第5話 厨二病

 居間で沖縄土産の紅芋タルトを食べながらノートパソコンをいじっていると、未来の俺から連絡がきた。


 未来の俺:オーロラ見てきた

 現在の俺:オーロラ!

 過去の俺:オーロラ?

 未来の俺:空でゆらゆら光るやつ

 現在の俺:ほんまに見てきたんか?

 過去の俺:表現が稚拙

 未来の俺:未来で答え合わせしてくれ!

 現在の俺:どこに見に行ったん?

 未来の俺:カナダのイエローナイフ

 過去の俺:イエローナイフって名前かっこいいな

 現在の俺:黄色い刃――厨二病再発しそう

 過去の俺:紅蓮の――

 現在の俺:――炎に抱かれろ

 過去の俺:夢に――

 現在の俺:――溺れろ

 過去の俺:さすが俺

 現在の俺:まあな

 未来の俺:再発したな

 現在の俺:紅芋タルト美味し

 未来の俺:沖縄行ってきたんか

 過去の俺:羨まし

 現在の俺:タルト紅芋

 過去の俺:芸人みたい

 未来の俺:ナイフイエロー

 過去の俺:戦隊モノみたい

 現在の俺:センスないわー

 未来の俺:お前に言われたくないわー

 過去の俺:どっちもどっち。月とすっぽん。ムーン・アンド・スッポン!

 現在の俺:厨二病炸裂!

 未来の俺:炸裂厨二病!

 過去の俺:どっちもイタい

 現在&未来の俺:お前が言うな


 薫が居間に下りてきた。

「……自分でお土産食べてるの?」

 呆れた調子でそう言って、向かいの席に座る。

「一つもらうね」

「どうぞ」

 薫は携帯を、俺はノートパソコンをいじりながら紅芋タルトを食べる。

「そういえば、オッキーには会ったの?」

「オッキー? 何だよ、それ」

 有名人か? あるいは天然記念物?

「国際通りに出没するって聞いたよ。アロハシャツ着て、北海道の旅行パンフレットを配ってるって」

「……何者なんだ、そのオッキーでいう奴は」

 北海道の観光促進事業を担当している職員とか? 

 暑い沖縄の次は涼しい北海道へ、みたいな感じで北海道をアピールしてるのだろうか。敵陣のど真ん中で宣戦布告するくらいにぶっ飛んだことしてるな。

「でもアロハシャツっていかにも沖縄感丸出しだよな」

 北海道をアピールするなら、夕張メロンのイラストが描かれたシャツとかにするだろう。

「そいつは一体何でそんなことしてるんだ」

 薫は新たに紅芋タルトを二つ、一気に手に取った。

「私がこの二つの紅芋ちゃんを使って説明してあげようではないか」

 俺が止めるよりも早く、薫は袋を二つとも開封し、片手に一つずつ紅芋タルトを持った。

「こっちが北海道で、こっちが沖縄だとするでしょ」

 右手と左手に持った紅芋タルトを順に持ち上げて、薫は説明を始めた。

「ある夏のこと、観光客が沖縄にやってきました。観光客は沖縄を満喫しましたが」

 薫は左手の紅芋タルトをぺろりと平らげた。

「心の中ではほんの少しだけ、もうこんな暑い場所はこりごりだとも感じていました。そんなとき観光客は街中で北海道のパンフレットを渡されました。おお、これはいい、と観光客は思いました。涼しいところでのんびりと綺麗な景色を眺めながら、夕張メロンを頬張る――素晴らしいひと時ではないか。そうして観光客は、次の週末に北海道に出掛けましたとさ」

 残る右手の紅芋タルトも同様にして薫の胃袋に入った。

「そして、その逆もまたしかりなのである」

 もぐもぐと口を動かしながら、薫はそう言った。こいつ、本当にマナーの欠片もないな。

「つまり、沖縄と北海道が手を組んだってわけか。じゃあ北海道にもいるのか、そのオッキーみたいな奴が」

 再び紅芋タルトに手を伸ばそうとした薫の手をぴしゃりとはたき落とした。

「お前、もう三つ食べただろ」

 全部で十二個入り。四人家族だから一人三個までだ。

「ぶーぶー、兄貴のケチ。北海道にもいるよ。ホッカーって呼ばれてる」

 北海道のホッカーと沖縄のオッキーか。安直なネーミングだな。

「紅芋ちゃん食べたし、うちは部屋に戻るよ」

 居間を出ていこうとした薫の背中に訊いてみた。

「ホッカー・イン・ザ・スカイ――」

 薫は振り返って、にやりと笑う。

「――オッキー・イン・ザ・シー」

 やっぱり、厨二病は最高だ。

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