Kei Minagawa 2.0 (2022)

最近、スガッチくんと遊んでない。


彼も就職して2年目、忙しくなるころなんだろう。


少し寂しいけど、問題ない。


SNSのいいところは、たとえ誰かが忙しくなっても、すぐに代わりの人を探せるところだ。


来週はケイラさんを被写体にして撮りに行くか。


しかしまあ、こんな風に自由に被写体を呼べるようになったのも、スガッチくんを撮った映像がバズったからだな。


それから僕の顔が写真や映像界隈のコミュニティに知れ渡って、活動しやすくなった。


お金をもらう仕事もちょこちょこあって、今の仕事をあと数年でやめられるほどだ。



ん?ベルが鳴ってる。


「はい、ミナガワです」

「あ、奥原です」

「あ、ああ、奥原さん。どうしたの?」

「いえ、少しお話がありまして」

「ああ、そっか。じゃあ、上がって」


マンションエントランスのキーを解除すると、1分程度で彼女が部屋に来た。


「久しぶり」

「お久しぶりです」


相変わらず、奥原さんはファッションセンスが良く、やせ細っている自らの体を理解してボリュームのあるスカートを履き、厚めの麻でできたブラウスを着ていた。


「今日はどうしたの?」

僕がそう聞くと、彼女はニコっと笑って話し始めた。


「私、結婚するんです」


「ああ、おめでとう」


「だから、これからは写真一緒に行けないなあって」


「ああ、けっこう旦那さん、厳しいんだ、他の男性と会うのとか」


「そりゃそうですよ、私とミナガワさんで二人っきりで撮影するときとかあるんですから、そりゃ不安になります。付き合ってる時は、恋愛感情ないからって言ったら聞いてくれましたけど、結婚するとなってからは無理ですね」


「そっか。じゃあお別れだね」


「はい」


「でも最後に、撮って欲しくて、それで来ました」


「撮るって、今からどこか行くの」

「いえ、ここでいいんです。ただ、ミナガワさんに最後に撮ってほしいだけ。思い出として。ただ、今日撮る写真は、絶対SNSに公開しないでほしいです。二人だけの思い出にしましょう」


「ああ、まあ、いいけど」


奥原さんは僕の部屋の中心に立ち、僕のカメラの方を見て妖艶な笑顔を見せ、僕はそれを数枚撮った。


「もう十分です。帰りますね」

「うん。さようなら」


思えば、もうしばらく恋愛をしていない。


結婚、か。


僕はもしかしたら、自分のことが一番好きなタイプの人間なのかもしれない。


映像写真活動も、仕事もうまく行き始めてから、なんだか誰かと人生を共にするビジョンが見えなくなってきた。


学生時代や若いころには、自分の生きていく不安を分け合うために人と恋をしていた。


お互いを深く分かり合う快楽に溺れていたのかもしれない、


でも今は、僕一人でその不安を解決でき、そして楽しめているんじゃないか。


近づいてくる人の中には、僕の金や名声が目当ての人もいるし、その中には一方的に自分の不安を僕に解消してほしい人もいる。


今さっき来た奥原さんだって、きっと僕が必死で頼み込めば、僕と最終的には恋人になってくれるだろう。彼女もそういうタイプだ。でなきゃ結婚が決まってるのに僕のところになんて来ない。電話やメールでいいのに。


でもそういった相手は僕にとって、重荷なんだ。


僕は僕と、そして芸術と、そして愛する仕事と、ともに歩んでいき、他の芸術家の作品を楽しみ、SNSで知り合う短期的な友人とその場を楽しく過ごし、そしてこの世の行く末を僕が死ぬまで見届けるよ。


それが僕なんだね。


奥原さん、旦那さんとお幸せにね。


みんな、また会おう。

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