夏の残り物

桜咲 人生

第1話秘密

僕にはひとつの秘密がある。

その秘密は絶対にバレてはいけず、隠しながら生きていかないといけない。

そのためにも人とは深い関係を築いてはいけない。

築いてしまってはバレるかもしれないから。

そうやって何年と生きてきたんだから。

今日だって同じだ。

いつも通りの学校を送り、いつも通りの毎日を過ごせばいいんだ。

だから席替えだなんて楽勝だ。

いつも通り隣の人と喋ったり、少し仲良くなれば言い、それだけだ。

そう思い、話しかける。

「よろしく頼子さん」

「よろしく涼くん」

頼子さんは少し微笑みながら、挨拶をしてくれた。

それからというものはいつも通りの毎日だった。

いつも通り過ごし、放課後には部活をして家に帰る。

そうしたら、母親の声が...

ああ、足が重い。

今日もまたカップラーメンでいいや。

お湯を注ぎ3分間待つ。

制服を脱ぎ、部活で着た服を脱ぐ。

ハンガーを制服をかけ、カップラーメンを食べる。

...まずい。

そしてまた同じ毎日が始まる。

今日もまた同じ

いつも通りの朝飯を食べ、制服に着替え家を出る。

いつも通りの通学路で横断歩道を渡る。

この横断歩道まで来たらあとはもう少し。

「もう少しで赤にあるから急いで」

「ちょと速いよ」

後ろでは同じクラスの2人が渡ろうとしている。

今日という日は少しきまぐれに、後ろの人と話そうとした。

何故かだが今でも分からない。

ただ無性に人と喋りたくなったからだ。

後ろを振り向くと、同じクラスの頼子さんが渡ろうとしていた。

その時トラックが頼子目掛けて一直線に向かっているのが見えた。

やめろ、見なくていい、助けなくていい。

今いったって、助かる訳ない。

そんなことはただの薮蛇だ。

ただ何故だろう、今日はついてない。

彼女の目と合ってしまった。

その目を見て思い出してしまった、母親のあの目を。

今日はついてない、本当についてない。

足を前に出した、そして急いで彼女を助けに行く。

あと少し、そう思った時、鈍い音がなり意識が途切れた。










いい匂いがする。

昔にも嗅いだ気がする、いい匂い。

ゆっくりと目を開けると、そこは見た事のある天井だった。

「先生、患者さんが目を開けました」

隣にいた看護師さんが一目散に駆け出していった。

あ、そうか轢かれたんだ。

思い出した。

重い体を起こし立ち上がろうとする。

うぅ、身体中が悲鳴をあげる。

タッタッタッとリズムのいい音楽を奏でながら医者が走ってきた。

「君大丈夫かい。1ヶ月ずっと寝ていたんだよ。

今すぐに検査したいんだけど良いかな」

選択肢は1つしかなかった。

それから約2時間みっちりと検査を受け、ベットに戻された。

次の日、面会をしたいといい頼子が来た。

頼子は学校の制服を着て、バスケットを手に美味そうな林檎を2つ入れて来てくれた。

頼子はリンゴを剥きながら、頼子は学校の事を手短に話してくれた。

その時の目は焦点が合わずどこかふらふらと動いていた。

僕は気になり声をかける。

「どうしたの?どこか悪い所でもあるのかい?」

頼子はモゾモゾと足を動かしながら、なにか考えを決めたのか、頭を下げ謝ってきた。

「ごめんなさい、私の不注意であなたを怪我させてしまって」

「いえいえ、あれは相手側が一方的に悪いです。

それにあなたが怪我をしなくてよかった」

頼子は安心したのか、ほっと胸を撫で下ろし林檎を出してくれた。

「心配してたんです。もしこのままずっと起きなかったらと。

でも安心しました。あなたが目を覚ましてくれて。

頼子は少し微笑みながら喋っていた。

その表情はどこか綺麗で儚いように見てた。

「それはそうと、1つ聞きたいことがあったんですよ」

「あの時の事故、あなたから出た血があなたの体の中に戻って行っていたのですが」

「どうしたの急に、熱でもあるんじゃないの」

「そんな駆け引き要らないんで」

どうやら見つかっていたらしい。

いつかはと思っていたのだか、それが今日とは。

「君の見た通りの事が僕の体ではおこっている」

「それはどう言う意味で

バサッ、通路側から紙の落ちる音がした。

そんな事は気にせず話を進める。

「はぁ、分からないのか。俺は。お前見た通り、血が出たらある程度は戻っていくし怪我だって人の数倍治りが速い。

まあ、怪我を治すのも一朝一夕って訳でもねえからな。

半不老半不死とでも考えてくれ」

そうこれは僕の秘密。

随分と昔になったこの体の秘密。

こんなすんなりと言ってしまっても、こいつならいいだろう。

誰にも言わないだろうし。

「ふーん、そんな体だから助かったって訳。

てかなんでそんな体になったわけ」

「それは...別に今関係ないだろ」

「関係ありますよ。気になってるんですから」

「てか、なんでそんなに冷静でいられるんだ。

前から知っていたような反応だし」

「別に知っていたわけではないですよ。

予想してたんですよ。もしあんな大事故を助けられる方法を、そうしたらね」

頼子は妙に察しがいい。

そもそもそんなとんでも理論だれも考えない。

考えたとして、直ぐに考えから外す。

もしかして、こいつも..

「そんな事なら明日から学校行けるよね。

明日待ってるから」

そう言い残し颯爽と部屋を出ていく。

次の日

いつも通りの朝飯を食べ、制服に着替え家を出る。

あの後医者の人に出ていくと伝えた。

もちろん断られたけど無視し出ていった。

学校に着くと違和感を感じた。

いつも通りの教室が何故か強ばっている。

一人一人の声が鮮明に聞こえる。

それらを無視して席に座る。

声の中から一人が飛びだし僕の前に来る。

それから躊躇いもなくこんなことを言ってきた。

「ねぇ、涼君って死なないの」

え、なんで、どうして...

周りの声が強くなる。

どんどん声が強くなり、息が荒くなる。

周りの声を抑える為、耳を塞ぐ。

耳を塞ぐと心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

怖い、怖い。

どんどん時間が経って行くように感じる、自分だけを置いて。

このままではまずい、そう思った時には教室を出ていた。

教室を出て、廊下を走る。

同じ部活のやつにも会ったが無視して走る。

走って走って我武者羅に走っていた屋上に出ていた。

屋上に出て人がいない事を確認すると、どっと息が漏れた。

なんでバレてんだよ。

まず最初にそれが浮かんだ。

この事を言ったのは一人しか居ない。

最初で最後だと思い、秘密を言ったこの思いは...

踏みいじられたのだ。

汚い、自分のエゴで。

同じ毎日だった。

同じ、毎日でも良かった。

みんなと同じように過ごしてみたかった。

でも、でももう、ダメみたいだ。

同じ毎日、無味無臭でも良かった。

それでも、もうおしまいだ。

「ごめん、母さん」

独り言をつぶやく。

「なんで、諦めてんだ」

後ろから声がする。

よく響くその声を俺は知っていた。

「私はまだお礼を言えてない」

「なんで来た。俺はたった1人にしか秘密を言ってないんだぞ!!」

激しく怒鳴ったせいか、声が裏返った。

俺は後ろに立っていた頼子を睨む。

頼子は俺に歩み寄ってきた。

「私、あなたが入院していた時、あなたの事を調べたの」

頼子は真剣な眼差しで、こちらを見ながら話を始めた。

「まず、最初に両親の事を調べたわ。あなた、子供の時事故を起こしているよね。

それも私と同じ

「何が言いたい」

「その時あなたは、脳死になったらしいね」

「でも母親は生き残った。あなたをいかせてね。

父親も嘆き悲しんだのでしょうね。

しかし、それもたったと1ヶ月だけだった。

その後、父親は違う女と駆け落ち、一人悲しむ母親を残して。

母親は願ったんでしょうね。

息子を助けて欲しい、なんでも差し出すから、と」

「その1年後息子は奇跡的に目を覚ました。

その日同時に死んだ母親と変わるように」

頼子はこちらにニヤリと見つめ、また話し出した。

「それからでしょ。あなたの体が変わっていったのは。まるで呪いのような体はあなたを苦しめた。

傷つけてもすぐに治る治療力、成長しない不自然な体。

そうでしょう、金木 涼くん」

答え合わせが終わったのか、頼子は満足そうな顔でこちらを見た。

なんでこいつは..こんなに知っているんだ。

考察だなんてレベルの話じゃない。

おかしい、異常だ。

「なんでそんなに詳しい。

そんな話は、俺か母親ぐらいしか知らないはず」

苦し紛れに言う。

「それに、お前だろ。俺の秘密を言ったのは」

頼子は分からなそうな顔でこちらを見てきた。

こいつではないのか。

いやそんなわけが...

「それについては違うよ。

私じゃない。それに言うメリットが無さすぎよ」

「確かにそうだが、お前しか考えられない」

頼子は落ち着きながら話している。

こいつ、本当に人間か。

「まあ、そんなどうでもいい事は置いといて。

涼くん、君お墓参りとかしてるの?

お母さん、哀しんでるよ」

頼子はそう言うと、用が済んだのか屋上から出ていってしまった。

やはり分からない。

一体あいつは何なのか。

それはもうどうでもいいのかもしれない。

登り始めた太陽はどんどん熱を上げている。

「墓参りでも行ってくるか」

そう決めた僕は屋上を出て、学校から飛び出した。

まだやるべき事がある。

それを終えるまで、あいつとはおさらばだ。

俺は今どんな顔をしているだろう。

きっと、後悔の無い清々しい顔をしているだろう。

今は見てくれる人は居ないが、きっといつか現れるだろう。

その時まで待つ。

暑い夏はもう去ったのだから。

ありがとうございました。

私はお礼を言う。

そう言うと、彼女はこちらを見つめ教室に戻って行った。

約束は果たしましたから。

そう聞こえた気がする。

あの子は1人でもやって行けると思う。

ただ、少し心配だな。

親友、作るんだよ。

聞こえない声で呼びかける。

これは私からの贈り物。

いいや、夏の終わりの残り物。

残るものには福があるってね。

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