第103話◆素材の行く末
暖かい日とそうでない日の気温差が激しくなり始め、昼間は暖かくても、夜は寒さを感じる季節になってきた。
昼間は過ごしやすいくらいの暖かさだが、これから冬に向けて昼間の気温も下がっていくだろう。
三姉妹に連れて行ってもらった妖精達のお祭りで、妖精達と物々交換をして色々な物を手に入れた。更に、勢い余ってニーズヘッグを倒してしまった為、ニーズヘッグの素材もある。ニーズヘッグを倒したので、カラスの妖精が"景品"をたくさんオマケしてくれたのもいっぱいある。
そのまま収納に入れておけば劣化はしないのだが、入れっぱなしだとそのまま忘れてしまいそうなので、整理ついでに加工できる物は加工する事にした。
まずは、妖精にもらったり、最近ラトがやたら持って来るキノコ類。
これは干しキノコにしてしまおう。使う時には水で戻せばいいし、戻すのに使った水はスープの素にも使える。
そして、キノコもいっぱいあるが芋類も多い。多すぎてもう何の芋かわからないよね。
イポメアという名の赤紫の芋は、前世の記憶にあるサツマイモによく似ている。これもすごくたくさんある。
半分残して半分干し芋かな?
弱火でじっくり茹でた後、皮を剥いで一センチくらの厚さに切って、ザルの上に並べて軒先に干しておいた。
こっちの毛むくじゃらのは、サトイモの仲間だろうか、これは煮物だな。こっちはレンコンっぽいな? 酢の物か天ぷらかなぁ。米酢がないから白ワインビネガーになりそうだけど。
こうして軒先で色々干していると、何だか冬の準備という感じがする。
収納スキルがあると、こういった保存食を作る必要もないからなぁ。冒険者になってから今の家に来るまでは、ずっと宿暮らしだった為、保存食系の物を作る機会がなかったから、こういう作業はちょっと楽しい。
実家は貧しい農家だったから、こういう保存食がいつも軒先に吊り下げられていた。冒険者になってからまったく実家に戻ってないけど、みんな元気にしてるかなぁ。
家族がどうしてるか少し気になるけど、今さら戻っても困惑されそうだしな。
家族に対して思う所がないわけでもないが、実家は生活に余裕がない田舎の農家だ。兄弟も多かったから、一人くらい音信不通になったとしても、忘れられてそうだなぁ。
まぁ、近くまで行く事があったら立ち寄ってみるか。
妖精達に貰った物と言えば、柿っぽい果物もあった。もちろん渋い方である。これも干して、干し柿にしたいところだが、干し柿にするにはまだちょっと気温が高いから、もう少し寒くなってからだなぁ。とりあえずこれは収納にポイ。
葡萄の類もたくさんもらったけど、これはデザート用かなぁ。
ワインにするほどの量はないし、ワインなんて自作するより買った方が楽だし安上がりだ。種があるから干し葡萄にもできないなぁ。
あー、いいこと思いついた。アベルの転移魔法で葡萄の種抜いてもらって干し葡萄にすればよくない? 俺超天才!!
貰った食材を干しまくってたら軒先が埋まってしまったので、食材を干すのは一旦止めて、ニーズヘッグの素材を整理する事にした。
倉庫の一階の作業場に、肉やら鱗やらを並べていく。一度アベルがニーズヘッグを粉砕したので、その時回収したやつは、大きさも形もガタガタで非常に加工し辛い事になっている。
素材は、ニーズヘッグの魔石をアベルが引き取って、他は俺が引き取った。ニーズヘッグ自体の出現報告がほとんどないので、正直価値がよくわからない。
ニーズヘッグが飛ばして来た蛇が落した魔石は、蛇をほとんど倒したアベルに七割を渡して、残りを俺が引き取った。
とりあえず、鱗に付いている肉は刃物でそぎ落として、ボウルの中に集めておく。白身の魚っぽい肉で、そぎ落としているうちに、どんどんボロボロになってしまった。これはミンチにして団子にするかなぁ。
切り取り易い部分から肉をちょっと切り出して、水洗いしてちょっと塩を振って包丁で血を絞り出した後、もう一度水で洗って軽く塩を振って焼いてみた。
蛇というか魚っぽい味だなぁ。水洗いだけだとちょっと癖が強いというか、すごく魚っぽい。うーん、練り物にするのがいいのかなぁ。
思いつかないので、肉は一旦保留だ。
ボロボロになってしまってミンチにする予定の肉だけ、水でしっかり洗って塩を振ってもう一度水洗い。更にササ酒を振りかけて、その後もう一度水洗い。ササ酒の残りも減って来たし、早めに米探しの旅に行かないとな。
ここまでやれば、臭みはだいぶ消えたんじゃないかな。
後は包丁でひたすら潰してミンチにして、とりあえず小麦粉と擦り下ろした生姜を加えて団子状にしておいた。
さて、次はニーズヘッグの鱗だ。
一枚の大きさは、俺の手のひらよりも大きく厚みもある。軽く叩いてみると、それなりの硬さである。曲げてみると結構撓るので、防具の素材になるかなぁ。うーん、戦った感じ結構サクサク斬れてたから、物理には弱そうなんだよなぁ。
【ニーズヘッグの鱗】
レアリティ:S-
品質:上
属性:炎/闇/雷
効果:炎耐性A/闇耐性A/雷耐性S-
細工、付与等に用いる
高い雷耐性を持つ鱗。物理耐性は低い。
鑑定の結果を見ても、やはり物理耐性は低いようだ。しかし雷耐性は高いようだ。
雷は風と水の複合属性だ。複合属性という事もあって、雷攻撃をしてくる魔物は上位のものが多い。
普段の生活で相手にするような魔物には、雷属性の魔物はいない。ダンジョンに行ったら、時々遭遇するくらいだ。
鱗は厚みもあるので、衣服の裏に張り付けるには向いていなさそうだし、外防具か盾向きかな。大きさ的にショルダーガードかレッグガードにするのもいいかもしれない。
Sランクの素材となると、付与も結構たくさんできそうだ。シランドルに行く前に、防具をちょっと作り直してみるか。
そして、牙やら角やら。こちらも炎と闇と雷属性で、雷だけ突出しているので、雷属性系の付与とは相性良さそうだ。そして、これはとてもでっかい。
これは、矢じりにするとたくさん作れそう。投擲用のナイフにするのも悪くないな。どちらも雷属性系の効果付与をしておくとよさそうだ。
雷属性は水属性の魔物に強い。
食材ダンジョンに、海のエリアがあるとアベルが言っていたので、もしそこに行くような事があるなら役に立ちそうだ。
あ、良い事思いついた。
思いついた勢いで思わず作ってしまった。
途中で幼女達とお昼ご飯を食べた時にちょっと離れた事を除き、ずっと作業に熱中していた。
陽が短くなったこの季節、気づけば薄暗くなる時間だった。
「グランー、何やってるの? もう外暗くなるよ」
出かけていたアベルが帰って来て、作業場にやってきた。
「あー、ごめん。ちょっと集中してて時間見てなかった」
実際は、チラチラ時間を気にしてたけど、もうちょっとだけを繰り返していたら、いつもなら夕食を支度をしている時間になっていた。
「これは?」
机の上に置いていたグローブにアベルが気づいた。
「新しい手袋。ニーズヘッグの鱗を手の甲側に付けて、電撃系の付与しまくってみた。掴んで魔力を流すと電撃攻撃ができる。Sランクの素材に神代文字で付与したから、威力もかなり高いと思う」
ニーズヘッグの鱗の他に、カラスの妖精に貰った、よくわからないけどレアそうな魔物の皮や、魔石を使って作ったので、普通に実戦レベルの電撃攻撃が出来るはずだ。ただし、触れている物のみ。
「また、妙な物作ってる……。それで、その手に持ってる杖っぽい物は何?」
妙な物ってひどいな。掴んで電撃攻撃とか強いし、かっこいいだろ!!
そして、アベルがグローブの次に興味を示したのが、俺が手に持っている今まさに制作中で、これから仕上げというところまできている杖である。
ニーズヘッグの角を削って、棒にくっつけただけの杖だ。見た目は、あまりかっこよくない。でも性能は頑張ったと思うんだ。
「雷の属性攻撃を増幅する杖? まだ調整中だけど」
「ええ? グラン魔法使えないのに杖なんか作ったの?」
「うん。牙が雷属性と相性いいからつい……。武器にするにはあまり強度なさそうだし、矢じりとか投擲武器とか装飾品くらいにしか使えなさそうだったけど、雷属性との相性はめちゃくちゃいいからなんかもったいないなーって。杖なら殴ること滅多にないし、物理的な強度が低くても平気かなって思ったんだけど?」
「その理屈はわかるけど、誰が使うのさ」
「アベル?」
「俺が杖使えないの、グランも知ってるでしょ!?」
アベルが普段、指パッチンで魔法を使っているのは、決してかっこいいからとかではなく、杖が使えないからだ。
いや、正しくは、アベルの魔力に耐えられる杖がないからだ。
魔法をメインで戦う者達は、魔法の威力を上昇させる為の武器を持つのが普通だ。
しかしアベルの場合、魔力量が多いせいで杖が魔力に耐え切れず、壊れてしまうのだ。杖を壊さないように戦うと、素手で魔法を使うより弱くなるという、なんともアベルらしい理由で杖を使うことが出来ない。
「ちょっと奮発して、魔法金とミスリルの合金の本体で、先端はニーズヘッグの角で出来てる。接続部分は月金を使ってるし、魔力の許容量と強度も十分だと思う。先端はニーズヘッグの角だから、物理にはちょっと弱いけど、柄の部分は金属だから柄の部分なら殴る用にもなるよ。後は魔石嵌めて付与したら完成なんだけど、ちょうどいい高ランクの魔石見つからなくてさー、魔石次第で雷属性だけならアベルの魔力でも耐えれるかなぁって思ったんだけど」
ニーズヘッグの素材は、魔力耐性が高くても、物理的な硬度があまりない為、打撃武器や防具には向かない素材だった。
しかし、Sランクの素材で魔力の容量が多いので、装飾品や魔法用の武器に向いている。
そこで、雷属性と特に相性のいい事を利用して、魔力容量の大きい素材で固めれば、雷属性に限ってはアベルの魔力でも耐えれるんじゃないかなと思って、つい勢いで杖を作り始めてしまった。
最後の仕上げの段階でちょうどいい雷属性の魔石がなくて、手詰まりだったところに、アベルがやって来たのだ。
「折角グランが俺の為に作ってくれたのなら、この魔石つかっちゃおう。それに、月金って、あの魔法白金とミスリルの合金だよね……まだ残ってたんだ。本体は魔法金とミスリルの合金で、ニーズヘッグの素材まで使ってるとなると、もう外には出せない代物だしね。うん、俺が使うしかないよね!」
なんだか妙に機嫌が良くなったアベルが、ニーズヘッグの魔石を持ちだして来た。
「あー、それなら行けそう。そしたら後は土台に魔石を嵌めて、付与をしたら完成かなぁ。雷属性の強化に、ちょっと重いから軽量化も付けないといけないし、素材が素材だから隠蔽効果付けた方がいいかな。まぁ、アベルが使える杖の時点であんま隠蔽する意味なさそうだけど……」
「グランー! お腹空いたー!!」
「遅くなるとおねむになってしまいますぅ」
「毛玉ちゃんも来てますわよ」
「ホッホーッ!」
「私もいるぞ」
杖をどうしようか悩んでいると、作業場に三姉妹とラト、そして毛玉ちゃんまでやって来た。
「あー、ごめん。すっかりおそくなった。もう続きは明日やろう」
「そうだね、俺もおなかすいた」
もうちょっとで完成だけど、急いで失敗したくないし、時間も時間だし今日はここまで!
「グランは何作ってるの?」
「んー? アベル用の杖。でも、もう今日はおしまいにして、明日また本気出す」
「ニーズヘッグの素材ですかぁ? 面白そうですねぇ。明日作業するなら、見学してもいいですかぁ?」
クルが杖に興味を示した。見学どころか手伝ってくれてもいい。
「もちろん。明日は付与をする予定だから、クル先生に教えて貰いながらのが俺も安心だ」
「わたくしも興味ありますわ」
「ふむ、面白そうだな。私も見学しよう」
え? ラトまで来るの?
「じゃあ私は、出来上がったので試し撃ちする役ね!」
「その杖は俺の為に作ってくれてる杖だから、試し打ちは俺の役目だよ!」
「えー、ちょっとぐらいいいじゃない! ケチな男ね!」
「俺が試し打ちした後ね。最初に使うのは俺!」
「ホッホーッ!」
「毛玉ちゃん、それニーズヘッグの匂いするかもしれないけど、食べ物じゃないから食べちゃだめだよ」
さっきまで黙々と作業していたのに、すっかり賑やかになってしまった。
「それじゃあ、遅くなる前にご飯にしようか。今日はニーズヘッグの肉団子のスープかな」
作業場の灯りを消して、みんなで母屋へと戻る。
今日もうちの食卓は賑やかだ。
そして翌日、三姉妹とラトが見学だけで終わるはずもなく、色々面白がって付与を始めた。
そこまでやったのなら、棒にニーズヘッグの角を削ってくっつけただけの見た目はないなってなって、タルバに細工を頼む事になった。そして、ニーズヘッグの素材にタルバが興味を示し、細工のついでに付与も手伝ってくれた。
そんなことをやっているうちに、見た目も性能もとんでも杖が出来上がってしまった。
これなら、アベルの魔力にも十分耐えれそうだなぁ。さすがの俺でも、これはちょっと遠い目になるよ。
まぁ、フォルトビッチの件ではアベルに世話になったしな。いつも転移魔法で足になってもらってるし、米探しも手伝ってもらう予定だし、お礼だお礼! ついでに葡萄の種抜きを、毎年やってもらおう。
ちなみに、試し撃ちは、どこかの山奥に転移魔法で行ってやったのだが、天罰のような雷が落ちて来てドン引きしたよね。
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