ジーク視点 出会い

「…あまり面白い話ではないですよ」

「ええ、構わないわ」

 

 俺を揶揄うような、面白がるような顔をしているのは腹が立つが、逃げることもできないので、大人しく従う。


「初めて彼女と会ったのはーー」


 初めて彼女と会ったのは、俺が10歳になって、初めて父上の商売の手伝いをすることになった日、母上にフォード家なら、練習にもなると言われたことが発端だった。


 少し、緊張しながらもフォード家に向かい、そこで初めて彼女、アリシアに出会った。当時5歳だった彼女も緊張していたようで、彼女の母親の足元に隠れながらこちらを見ていた。


「こんにちは、可愛らしいお嬢さん、お名前を聞いても良いかな」

「は、初めまして、ありしあ・ふぉーどです」

「アリシア嬢か、こちらは私の息子のジーク。よろしくお願いするよ」

「はい!」


 父上が彼女に視線を合わせるために片膝をついて語りかけることで、彼女の緊張は目に見えるほどに薄れていったように感じる。そんな父上がかっこよく見えた。


「ジーク、アリシア嬢のドレスを選んであげなさい」

「えっ」

「ジーク様が選んでくださるのですか!」


 父上の言葉に驚いた声をあげるも、彼女のとても嬉しそうな声で、不安な気持ちが消える。その時の俺の心情は彼女に一番似合うドレスを見つけることしか考えていなかった。


 あの時、俺はどんなドレスを選んだかは正直覚えていない。覚えているのは選んだドレスを着ながら、俺に向かってお礼をいう彼女の笑顔だけだった。


「ジーク、今日はどうだった」


 帰りの馬車に乗りながら、父上が訪ねてくるが、頭の中は彼女の笑顔でいっぱいだった。


「彼女が可愛かった」

「…そうではなく、商売のことだ」

「……人を笑顔にできることにはワクワクした。あとは、父上が初めに彼女を笑顔にしたのはかっこいいと思った」

「そうか」


 そう言いながら、父上に頭を撫でられる。その時の父上の顔は優しい顔をしていた。家に帰ると、母上とシシリーが出てくる。


「お兄様ー」


 抱きついてくるシシリーを抱き上げ、家に入る。


「アイリスのところはどうでしたか?」


 アイリスとはフォード家の夫人のことである。夫人とは母上が貴族令嬢だったときに仲が良かったらしい。


「ジークは、彼女の娘さん、アリシア嬢のことが気になっているらしいよ」

「へえ、そうなのジーク?」

「……」


 何を言ってもからかわれそうなので、黙っておく。


「別にあなたが誰を好きになろうと構わないわ。だけどね、絶対に裏切らないようにね。それだけは約束して」

「…わかってる。それは約束する」


 母上が昔、裏切られたことは知っている。だから、俺はそんなことは絶対にしたくないと思った。


 それからは、父上の仕事に何度か手伝いとして、一緒に行くことになり、フォード家には絶対に手伝いに行くようにしていた。


 そして、3年後、俺が13歳のときに事件が起きた。

 

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