第98話◆価値観の相違

 妖精達と雑談をしながら飲み食いしているうちに、ラトはすっかり酔い潰れて、目の前で大きなシャモアがひっくり返っている。一緒に飲んでいたハムスターの妖精も、ヘソ天で寝てしまった。

 妖精のお酒ずっと飲んでたみたいだしなぁ……それでいいのか、森の番人。

 アベルも酒に強いはずだが、珍しく顔が少し赤くなっている。俺は最初の一杯を飲んで、これは飲みすぎるとヤバイと思い、その後はちょっとずつしか飲んでないので、ほぼシラフだ。

 幼女達も妖精達と遊んでてそのままどっかに行ってしまったし、少々退屈になってきた。


 そしてちょっと気になることがある。

 ちょっと離れた所に妖精達の屋台が見えるのだ。何を売っているのかすごく気になる。

 気になっているが、膝の上で毛玉ちゃんがスヤスヤしてて動けない。

 どうしたものかとちょっとソワソワしてたら、毛玉ちゃんが目を覚まして、何かを察したのかピョンピョンと跳ねて、俺の上着のフードの中に入った。

「お? ちょっと屋台みてきてもいいか?」

「ギョッ! ギョッ!」

 フードの中から元気な声が聞こえて来たので、屋台を見に行く事にした、


「んー? グランどっかいくの? 俺も一緒に行くよ。ていうか、その毛玉グランに懐いちゃったねー」

 アベルが毛玉ちゃんを指差すと、毛玉ちゃんがシャーッ!っとアベルを威嚇した。

「毛玉のくせに生意気な!!」

「ビャーッ!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。屋台あるみたいだから、屋台見てみよ。何か美味しいものあるかもしれないし」

 結構酔っぱらっているのか、アベルが毛玉ちゃんに絡み始めたので、一人と一匹をなだめて一緒に屋台へ。



 妖精達の屋台は、支払いはお金ではなく物々交換だった。収納の中に、作りすぎた料理を詰め込んでて良かった。

 アベルに呆れられながら、珍しい素材やよくわからない食材っぽいものを、料理と交換してもらった。ちょうど秋の実りの季節だからだろうか、見た事ない果物とかキノコ類でいっぱいだった。鑑定すれば食べれるかどうかわかるから、食べれそうな物は気にせず交換してもらう。


「あれなんだろう?」

 アベルが指さした方を見ると、妖精達が集まって歓声を上げている。

「見に行ってみよか」

「ギャッギャッ!」

 毛玉ちゃんが返事をした。多分見に行きたいのだろう。


 妖精達が輪になって集まっている所へ行って、妖精達の上から何をやっているのか覗き込んだ。妖精のほとんどは小柄なので、俺もアベルも上から妖精達の輪の中を見る事ができる。

 輪の中心には人の頭ほどの大きさの栗が置いてあり、妖精が一匹ずつそれに触れている。

「これは何やってるの?」

 アベルが近くにいたウサギの妖精に尋ねた。

「あの栗にね、一人ずつ火の魔力を送って、温めてる遊びしてるの」

 そんな事したら熱くなった栗が爆発するのでは……。

「それでね、爆発したら負けー!」

 どういう、遊びだよ!!

「人間のお兄さん達もやるー?」

「やらないよ!!」

「爆発するのはちょっと……」

「ギュギュー……」

 妖精基準の遊びはちょっと遠慮しておこう。毛玉ちゃんも嫌そうだ。

「爆発しても大丈夫だよー。飛び散った栗はちっちゃい子が食べてくれるからー」

 周りを見るとちっちゃいキノコのような妖精が、何匹もちょろちょろと動いているが、そういう問題じゃない。

「爆発する前に離れよう」

「そうしよ……」


 バアアアアアアアアン!!!!


 アベルに促されて妖精の輪から離れようとした直後に、大きな音がして栗が破裂した。

 毛玉ちゃんに栗の破片が当たらないように、咄嗟に手でガードした。栗の破片とは言え地味に痛い。

 アベルは隣で魔法で障壁を作って防いでいる。その中に俺も入れてくれよ。

 そして足元でチョロチョロしてたキノコの妖精達が、飛び散った栗の破片をせっせと拾って食べ始めた。

 栗を囲っていた妖精達は栗が爆発してテンションが上がったので、キャッキャッと大はしゃぎしている。

 妖精と人間は価値観が全く違うから、楽しいの基準が違うのは仕方ないね。


「次はーショウギやろうかー?」

「ん? ショウギ? それは五角形の駒が一杯あるやつ?」

 不意に妖精の口から飛び出して来た言葉に驚く。

「うんー、大昔にやって来た人間が教えてくれたんだー」

 妖精がパチンと指を鳴らすと、懐かしい木の机と箱が出て来た。


 将棋だ!!


 懐かしいな。あまりやった事はないが、ルールは知っている。

 この世界にも将棋があるのか、それとも俺と同じような転生者が持ち込んだのか。


 そんな事を考えてると、妖精の一人が将棋盤の上に駒の入った箱をパカッと伏せて、駒の積み重なった山を作った。

 あ、将棋崩しのほうか。それならみんなで気軽に遊べるよな。

 駒の中に二つ赤い駒がある。王と玉の駒だ。


「どうしてこの駒だけ赤いんだ?」

「これはねー王様だから赤いのー。王様を壊した人が負けー」

 壊したら負け?


「あの赤い駒、ニトロラゴラで出来てるよ。今は停滞の魔法が掛かってるから爆発しないっぽい。駒にも机にも回帰が付与されてるから、多分爆発した後は元に戻る」

 アベルがこそっと耳打ちをした。

 ニトロラゴラ素材の駒って何だよ!! っていうか回帰の付与って時間魔法の最高難易度の付与じゃないか!! それで何をするつもりだ!! 最高付与技術の無駄遣い過ぎる!!


「この駒の山の中からね、そーっと一枚ずつ駒を取っていくのー」

 うんうん、俺の知ってる将棋崩しだよね。

「それでねー爆発したら負けー」

 どうして、そこで爆発させるの!?!?

「お兄さん達もやるー?」

「やらないよ!!」

「うん、俺も遠慮しとこうかな。さ、露店見に行こう」

「ギュギュギュー」

「そっかー、残念!」

 妖精さんには残念そうな顔をされたが、すまない、人間の俺には妖精さん達の遊びはハイレベルすぎた。


 妖精達の輪を離れて暫くした後、爆発音と歓声が聞こえて来た。

 種族が違えば価値観も全く違うんだなぁ。



 過激な遊びをしている妖精の輪から離れて再び屋台に戻って来た。

「グランあれ、ダーツじゃない?」

 アベルが指差したのは、不思議な道具が景品として飾られている、ダーツの屋台だ。

「ダーツなら爆発しないだろうし、やってく?」

「うん、昔王都の飲み屋でよくやってたよねー」

「そういえばそうだな」

 王都にいた頃よく飲み屋に置いてあるダーツで遊んでたおかげで、投擲スキルが上がったのを覚えている。


 妖精のダーツ屋は、爆発物などなく普通のダーツ屋だった。

 クルクルと回っている丸い的に、色々と絵が描いてある。その絵で景品が決まるようだ。

 蝶ネクタイを付けたカラスの店主に、大きめの魔石を渡してダーツの矢を受け取った。妖精の道具は面白そうなので、ちょっと興味ある。何が当たるかなぁ?


 シュッ!


 俺の投げたダーツ矢は外れる事無く、くるくると回る的に刺さった。さぁ何が当たったかなぁ。

 俺の投げた矢は花のマークに刺さっていた。

「おめでとうございます! お客様にはこちらの"スキルの花"が当たりました!」

 とカラスの妖精に手渡されたのは、ガラスのような素材で出来た花だった。

「何それ、初めて見る」

「うん、俺も初めて見たな」


【スキルの花】

レアリティ:SS

品質:特上

効果:スキル開花

魔力を注ぐとランダムでスキルが成長する


 鑑定するととんでもない結果が見えた。

 ランダムって辺りが怖いけど、最近伸び悩んでる刀剣スキルが伸びたらとても嬉しい。


「ええ、何それすごくない?」

「ランダムって辺りがこわいな、早速使ってみるか。魔力を注げばいいんだな?」

 使うのは勿体ない気もするが、そんな事言ってると、ずっと使わない気がしたので、使ってみる事にした。

 早速魔力を注いで見るとスキルの花が光始めて、その光は吸い込まれるように俺の中へ入って行った。


「ステータス・オープン」


名前:グラン

性別:男

年齢:18

職業:勇者

Lv:105

HP:952/952

MP:15700/15700

ST:842/842

攻撃:1159

防御:844

魔力:12580

魔力抵抗:2216

機動力:634

器用さ:18920

運:218

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣96/槍45/体術68/弓55/投擲39/盾68/身体強化88/隠密40/魔術40/変装43

▼クリエイトロード

採取69/耕作38/料理69/薬調合77/鍛冶39/細工66/木工40/裁縫38/美容32/調教40

分解70/合成61/付与62/強化38/美術30/魔道具作成48/飼育35

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体78/探索83/察知92/鑑定35/収納95/取引40/交渉48

▼転生開花

【称号】

オールラウンダー/スライムアルケミスト/無秩序の創


 んんん? 調教が大きく伸びてるけど、これはさっき妖精を餌付けしてしまったからかもしれない。鑑定が伸びてるのは妖精の祭りで、レアリティの高い物をたくさん鑑定したからだろう。何が伸びたんだ!?

 あっ!! あああああああああ……!! そこ!? そこ伸びちゃうの!?!?


「変装がめっちゃのびた」

「ええ……、そんなスキル伸ばして諜報員にでもなるの?」

「ええー、絶対使わないスキルじゃん」

「まー、いつかどこかで使うかもしれないし」

 同情に満ちた生温い笑顔やめろ。


 くそっ、またスキルの花が当たるまでダーツやるか!?

「もう一回頼む!」

「申し訳ありません。こちらのゲームは一人一回までとなってます。また来年、お越しください」

 そんなぁー。


「よーし、次は俺かなー」

 アベルが魔石と交換でダーツの矢を受け取って、的に向かって矢を投げた。

「蛇?」

 アベルの矢は、木に蛇が巻き付いているようなのマークのあるマスに刺さっていた。

 何その不穏なマーク。


「おお、人間のお客様には特別な場所にご招待いたします!!」

 カラスの魔物が羽を広げて、パチパチと手を叩くような仕草をした。

「特別な場所?」

「制限時間いっぱい蛇を倒すだけの簡単なお仕事です。倒した蛇の数に応じて豪華な報酬が出ます。蛇を倒して得られる物は全てお客様の物になります。途中で帰還したくなったら、帰還用の魔法陣がございますのでそこから戻って来れますが、一度戻ったらそこで終了になります。また蛇を全て倒し終えたらそこで終了ですが、その場合更に特別な報酬をご用意しております!」

 ひたすら敵を倒すダンジョンみたいなものか?


「これは俺一人で行かないといけないの? グランと一緒でもいい?」

「お連れ様も一緒でもかまいませんよ。ただし報酬は一人でも二人でもかわりません」

「わかった、じゃあグラン一緒に行こ?」

「おう、行く行く」

 どんな蛇か知らないけど、素材は気になる。

「ビャッ!」

 フードの中から毛玉ちゃんも返事をしたので、一緒に行きたいようだ。

「じゃあ、俺とグランとこの毛玉で行くよ」


「畏まりました。それではご健闘を」


 カラスがバサバサと羽ばたくと、足元が光って景色が切り替わった。


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