ジーク視点 取引
「あなた、もうちょっと手加減しても良いのではないかしら」
俺は今、王妃様を前に今日の売り上げを渡している。売上と言っても、シルバー商会の売上ではなく、国王たちから巻き上げた金を王妃に返しているだけだが。
「どういうことでしょうか?俺には何のことかわからないのですが?」
「ほんと、あなたはサラ様に似て来たわね」
サラとは、俺やシシリーの母親であり、元公爵令嬢でもある。加えて、当時侯爵令嬢のリリア様に、王妃になる条件として、全権利を譲渡させる書類を用意し、サインさせるように指示した人物でもある。本人いわく、抵抗されるとは思っていたので、リリア様に都合の良いように交渉できるために用意させたが、そのままサインするとは思わなかったらしい。
だが、俺は半分はサインすると読んでいたと思っている。口には出さないがな。
なぜ、俺が王妃様と一緒にいるかと言われたら、流行が過ぎた商品を今の流行の5倍ぐらいにしたものを売り、本来の差額を王妃に返すという契約を実行しているからだ。
誰がそんなものを買うのかというと、あのバカ国王と第二夫人の誰だったか、名前を忘れたが、その二人ぐらいしか無理だろうな。いや、第一王子くらいならいけるか。
どうして、こんなことをしているかというと、あいつらに金を持たせると、何に使うかわからないからだ。あいつらが使う金は民の血税である。それを無駄にするわけにはいかないので、王妃がお小遣い制にし、俺がそれを搾り取って、王妃に返すということを繰り返している。
「それにしても、今回はやりすぎじゃないかしら。この一覧を見ていると、本来の10倍ぐらい取ってるでしょ」
「ええ、それは俺の憂さ晴らしです。気にしないでください」
「…それは、アリシア・フォードのことかしら?」
「……」
「黙っているということは、認めるということで良いのかしら」
「…アリシアは俺の婚約者です。あれにやるつもりはありませんから」
「わかっているわよ。だから、私は認めていないでしょう。どうしてあれが彼女を婚約者と思っているのか不思議なのよね」
「フォード家のあの事件が発端らしいですよ」
「…あれはね。本当に申し訳ないことをしたわ。まだ、私の管理が甘かったことを痛感したもの。まさか、王とフォード家の長男が手を組んで、フォード子爵と夫人を殺害し、当主を名乗り、娘を婚約者にさせるとは思いもしなかったわ」
俺もフォード家の方が殺害されたと聞いて、血の気が引いた。もしかしたら、あの時、アリシアも殺されていたかと考えるだけで、胸が苦しくなる。
「けれど、あなたはどうしてそんなに彼女に夢中なのかしら?」
「どうだって良いでしょう」
「あら、あなたに情報をあげているのは誰だと思っているのかしら?」
ほんと、母上と同じで、この方も知りたいことがあれば、どんな手を使っても知ろうとする。これが嫌で、俺が成人してすぐに、父上は王妃の相手を俺に押し付けていった。父上のことは尊敬しているが、このことに関しては一度だけ殴ってやろうと思っている。
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