ジーク視点 約束
彼女に会って言いたいことがある。あの王子はないにしても、俺が彼女の婚約者であることに彼女が不満に思っていないのか、気になってしまった。
今までは俺の独りよがりだったのではないか。そんな不安が頭を占める。
不安な感情を抱きながらも、そろそろパーティーが終わる時間なので外で待っておく。
「ジーク、パーティーが終わったとしても、帰ってくるのはもう少し時間が掛かると思うわよ」
「わかっています。ですが、外で待っておきたいのです」
「…そうですか。冷えないようにね」
「はい」
シシリーに頼んでいたので、必ず彼女を連れて来てくれるだろう。彼女は俺よりもシシリーに気を許しているような気がする。俺は彼女にどう思われているのだろうか。
こちらに向かってくる馬車が見える。彼女に会った時に何から話せばいいのか…
「お兄様、お迎えありがとうございます」
「いや、別にいい、それよりも聞きたいことがあるのだが?」
「はい、何でしょうか?」
「アリシアに俺以外の婚約者がいたという事は本当か?」
手を差し出した時に、聞きたいこととは全く違うことを聞いてしまった。これでは俺が彼女を信じていないみたいではないか。
「それは向こうの勘違いでした。それどころか私のせいで、シアお姉様にご迷惑をおかけしてしまったようで…」
俺のミスをシシリーがフォローしてくれるが、普段見ない笑顔をこちらに向けてくる。次は助けないということだろうか。だが、俺はアリシアの本当の気持ちを知りたい。
「アリシアは…どうなのだ」
口下手にも程がある。自分でも驚いた。普通に俺との婚約に不満を持っていないのかと聞けないのか俺は。
「例え、お義父様がなんとおっしゃろうと、王妃様の命令であろうと、ジーク様が私を相応しくないとおっしゃらない限りは、離れたいとは思いません」
そんな俺の言葉でも、彼女は察して、俺の欲しい答えをくれる。それに、答えの内容はとても嬉しいものだった。
「そうか」
彼女自身が俺を望んでくれている。そう知れただけでとても嬉しい。
「は、はい、ですから、その時はいつでもおっしゃってくださいね」
家の中に逃げようとした彼女の手を掴む。驚き、振り返った彼女に口付けをする。
「んっ」
彼女が学園を卒業するまでと我慢してきた。彼女の気持ちを知るのが少し怖かった。だけど、彼女は俺を望んでくれた。
「逃がさないからな」
言葉どおりだ。もう俺は彼女を手放すことはできそうにないし、手放すつもりはない。だが、彼女から返ってきた言葉は予想できないものだった。
「私をもう一人にしないでくれますか?」
彼女の言葉は母上に言われた言葉を思い出す。
「別にあなたが誰を好きになろうと構わないわ。だけどね、絶対に裏切らないようにね。それだけは約束して」
その時は何を当たり前のことを、と思っていたが、母上も一人になる辛さを知っていたからこその言葉だったのかもしれない。
幼い頃に目の前で両親を亡くし、彼女はスラムで逃げ続ける生活をしてきた。その後、俺が助け、彼女の祖父母や叔父夫婦が彼女をフォローしてきたつもりだったが、彼女にとってはやはり、あの数日は、孤独の日は記憶に強く残るものなのだろう。
「ああ、約束する。一人にしない」
もう、彼女を一人にしない。悲しませることなんてしない。俺は彼女と共にこれからも生きていく。
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