第13話 コネクト・ミー
過去&現在&未来の俺:あけましておめでとう!。
窓の外では、しんしんと降る雪が街灯に照らされて光を放っている。
昔は《年賀状》と呼ばれるものがあって、《ハガキ》という小さな紙を送り合っていたらしい。今ではこうして一月一日になった瞬間にチャットでやり取りができる。昔の人は何とも面倒なことをしていたのだなと思う。
未来の俺:今年一年もよろしく
過去の俺:よろしくお願いします。
現在の俺:よろしく
ノートパソコンを閉じて立ち上がり、ベッドに仰向けになる。
明日は朝から家族で初詣に行くことになっている。ハガキがなくなっても、初詣には足を運ぶ。
何はともあれ明日の朝は早い。
俺は羽毛布団を被り、遠くから聞こえる除夜の鐘に耳を澄ませながら眠りについた。
「あけましておめでとう」
そう言って、家族そろって朝食の席につく。
父さん、母さん、薫、そして俺――いつも通りのメンバーが今年もこうして一緒に新年を迎えられることを嬉しく思う、みたいなことを父さんが言う。そして、俺たちはぜんざいを頬張った。母さんのぜんざいは今年も最高だ。
「今年はいくつ回るの?」
早速ぜんざいを食べ終えた薫がおせち料理を皿に盛っている。
「
「近い方がいい」
父さんの質問に薫は即答した。単に遠くに行くのが面倒なだけだろ、薫の奴。まあ、俺も初詣でわざわざ遠出したいとは思わないけど。
「じゃあ三吉、多賀、日生の順に行くか」
母さんはいつも通りテレビ番組に夢中で聞いちゃいなかった。
ごった返した三吉神社の境内を歩く。
初詣に行くといつも思う。こんなにたくさんの人が住んでいたのかと。日常生活で人が多いと感じる場面はめったにない。スーパーの安売りセールのときくらいか。
人ごみは嫌いだ。そこにいるだけでエネルギーを持って行かれるような気がするから。
三吉神社は規模としては小さく、参拝客も比較的少ない部類に入る。次に向かう多賀神社がここいらの地元で最も有名で規模も大きい。つまり、参拝客で溢れていると思って間違いない……考えるだけで気が滅入ってくる。
破魔矢を返しに行ってくると言った父さんを見送り、俺と薫は参道でベビーカステラを買って頬張る。母さんは常香炉に向かった。いつものように「よくなれ、よくなれ――」と煙を自らの頭にかけているのだろう。
雪の積もった白い参道を行き交う人々を何とはなしに眺めていると、見知った顔が目に留まった。
佐城さんだった。両親と思しき二人と一緒に手水舎で手を清めている。
こちらに気づいた佐城さんは二人に何かを言って、一人でやって来た。
「あけおめ」
彼女は薫と少しおしゃべりをした後、俺に向かって「お兄さんもあけましておめでとうございます」と笑顔を見せた。俺は先日嘘をついた罪悪感から、「おめでとう」と視線を逸らして挨拶を返すことしかできなかった。佐城さんが俺の失礼な態度に特に気を悪くした様子はなく、彼女は「両親を待たせていますので、失礼します。今年もよろしくお願いします」と言って礼儀正しくお辞儀をし、去っていった。
「いつまでも気にしすぎでしょ」
薫にはお見通しのようだった。
それもそうか。俺たちは家族で、ずっと一緒に暮らしてきたのだから。
行き交う参拝者を眺める。彼ら彼女たちのほぼ全員が、コネクト・ミーを使って過去や未来の自分とやり取りをしている。ほぼ全員という言い方をしたのは、中には意図的に使わない者もいるからだ。いつの時代にもそういった人たちはいる。
コネクト・ミーがなかった頃を生きていた人たちのことを羨ましく思うときがある。今やこの体は俺一人のものではなくなった。過去と未来――少なくとも三人のものになった。もちろん彼らが俺であり、結局俺の体は俺一人のものではあるのだが、どうしてもこうやってやり取りをしていると、自分一人だけの体だとは思えなくなってくるのだ。
コネクト・ミーがリリースしてからの数十年で自殺者が大幅に減ったと、嬉しそうに報道していたアナウンサーを思い出す。そして理由について訊かれた専門家が、自分の命が自分だけのものではないと考えるようになったためだろうと答えていた。
果たしてそれが本当によかったのか、俺にはよく分からない。
分かるのは、もう俺が引き返せない地点まで来ているということだ。
過去や未来にいる彼らのことを考えずに過ごすことは、もはやできない。
空から降ってきた雪が、袋から取り出したベビーカステラを白く濡らした。
コネクト・ミー まにゅあ @novel_no_bell
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