魔界アイドル伝説 てぃんくる★ディザスター

黒骨みどり

第1話

 私、マグロ・ツナ、水中人の十二歳。

 水中人だけどお魚の部分が少しもない私は、生まれてからずっと遠巻きにされていた。

 下半身がお魚だったり、全身をかっこいい鱗が覆っていたり、お魚に似ている顔をしていたり、そうした水中で暮らすための要素を持っていなかったのだ。

 そういう子供はたまに生まれるらしい、でもたいていはすぐ死んでしまう。

 呼吸がそもそもできないからだ。


「ツナ、出発の準備はできた?」

「お母さん、うん、できてるよ」


 美しい銀色の下半身を持つ母を見て、胸がチクリと痛む。

 今日、私はこの海底都市を出るのだ。

 母に手を引かれ、海面まで浮上していく。


「ここからはあなた一人よ」

「大丈夫、あなたは大いなる海に愛された子ですもの」

「どこに行っても幸せになれるわ」


 それじゃあね、と言って母は沈降していった。


(大丈夫とは言われてるけど、不安だ)


 初めての海上、私の体は海の外でも問題ないと、お医者様に言われてはいるけど……


(ええい、ままよ!)


 ざぱんと、揺れる水面を突き破って顔を出す。


(息、できる。そんなに変わらないや)


 ほっとしたらおなかが空いてきた。

 お弁当に持ってきた小魚を、肩掛けカバンから取り出し、かじる。


(この後、ガンダガルのお迎えがある場所までいかなくちゃ)


 ガンダガル魔族院は、これから私が過ごす場所だ。

 魔力を持つものを決して拒まない。

 歴代の七大魔王は全員ガンダガルを卒業されていて、その配下を見定める場所でもあることから品行方正、文武両道が求められる。

 陸にあるので、海底都市出身者は私が初めてらしい。

 ちなみに海底都市は海王様が治めていて、七大魔王からも一目置かれた……というか海中をわざわざ治めたくないことから放置された最果ての地、らしい。

 これは陸地とも付き合いのある海王様直々の弁。


 思考を巡らせながら泳いでいると、海岸にたどり着いた。

 大いなる海に愛された私は、エラがなくても水中で呼吸できるし、髪も服も塩水に痛むことがない。

 なのでガンダガルで過ごすための制服を着用して泳いできた。

 岸が近づくにつれ水底が浅くなり、体が少しずつ海上に出ていくと未体験の重さが全身を襲った。


(今までは海が私を支えてくれていたんだ)


 これからは一人、という現実が急に迫ってくるように感じた。

 心細い。

 ガンダガルから送られてきた手紙に書かれている、迎えの場所までとぼとぼと歩く。

 足取りが、心理的にも物質的にも重たい。

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