私だけの出租車
孤阪 しゅう
親縁
「もしもし、理沙、お前もう就職は決まった のか?」
兄からの連絡だった。
両親が幼い頃に父が亡くなり、母に育ててもらっていたが、働きながらの育児は荷が重すぎたのか、私が小学校に入学する前の春に死んだ父の両親へと、私と兄を預けてどこかに行ってしまった。別に母を責めるつもりはないが、今でも実の両親と暮らしたかったとは思ってしまう。そんな兄は、私が大学に進学してすぐの時に、一人暮らしを始めると言って東京へ行ったのだった。
「まだだよ。頑張ってはいるんだけどね!」
私は少し明るい声で答えた。
「それなら良いんだ。おじいちゃんとおばあちゃんはは元気か?」
兄が毎回聞くことだ。
「うん!おばあちゃん今日も朝から、就活頑張ってねっていつもの目玉焼きとベーコン焼いたの作ってくれたし!(笑)」
「そうか。わかった、じゃあな。」
用は済んだから、と言わんばかりに兄は電話を切ろうとする。
「、、、うん。じゃあね!おにいちゃんも頑張って!」
「おう。」
いつもこんな感じだ。電話はしてきてくれるのだが、必要最低限の会話しかしたがらない。もともとこういう性格だから仕方のないことではあるが、唯一生まれた時から一緒に生活した家族としては少し寂しさを感じる。
それにしても兄が気にしていた、私の就活についてだが、まったくうまく行っていない。
いや、当然だ。私自身にやる気がなく、ろくに面接を受けることもしていないからだ。今日も祖母には面接に行くと伝えてあるが、今いるのは河川敷。人生の中で1番と言っても過言ではないほど大切な時期に、こんなところで過ごしていることや、朝ごはんまで作ってくれている祖母や祖父を騙して申し訳ないという背徳感はある。けれども、やってやろう!という気にはならない。
30分ほど、ぼーっと川を眺めていると、対岸の道を一台のタクシーが通り過ぎたのが、目に入った。祖父母が車を運転しないことから、普段の移動は基本バスと電車だったため、タクシーに乗ると、あの小さい空間がとても新鮮に感じる。
けれど、幼い頃。今ではほとんど覚えていないけど、その小さい空間が私にとって特別なものだったような気がする。
言葉に表すのも難しいから、そんな話は誰にもしたことがないが、なぜ特別に感じるのかということを、タクシーを見るたびに不思議に思っていた。
そしてもう一つ。あれは私が小学校5年生の時。不思議な体験をしている、タクシーで。
<< 続く >>
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