第41話 爆破
金曜日。いよいよ明日は作戦決行である。アスターは学校に居ても落ち着かなかった。上の空で授業を通り過ぎ、昼食を
「アスター。屋上に行かない?」
「屋上? 何でだ?」
「話があるのよ」
「分かった」
屋上に着くと、ナナミは防護壁に背を向けて立った。良く晴れた日差しにナナミの髪が透けて、明るい金髪に輝いている。風がさらさらと髪を撫でていった。やや童顔だが可愛らしい笑顔だった。
「話って何だい?」
アスターは眩しさに目を細めながら聞いた。
「あなたとアマラってどういう関係?」
「幼馴染みさ」
「それだけかしら?」
ああ、そういう事か。アスターは真実を言うべきか迷っていた。言えばナナミを傷付けるに違いなかったからだ。
「どうしたの?」
「うん……。俺達はいずれ結婚するつもりさ」
ナナミの顔が曇った。青い瞳に悲しみの色が浮かんで、痛々しい。
「そう……やはりそうなのね」
「ナナミ……」
「良いのよ。多分そうなんじゃないかなあって、思っていたから」
ナナミはそう言うと、防護壁の上へよじ登った。体操選手の様に、両手を広げてバランスを取りながら歩いて行く。
「おい、危ないぞ」
「フフ。大丈夫よ。でも、残念だなあ! 私達、まだ若いんだし、今から結婚相手を決めてしまわなくたって良いと思うのよ」
ナナミは晴れやかな笑顔をアスターへ向ける。
「ご免、ナナミ。俺……」
「謝ることではないわ、それに――」
そう言った瞬間、強風がナナミの身体に吹き付けた。
「アッ」
「ナナミ!」
次の瞬間、バランスを崩したナナミの身体が防護壁の向こうへ消えた。アスターはとっさにサイコキネシスでナナミを地面への激突から守る。ナナミはふわりと中に浮くと、ゆっくり地面へ着地した。
「これって――!?」
驚いたナナミが屋上を見上げた。アスターは周囲に誰も居ないのを確認すると、屋上から飛び降りた。ナナミの目の前に着地する。
「アスター。貴方……まさか!」
「見ての通りさ」
「じゃあ、他の三人も?」
「ああ……。ナナミ、お願いだ。明日、明日が丸一日過ぎるまではこの事は秘密にしていてくれないか?」
「……明日が過ぎたら?」
「好きにすれば良いさ」
ナナミはしばらく俯いていたが、やがて口を開いた。
「分かったわ。大丈夫よ、誰にも言わないわ。明日が過ぎても……。でも、それじゃ明日何かあるの?」
「言えないんだ」
「そう……」
ナナミは不安な目でアスターを見つめた。アスターはナナミの恋心を利用した様な気がして胸が傷んだが、明日の計画を成功させる為である。
土曜日になった。夜になってからアスター達四人はミゲルの運転する車で工場へと向かった。工場は郊外の広い敷地に立っていた。既に工場は一日の生産を終えて閉鎖されている。ミゲルは工場の周りを一周した。
「警備は入り口だけだな。だが侵入したら警備会社に通報がいくぞ。猶予は十五分てところだな」
「分かった。よし、手筈通りいくぞ」
アスターはそう告げると車を降りた。
リタが工場の正門のインターホンのボタンを押す。すぐに警備係が出た。
「すみませ~ん。車が故障しちゃったみたいで困ってるんです。携帯も忘れてきちゃったし、電話を借りれませんか?」
こういう時はリタの如何にも純朴そうな美しい顔が役に立つ。警備係は特に不信感を抱く事無く答えた。
「ああ、良いよ。今門を開けるから」
カチャリとロックが外れる音がした。ブランカが門を開けると、四人は玄関口まで歩いていった。
二人居た警備係はガラス越しに四人の姿を確認すると、一人が玄関口を開けた。
「車の故障かい?」
「ええ。そうなんですよ。もう、困っちゃって――」
リタがそう言うや否や、ブランカが空圧波を男に向かって打った。男はあっという間にぶっ飛んで、壁に叩きつけられ、気絶する。
「お、お前ら――」
もう一人が警報装置を押そうとするのを、アスターがサイコキネシスで宙に放り投げた。ドサリ、と鈍い音を立てて男が床に落ちる。脳震盪を起こした様である。
「よし、今の内だ。第二保管室は……」
アスターは廊下に表示されているパネルで保管室の場所を確認する。
「二手に別れよう。俺とリタでデータを破壊するから、二人は生産ラインをやってくれ」
「分かった」
アスターとリタは階段をかけ上がって保管室へ急いだ。階段を上り切り、長い廊下を走る。ガラス越しにコンピュータールームが見えた。一番奥の部屋が第二保管室である。
保管室のドアの前でアスターは立ち止まった。ドアには電子鍵が付いている。
「リタ、頼む」
リタは鍵を透視して映像をアスターの脳へ送った。アスターは内部のハンドルを回して鍵を開ける。部屋へ入った二人は中をグルリと見渡した。
「あそこの奥の棚よ。データチップが保管されているのが見えるわ」
アスターは背負ってきたリュックから爆弾を取り出すと、棚に設置した。
「来るときにコンピュータールームが見えたよな。コンピューターの中にデータが残っているかも知れないから、そこも爆破しよう」
ブランカは精神を集中すると、超高圧波で生産ルームのドアを吹き飛ばした。館内に警報が鳴り響く。広い空間に薬品を作るラインが設置されていた。二人はそれぞれ部屋を丸ごと吹き飛ばせる位置を見計らって爆弾を仕掛けた。
コンピュータールームに爆弾を仕掛けたアスターは警報が鳴り響くのを聞いた。
「これで警備会社に知られたな。急ぐぞ、リタ」
二人は全速力で廊下を走り、階段をかけ下りる。生産ルームへ走り込んだ。
「ブランカ! どうだ?」
「仕掛けたところさ。もう良いよ」
「よし、退却だ!」
四人は外へ走り出るとミゲルの待っている車へ乗り込んだ。
「良いのか?」
「うん。セット完了さ」
「よし、出すぞ」
ミゲルは車を急発進させた。工場の敷地内の道路から公道へ出た瞬間、背後で大きな爆発音が響いた。ミゲルはバックミラーに目をやった。オレンジ色の炎と黒煙が上がるのが見える。
「取り敢えず作戦成功だな」
「うん。でもこれからどうするの?」
アスターが訊いた。
「ハイウェイチューブを使うと検問されたらそれまでだからな。下の道を行く。パイロット養成所へ行くぞ」
「父さん達の勤め先?」
「あっちでタイガが長距離宇宙船の準備をして待っている。ハルカやアリッサももう向こうで待っているよ」
「宇宙へ行くの?」
「タラゴンさ。皆であの星へ帰ろう」
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