第28話 奴隷
「皆、今日から新しく仲間になるアスターとブランカ、それにリタとアマラよ。四人はスペースコロニー、ニルバからご両親の仕事の都合で地球へ越してきたそうよ。仲良くしてやってね」
教室へ着くと、担任が皆にアスター達を紹介した。クラスメイト達はじろじろ四人を眺めた。四人は指定された席に着く。アスターの隣の少女が話しかけてきた。
「ニルバ出身?」
「うん」
「ふーん。通りで、何か普通の地球人と違うわね」
「そうかい?」
アスターは内心焦った。まさかもう異能者だとばれたのか?
「ええ、何て言うか、地球の人より逞しい感じ」
「そうか。きっと親父に似たんだろうさ」
「お父さん?」
「宇宙船の船長だったんだ」
「宇宙船!?」
周囲の数人が声をあげて興味を示した。
「ほらそこ!
教師が注意する。
「――この様に、ローマ帝国は辺境の住民を奴隷として収容し、ローマ市を支えていました……」
「先生、奴隷って何ですか?」
ブランカが手を挙げて訊いた。
「あら、そうねえ、簡単に言えば人権の無いロボットみたいなものね。奴隷にはローマの市民権が無かったわ。市民として受けられる権利や自由は無しに、労働するためだけの存在よ。人類の歴史は長いことこの奴隷制に支えられて来たわ」
「同じ人間同士で、何故そんな酷いことが出来るんです?」
リタが質問する。
「昔の人類は皆が平等だとは思っていなかったのよ。産まれ落ちた家柄や、職業で身分が決まっていたわ。身分の差を越えて皆が同じ人間だという認識はイエス・キリストが現れるまで無かったわ」
「じゃあ、キリストが現れてからは平等になったんですか?」
「いいえ。残念ながらそうはならなかったわ。キリストの唱えた人類平等は飽くまで理想論で、それからも長いこと身分制度は続いたわ。そして、その名残は今でも続いているわ。例えば、大企業の社長とそれに使われる従業員の関係なんかがそうね。従業員の人権は法律で守られているけど、実態は奴隷制度と大差ない、という事が良くあるわ」
奴隷……。アスターは考え込んだ。地球の文明を支えてきたのは奴隷達という事か。そして今でも上部のきらびやかな文明の下でそれを支えている人が居る……。だったら、文明とは何なのか? 何の為に人類はそんなものを築いて来たのだろう?
「先生、文明を築く事で人類は幸せになったんですか?」
アスターが質問した。
「分からないわ。ある意味では幸せになったわ。文明によって、不便な生活から解放されたり、娯楽を楽しめるようになったりしたわ。でもその一方で先程も言った様に、奴隷と変わらないような生活を強いられている人も居るわ」
「じゃあ、何の為に文明を築くんです?」
「そうねえ、人間の本能みたいなものね。より良く生きる為で、特に目的は無いのよ」
本能……。アスターはタラゴンを思い出した。俺は本能と言えば狩りをして糧を得る事だと思っていた。父さんの話によれば、昔の地球人もそうだったと言う。何故そこから離れていくのだろう? 俺も地球生活に馴染んだら、もう狩りの事は忘れてしまうんだろうか? 父さんと一緒にインパラを狩っていた頃の事を?
午前中の授業が終わり、アスター達は食堂に居た。食券でランチを買うのだが、券売機を前にして、四人は固まっていた。
「カツカレーって何かしら?」
リタが首を傾げる。
「ハムサンドってのも、何だろうな?」
ブランカも顎に手をやって考え込んでいた。
「まあ、何かしらの食べ物には違いないんだ。適当に押したら良いさ」
アスターはそう言うと、天ぷらうどんのボタンを押した。残りの三人も各々適当にボタンを押すと、食券を手に取った。カウンターでランチと引き換え、席に着く。リタはカツカレーを一口食べると、
「ウウー」
と呻いて飲み込んだ。
「大丈夫か?」
ブランカが心配そうに聞く。
「……美味しい!」
リタはニッコリ笑うと、カツカレーを掻き込んだ。
「これが文明の味という訳ね」
アマラがコロッケをつつきながら言う。
「御一緒しても良いかしら?」
少女が二人、やって来て聞いた。アスターの隣の席と、前の席に居た少女達である。
「もちろん良いわよ」
リタが席を詰めた。
「私はマリンよ」
「私はナナミよ。よろしくね」
「貴方達ってさあ……何か、変よね。宇宙生まれって、皆そうなの?」
マリンがニヤニヤしながら言った。
「変?」
アマラが驚いた声を出す。
「そうよ。そもそも地球人と雰囲気が違うわ。制服だって似合って無いし」
ナナミがアスターの腕をつつく。
「そんなに変か?」
アスターは自分の身体を見回した。
「何て言うか、凄く遠いところから来たって感じよ」
「うん……。まあ間違っていないかな。ニルバは遠くにあるコロニーだし」
「どんな所?」
「そ、そうだな。街は地球と大して変わりが無いよ」
「ふーん」
アスターは早くこの話題が変わることを祈った。だって、自分達はニルバの事をほとんど知らないのだから。
「ねえ、週末に皆でゲームセンターへ行かない?」
ナナミが提案した。アスターはホッと胸を撫で下ろして、
「うん。そうだな」
と良く考えずに答えた。正直、ゲームセンターとは何なのか分からなかったが、恐らく何かの娯楽施設なのだろうと推察した。
「じゃあ、またね!」
ランチを終えたマリンとナナミは席を立って食堂から出て行った。
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