無能スキル《固定ダメージ》によって勇者パーティを追放されたのは仕方ないとして、これから幻獣種を狩りまくろうと思います。〜今更言ってももう遅い。俺は頭のおかしい女の子達と生きていくんで〜

@DivainK956

第1話 追放、そして幻獣種《リミオン》の元へ


 ーーーー奴隷市場の地獄を思い出す。

 掌に穴を空けられ、そこに鎖を通された。

 夢も希望も無く、命が端金で買い叩かれていく様は、絶望すら生温かった。

 伝染病で消えゆく命を、救ってくれたのは、隔離された檻に鎖で全身を繋がれた《悪魔》だった。



 ーーーーなんとか逃げ出した先に待っていた夢のような冒険は、すぐに打ち砕かれる事になる。

 冒険者登録をした俺は、とても弱かった。

 だが、俺には、《状態異常無効》というスキルがあった。いつの日かついてしまった珍しいスキルで、特異な魔物にしか付かないスキルとされている。主に、最近発生している《幻獣種》と呼ばれる魔物がいい例で、あいつらみたいな異界の魔物に標準装備のスキルらしい。

そのせいで、俺は勇者一行に見出されてしまった。

 最初は、嬉しかった。俺みたいな人間でも、時を騒がせる勇者のパーティに入る事が出来るのだと。だが、実態は逆だった。


 「――お前はいつになったら使い物になるんだよ!」


 その日はグリフォンの討伐に出かけており、勇者はあと一歩の所で標的を逃がしてしまったのだ。そこに、パーティにすら入れて貰えていない俺にひとしきりの罵声を浴びせた後、俺の腹を殴った。

 理不尽な暴力は常だった。誰も助けてくれる人もいなかった。


 勇者サウザンドは、伝説の剣に選定された勇者だ。自分が選ばれた人間だと信じてやまず、肥大した自尊心は小さな失敗さえ許せなくなっていた。端正なルックスと、表面上紳士的な姿を取り繕っており、周囲の人間は簡単に騙せていた。

 彼の本性は意地汚く、名誉欲に憑りつかれた亡霊のように、人間性が破綻していた。


 そのパーティの人間もそうだった。

 彼がこれから巻き起こす英雄譚にあやかろうとしているだけの、クソみたいな人間の集まりと化していた。

 魔法使いのリリは、ダンジョンで仕留めたオークの肉が不味いと言って、俺にまだ沸騰している煮え湯を浴びせた。

 僧侶のニスティは、虫を見つけては俺に食わせ、反応を楽しんだ。

 俺が《状態異常無効》というスキルを持っているだけで、散々な非道を働いた。

 ――――もはや、奴隷の頃とまるで同じだった。

 戦士のグランは・・・やられている俺を、憐れむような眼で見て、心の奥底で楽しんでいるのが分かった。見て見ぬフリをするのが上手かった。きっと、勇者に口出せなかったのだろう。


 ・・・俺は、無力だった。

 その上、元奴隷だという弱味さえ握られている。歯向かう気など起きる筈もなく、このまま被虐の日々を過ごす事に、安心さえ覚えていた。

 俺が使い物にならないのは重々承知だった。でも、役に立ちたかった。

 このままじゃ、俺は何も為せない。

 だから、耐える事も出来た。

 どんな理不尽にも、笑顔でいれば、俺だけが傷付けば、この人達は満足する。



 ――――そして、遂に、俺は追放された。



 「―――もう貴方は必要無いわ。早く次のパーティを見つけなさい。ま、私達より厚遇な居場所は無いだろうけど。邪魔よ、消えて。」


 魔法使いのリリが、高らかと笑う。酒の席で気分が良くなっているのか、手に持つワンドを脅すように俺に向けてくる。いつでもスキルを使用して、焼き殺してやるという意味だ。


 「ま、そういう事だ、レント。いや、負け犬。お前はいざ攻撃しても、どんな相手でも3ダメージしか与えられなかった。俺のパーティの控えにしては無能過ぎる。控えにいたからレベルにも差があるしな。俺らはもうすぐ20レベル、お前はまだ3レベル。お荷物以下のただ飯喰らいに用は無い。」


 勇者サウザンドがそう言い放つと、一行は居酒屋を後にした。


 ――――悲しいとか、悔しいとか、憎しみの感情は一切、湧いてこなかった。

 奴隷市場で《悪魔》から折角貰った命を、無駄にしたという絶望だった。

 この時の俺は、死を選ぶ事すら容易かった。


 ――――気付いた時には、冒険者ギルドの前にいた。

 俺は、自分のステータスカードを確認する。


 レベル:3 クラス:アンノウン Age:17

 HP:43 MP:30 攻撃力:9 防御力:15 魔法力:7 素早さ:12

 保持スキル:《状態異常無効》《固定ダメージ》


 攻撃力が9もあるのに、どんな相手にも3ダメージしか与えられないのには、この《固定ダメージ》というスキルが関係していた。

 これは、一度のダメージ量が固定しているスキルである。

 相手の防御力に関係なく、俺が与えるダメージは、3しか無い。

 だから、この無能スキルがある限り、俺はどんな攻撃をしても、3しか与えられないのだ。


 「―――ええっと、レントさん一人で、このクエストを受けるんですか?」


 受付嬢のアンヴィルが引きつった顔で応えた。

 俺が勇者パーティでお荷物だったのは周知の事実で、無能の烙印を押されているのは分かっている。装備も機能性のいい作業服を羽織っている程度で、貧弱そのものだった。


 幻獣種の一種 《リミオン》

 突如、各地で発生している異界からの使者と呼ばれる幻獣種の一匹。

 巨大な獅子の表面に液体金属が張ってあるような外見で、素早そうな見た目とは反して重く、そう素早くない。が、全ての攻撃を受け付けない防御力を突破出来る冒険者は極めて限られており、討伐不可能と目されている幻獣種である。

 命知らずな冒険者がこのクエストを発注し、じわじわと嬲り殺される事案が後を絶たず、冒険者ギルド内でも噂となっていた。


 これは、無謀な賭けだった。

 「―――もう後が無いんですよ。お願いします。」

 このクエストを受ける事は、すなわち死を意味していた。

 自殺ついでに殉死しようと、《リミオン》の討伐依頼を受注する冒険者が一定数存在する程に、無謀な賭けだった。

 きっと、傍から見れば、勇者パーティを追放され、自殺しようとしているように見えたに違いない。


 「・・・分かりました。お願いします。」


 俺は、右手を朱肉に染めて、判を押した。

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