのに血まみれで帰って来たなんて、何かあったの?」

 う……、リヴィダスお母さん鋭い。

 さすがにダンジョンで魔物を手当したって言ったらマズイよなぁ。

 冒険者から逃げてきたっぽい魔物だったし。

 俺が魔物を手当したことにより他の冒険者が被害に遭う可能性があるため、本来はそういう行為はしてはいけないのだ。

 だってー、ラトに似てたしぃー。

「グラン、何かやましい事を隠してるでしょ? 目が泳いでるわよ」

 うげっ!? シルエットも鋭いな!? さすが、お師匠様!

「ははは、グランのことだからどうせそのシャモアを餌付けしたとかじゃないのかい? 血まみれだったってことは怪我した魔物でも手当したのかな?」

 おい、バケツ。普段は脳筋のくせにこういう時だけ無駄に鋭いな!?

 言い訳を思いつかなくてめちゃめちゃ動揺している。これはもう素直に話したほうがよさそうだ。

「む、そうなのか? だとしたら好んで人を襲うような魔物でなければまだいいが、手負いを手当すると後に傷つけた者に復讐に行く可能性があるからあまり推奨はできないな」

 それは重々承知しているのだけれどつい……、なんかお土産を貰ったし結果良し? いや、良くなかった?


「お、おう。その辺は理解してるのだが、今回は情が移ってしまって……、大人しそうなやつだから大丈夫かなってつい。無闇に何でも手当するようなことはしないよ」

 知り合いに似ていて、見捨てにくかっただけだから。

 シャモアの顔の見分けなんてつかないから、これから先、大型のシャモアを見かける度に情が湧いてしまいそうだな。

「まぁ、シャモアは仕方ないのはちょっとわかるけれど、まだ何か隠してない?」

 アベルはシャモアなら仕方ないのはわかってくれたようだが、更なる追求が……。無駄に鋭い奴め。

「えぇと、ちょっとお礼に薬草とか何とかを貰ったくらいかな?」

 何とか。そう、何とか。

「まぁた、そうやって餌付けしてー。それで何とかって今度は何やったの?」

 く……、やっぱ見逃してくれないか!?

「えぇと、なんか強そうな弓を貰った」

 観念して貰った弓を収納から出した、

「高原の番人……ねぇ、グラン、もしかしてこれ不在って言われてたこの階層のフロアボスじゃないのかな?」

 貰った弓を即鑑定したアベルからものすごく胡散臭い笑顔が返ってきた。


 ですよねーーーー? やっぱこれフロアボスですよねーーーーー??

 極稀にいるんだよね、攻撃したらいけないタイプのフロアボス。

 だいたい何かしら攻撃以外の攻略方法があって、条件を満たすと報酬をくれるタイプ。

 その手のボスはうっかり攻撃すると酷い目に遭うことが多く、まるでダンジョンに訪れる者を試しているかのような存在。

 あの金シャモア君もそうだったのかなぁ?

 俺、脳筋だから難しい事はよくワカラナーーーーーイ!!








 朝食の席で色々聞かれた後、四階層へ。

 みんな金シャモア君に貰った弓に興味津々になってしまったため、本格的に狩りをする前に絶賛試し撃ち中だ。

 四階層目は広々としたサバンナ。

 低い草の生える大地にところどころ大きな木や岩地があり、その中に野生動物の姿も見える。


「一本! 二本! 三本!! うっわ……何だこの威力……」

 群からはぐれたのか一匹だけでウロウロしているサイの魔物に連続で弓を放ち、自分でも驚いて声に出てしまった。

「武器のことはよくわからないけど、細い弓なのにすごい威力だね。獣特効の効果かな?」

 俺の放った矢が次々と鎧のような皮膚に覆われた大型のサイの魔物を易々と貫いていき、三本目でついにサイが倒れた。

 武器のことにあまり詳しくないアベルでさえすぐに理解してしまう程の高威力だ。

 弓の重さは軽すぎず重すぎず丁度良く、少し長いことを除けば担いで走り回るにも困らない。

 弦は俺が作った弓よりずっと引きやすく、連射も難しくない。


 そして付与効果。

 普通なら弾かれるか隙間を狙えば何とか刺さるだろうという、鎧のような皮膚を簡単に貫いてサイの魔物を三発目で仕留めてしまった。

 自作の大型弓ならこの程度の威力は出るのだが、それよりもずっと小型で軽量のこの弓でこの威力は恐ろしい。

 おそらく獣特効の効果のおかげである。


「それ、人特効も付いてるんだっけ? さすがに当たりたくないな」

 表情は見えないが、ものすごく苦笑いしていそうな声がバケツの中から聞こえて来た。

 バケツなら大丈夫だと思うけれど、乱戦中に間違えてバケツに当てないようにしないと。

 頑丈だけれどバケツほどではないドリーには絶対に当ててはいけないな。


 人と獣以外にも不死特効。

 つまりアンデッドにも高い威力が期待できるようだ。これは武器の属性が光と聖だからだろうか?

 骨系には弓は効きづらいしゴースト系は銀の矢を使わないといけないので、主にゾンビ相手がメインになりそうだが、ゾンビを触らなくてよくなるのは少し嬉しいな。


 "特効"とは特定の範囲に対して効果が爆発的に上がる付与である。

 この弓の場合、獣と人とアンデッドに対して特に高い威力を発揮できるようだ。

 特効系の付与は基本的に素材依存になる。この弓の効果は素材であるシャモアの角に由来しているのだろう。

 獣はまぁわかる。アンデッドはたぶん光と聖属性だからだと思う。しかしなんで人?

 特効系は素材依存のはずなのだが、なんとなく矢を射られたことを根に持っていそうな特効だな!?


 それにしても限定的ではあるが機動力を下げなくてもいい遠距離高火力の手段が手に入ったのはすごく嬉しい。

 そして使用者固定って属性が付いているから、この弓は俺しか使えない。

 試しにカリュオンに触らせたら、思いっきり弾かれて感電していた。

「グラン、よかったわね。ずっと遠距離の高火力攻撃手段を欲しがってたもんね。グランが後ろにいると敵が後ろまで飛んできた時も安心なのよね」

「いい武器を手に入れたわねぇ。これで今まで以上に前衛と後衛の切り替えが頼もしくなるわねぇ」

 えへへ、シルエットとリヴィダスに褒められたぞ。

「これはグランの使い方次第で狩りの効率が更に上がりそうだなぁ」

 ドリーはそう言うがたぶん俺が弓を構えている間に、敵が死んでいると思うんだ。

 乱戦だと味方に当たりそうで怖いしな。

 そうだなぁ、ボス戦だと活躍できるかなぁ。活躍したいなぁ。一発くらい俺にも残しておいて!!!


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