第3話◆勇者と書いてきようびんぼうと読む

 子供の頃からわりと器用で、何でも要領よくこなして来たと思う。


 ちょっと触れば、なんとなくで出来てしまうし、理解もしてしまう。


 そのせいで子供の頃は神童とかとも言われてたけど、十歳を過ぎた辺りから平均よりちょっと上程度に落ち着いて、気が付けば普通の子になっていた。


 兄弟が多くどちらかというと貧しい家庭だったので、十二歳の頃に田舎町にある実家を出た。

 王都で登録した冒険者ギルドのランクは、一年足らずでとんとんとCランクまで上がって、期待のルーキーと当時はもてはやされたが、その後伸び悩んで十八歳になった現在で一ランクだけ上がってBランク。

 Bランクと言えば一応上級冒険者扱いではあるが、平均より幾分か強い、上の下程度の冒険者と言ったところだ。


 何でもそつなくこなすけど、何かに特化してるとこがない。器用貧乏――それが俺の評価である。


 そして俺には大きな欠点がある、魔法が使える者が多いこの世界において、魔法が使えないという事である。


 魔力がないわけではない。

 むしろ魔力はそこらへんの魔法使い達よりも多いくらいで、質も悪くない。しかし、体内の魔力を外部に放出する回路に恵まれず、魔法という形で魔力を具現化できないのである。

 できるのは、自分自身や直接触れた物への魔力を使った"スキル"の使用くらいだ。


 つまり魔力はあっても、その魔力で自身を強化して、物理攻撃をするしかない脳筋なのだ。


 魔法が使えないのは、手持ちのスキルや遠距離武器である程度カバーできるが、やはり魔法が使えない事による手数不足には常に頭を悩ませられる。

 そして、悲しいかな、魔法以外はだいたい何でもそつなくこなせるが、特に特化したものがない。


 平均よりはちょっと上だが、突出してるわけではない。


 つまり、魔法が使えないからと言って魔法以外で何か特化して強いわけでもない。オールマイティと言えば聞こえがいいが、要するに器用貧乏である。



 冒険者として活動していると、他の仲間とパーティーを組むことも多く、利害の一致や相性の良さで特定のパーティーに長く所属することもある。もちろん俺も特定のパーティーに所属して冒険者活動をしていた事もある。

 しかし、特化した能力も技術もないので、他の特化した能力を持つメンバーに火力としてもサポートとしても劣る事が多く、何となく役に立ってないような居心地の悪さを感じて、だんだんとパーティーを組むことが減ってきた。

 戦闘面以外の雑用もある程度こなせるが、やはり戦闘がメインである冒険者としては、火力の不足はどうしても負い目を感じてしまう。

 一人の方が気楽で良いと感じる事が多くなった頃には、そろそろ潮時かなと思った。













 そんな器用貧乏で、少しネガティブになりかけていた俺は、今、王都から遠く離れた森の中にいる。









 あの日、俺の目に飛び込んで来たのは、王都から遠く離れた地方への移住者の募集広告だった。


 その場の勢いだったんだと思う。いや運命を感じたと言ったほうがロマンティックかもしれない。

 そのまま、広告を貼り出していた不動産ギルドの扉を叩いた。そして、気づいたら貯め込んでた貯金で、家を購入していた。人はこうやって衝動買いをするんだな、とその時思ったとかなんとか。


 王都から乗合馬車を乗り継いで、二週間ほどかかる田舎で跡取りに恵まれず放置されて、森に飲まれかかった状態で格安で売りに出されてた家付きの農場を、冒険者として稼いだ金をつぎ込んで丸ごと買い取ったのだ。


 その中古の農場を取り巻く森には、そう強くない魔物や獣はいるものの、薬草や果実といった自然の恵みにも恵まれているという話だ。

 周りの土地も手をつける人がおらず持て余されてるので、開墾できるものなら開墾してもいいとのことなので、かなりのお得物件だと思うんだ。

 一番近くの町には小規模ながら冒険者ギルドの支店もあり、難易度の高くない仕事がそこそこあるようだ。


 他にも、もう少し王都に近い場所とか、近くに大きな街のある場所とかの物件もあったのだが、俺が買った物件は大きな街道が近いものの、近くには小さな町があるのみ、その町までは徒歩で二時間近くかかるという、見るからに不便そうな場所だった。


 不便そうな場所故に、敷地も広く屋敷と倉庫付で、他の物件に比べてびっくりするほど安かった。

 まぁ、暮らしてみてダメそうなら売り払って、また大きな街で冒険者として稼げばいいかな、くらいの軽い気持ちの衝動買いだった。



 "思い立ったが吉日"


 記憶にあることわざに従って、マイホームを購入、冒険者から心機一転、のんびりと農家もどきでもやりつつ、時々冒険者ギルドの仕事でもしながら、田舎生活を満喫してやろう。



 器用貧乏すぎて冒険者として伸び悩んだ? 壁を感じた?


 確かにそれは大いにある。


 だが、それはそれで割り切って、俺にはやりたいことがあった。


 冒険者はただの手段、そう思えば気楽である。




 のんびりと気ままに己の趣味に没頭する生活を送る為に、俺は王都を離れ田舎にマイホームを購入したのだ。





 そして、ここなら周りの目を気にすることなく、自分のスキルを使う事ができる。ちょっと他人と違うらしく、人前では使いにくかった俺のスキル。





「ステータス・オープン」



 言葉を発すると目の前に、俺にしか見えない四角い半透明の画面が現れる。

 これが俺の秘密であり、田舎の家で趣味に没頭しようと思った理由。


 画面にはずらりと文字が並んでいる。


名前:グラン

性別:男

年齢:18

職業:勇者

Lv:104

HP:943/943

MP:15550/15550

ST:834/834

攻撃:1148

防御:836

魔力:12460

魔力抵抗:2183

機動力:628

器用さ:18740

運:216

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣95/槍45/体術68/弓53/投擲39/盾68/身体強化85/隠密35/魔術34

▼クリエイトロード

採取68/耕作12/料理60/薬調合75/鍛冶38/細工56/木工18/裁縫35/調教11

分解61/合成55/付与36/強化25/美術15/魔道具作成42

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体68/探索83/察知92/鑑定15/収納95/取引28/交渉42

▼転生開花

【称号】

オールラウンダー



 俺は自分自身の【ギフト】【スキル】と自身の数値化した能力を見る事が出来るスキルを持っている。

 どうやら、このスキルはかなり珍しいらしいが、おかげで俺は自分自身を知る事が出来、やりたい事も見つけることができた。


 そして、この世界の生ある者は、【ギフト】と呼ばれる神が与えたと言われる加護を、授かる事があるらしい。

 【スキル】とは技能や能力のことで、その技術や能力関する行動を行ってるうちに顕現し、そのスキルを使えば使うほど成長していく。

 そしてそのギフトに紐づいたスキルは、才能として開花しやすいと言う。


 しかし、それらを自身で確認するすべを持つ者は少なく、教会や魔法研究所などの専門施設で高額の料金を払い、高レベルの"鑑定"のスキルを持つ者か、高性能の鑑定用の魔道具で鑑定してもらうしかない。

 よって、金銭的に余裕のない平民は、自身のギフトやスキルを正しく把握していない事が多い。

 俺が偶然、自分のスキルやギフトを知るスキルを発現したのは、幸運だったとしかいいようがない。


 こうして自分の能力を可視化すると、思わず目に付く"勇者"と書いてある職業、そしてなんとなく不安を感じる"器用貧乏"という文字、さらにどうしてなのか生産向けのギフト。


 そしてもう一つ"転生開花"というギフト。




 そう、俺には前世の記憶がある。




 これは、前世の知識でちょっとズルのできる器用貧乏な俺が、田舎でのんびりスローライフを送りたい話。

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