ジーク視点 気づき
彼女はこちらに気づいた様子だが、警戒している。この数日間で大変な思いをしたのであろう。どうすれば良いのか考えたとき、俺は、彼女にであった日に父上がしていたことを思い出す。
だから、俺は地面が濡れていることなどは気にしない。彼女の前に膝をつき、目線を合わせる。
「大丈夫?」
もちろん、大丈夫ではないことはわかっている。けれど、こんな言葉しか思いつかなかった。彼女は答えようとするが、お腹の大きな音がなる。数日間何も食べてなかったのだろう。
恥ずかしがっている彼女が気にしないように、手を差し伸べながら、できるだけ明るく声をかける。
「ハハッ、お腹が減っているんだね。じゃあ、僕についておいで、ご馳走してあげるよ」
「…あなたは?」
「僕?僕はジーク、おいで」
俺のことを覚えていないことに少し、ショックを受けながらも、今はそんな時ではないと思い直し、家に連れて帰る。
夕食を食べた後、彼女に何があったのか聞く。今まで泣けなかったであろう彼女は、涙を流しながらも話をしてくれた。彼女の話を聞いていくうちにやるせなくなくなってきた。とりあえず、あの彼女の叔父というやつはぶん殴ってやりたい。
落ち着いた後、彼女を家に泊める話になったが、結局のところ妹のシシリーの部屋に泊まることになった。
「ふふふ、未来のお義姉様との距離を縮めてみせますわ」
妹が何を言っているのかわからない。
「ちょっと待て、シシリー。何を言っているんだ」
「だって、お兄様があんなに夢中になって探していた女性なのですもの。他の女性に対しては何も興味を示さないのに、彼女だけは必死な顔をして探していたのですから、今更隠す必要もありませんわ」
「そ、それは…」
「ほら、シシリー。早くアリシアさんを案内してあげなさい」
「はーい、お母様」
彼女とシシリーが部屋に行くのを確認し、一息つく。俺はそんなに彼女のことを考えていたのだろうか。いや他にも、父上の仕事に同伴して女性には会ってきた、はずだ。思い出そうにも、彼女の笑顔だけが思い浮かぶ。俺は…
「ジーク、そこで顔を赤くしていないで、こっちに来なさい」
「あなたは、無口で、無表情なのにアリシアさんのことになると表情が豊かねぇ」
顔が真っ赤だわと、母上がころころと笑う。俺は何も言えなくなり、せめてもの抵抗として顔を背ける。
「話はそこまでにして、アリシア嬢の話だ」
父上が静かに言う。
「フォード子爵の家はならずものが今住んでいるが、メイドや家令たちが内部で証拠を探している。だから、私たちは外部に接触を図ろうと思う。ちょうど良いから、サラは王妃様のところへ、私は前フォード子爵の元に行こうと思う」
「俺は…何をしたら」
「ジークはこの家で待機だ。何か問題があった場合は対応を頼む」
これは父上が俺を認めてくれているということだろう。そのことが嬉しくなり、うなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます