第79話

     Melt


 夏休みになって、久しぶりに上八尾 リアとのお出かけだ。

 一泊で、海に行って撮影という。日帰りもできそうだけれど、現地のホテルに泊まることができるので、この仕事をうけた、という。

「また夏休み、お母さんが仕事を入れまくってくるから、一日ぐらいは休ませて、といったら、この仕事をとってくれたのよ」

 リアはそういって嬉しそうにする。モデルとして、忙しく仕事をする彼女は売れっ子であり、単独の写真集までだした。まだ中学二年生だけれど、大人を凌駕するほどの巨乳であり、かつスレンダー。その奇跡の体型と、父親ゆずりのはっきりとした、西洋風の顔立ちも相まって、ヘレニズムの女神などと呼ばれていた。

「私、ギリシャと何の関係もないんだけどね……」リアもそういって笑う。

「お父さんの血筋だと、ケルト系だよね。もっとも、日本人って西洋人の顔の区別がつきにくいし、ギリシャ彫刻のような『完璧な美』という意味なんだろ?」

「えへへ……。そういわれると、照れるね」

 リアは子供っぽく、そう笑う。写真集などでは、どちらかといえば笑顔より、きりっと引き締まった表情が多く、その子供のような、それでいて大人びた雰囲気も好評という。

「でも、この時期に水着の写真って、ちょっとびっくりだよ」

「そうなの?」

「撮影した後、編集したりすると、平気で出版するまで数ヶ月はかかるからね。夏に入ってから水着の撮影なんて、遅すぎなのよ。私も詳しくは知らないけれど、今回は雑誌の表紙なのかもね」

「どういう仕事をしているのか、分からないの?」

「当然、知っているのもあるけれど、お母さんがフィルターをかけていて、私に知らせてくれない仕事もあるの。どういう雑誌に載るか、私も知らない撮影も結構あるのよね」

 母親としては、今や十代のガールズモデルとしては異例なほどの人気をほこる、娘のことが心配で仕方ないのだろう。でも……「よくお泊りを赦してくれたね?」

「私がブチ切れる……と思ったんじゃない? 実際、春休みみたいなことをしたら、もう仕事を辞めるって言ったからね」

 なるほど、一日ぐらいなら……ということのようだ。だから日帰りもできるのに、わざわざ宿を準備してくれたらしい。


 ここは部屋にも露店風呂がある。海に面した部屋で、海をみながらのんびりとつかれるのだ。外にでかけることはNGだけれど、この中では二人きりで過ごしていい、そんな心づかいだ。

「ねぇ、一緒に入らない?」

「え? 二人で入るには、小さすぎない?」

「だからいいんじゃない……」

 そういって、照れたようにちろっと舌をだしてみせる。

 オレも赤くなりながら「じゃあ、一緒に入ろうか」と応じた。

 まだ部屋に入って、着替えてもいなかったので、リアはそのまま服を脱ぐ。先ほどまで、浜辺で水着になっていたとは思えないほど、白い肌がまぶしいほどだ。

 先に窓を開けて、外にでて小さな湯船に「それッ」と飛びこんでいる。こうした子供っぽさも、多分小さいころから知っているオレにだけ、みせる姿だ。

 オレも服を脱いで、一応股間をタオルで隠しながら外にでると、夕焼けに染まり始めた空と、海の波音がとどいて、非常に風情を感じられた。

「もう……、タオルで隠すなんて、風流じゃないなぁ」

「こういうとき、男の方が大胆になれないものだよ。それ」

 オレはゆっくりと、リアの右となりにゆっくりと体を沈めた。お湯は気持ちよく、それ以上にリアのみずみずしい肌の感触が、オレにとっては心地よい。

 せまい湯船で、体を密着させるので、嫌でも彼女の大きな胸がオレに押し付けられてくる。

「ねぇ……。もう、したいな……」

 そう甘えてくるけれど、オレもぐっと堪えて「もう少ししたら、夕飯を運んでくるんだから、それを食べてから……だよ」

「……残念」

「お腹がいっぱいになって、何の煩いもない時の方が、集中できるだろ?」

 そういいながら、実際はお腹が空いていたときの方が興奮しやすいことを、オレは知っていた。きっと生命の危機になると、子孫を遺そうとするモードが働くのではないか? と思っていた。


 食事も部屋で、二人きりでとる。それからは自由時間だ。自由……というより、二人でからみ合い、不自由になる時間と言った方がいい。

 ただ、食事をとるとリアは眠ってしまった。朝から撮影をしており、その疲れがでたのだろう。オレに背中をもたれかけたまま、ぐっすりと眠ってしまった。

 やっと身長が追いついてきたけれど、まだ抜くことはできない。彼女は自分より背の高い人……という条件をつけているため、恋人にはなれない。でも、彼女は百七十をいくつか越えた辺りで、止まったようだ。オレが彼女を抜くことができるかどうかは分からないけれど、前の人生ではもう少し背が高くなったので、そこまではいけるかもしれない。

 そのとき、恋人になれるのだろうか……? モデルとして有名になったリアの寝顔をみつめて、そんなことを考えてしまう。

 そんな彼女はふっと目を開けると、すぐに伸びをするようにして、オレにキスをしてきた。

「郁君との時間をムダにしちゃうのは嫌……」

「オレにとっては、リアの寝顔をみるのもムダじゃないよ……」

 オレがそういうと、リアは頬を染めながら、もう一度キスをしてきた。

「ねぇ、さっきできなかった、お風呂でしようよ」

 オレも異存はなかった。浴衣を脱ぐと、二人で外の露天風呂にいく。オレが先に湯船に入って、彼女がその上から覆いかぶさってくる。かつてはバックが好きだった彼女だけれど、今ではどんな体位でも構わない。そのおかげで、大きくて形のよい胸をオレは手で慈しむことができる。

 湯船の中で合体しながら、動くことさえない。二人で抱き合い、昔から触れ合ってきたその感触を楽しみながら、それでもオレたちは十分なのだ。


「また……会えるのは数ヶ月後なのかなぁ?」

 湯船の中で、接合しながらでも、彼女は寂しそうにそう呟く。人気者で、会うだけでも大変だし、ましてやもう二人で外を歩くことさえ難しくなった。モデルには彼氏がいても大丈夫、と言っていたけれど、ここまで名が知れてしまうとそういうわけにもいかないのだ。

 オレは彼女とくっついたまま、湯船から立ち上がった。

「……郁君?」

「織姫と彦星は、一年に一回しか会えないんだ。こうしてオレたちは数ヶ月で会うことができる……。贅沢を言っていたら、あの夫婦からも嫉妬されるよ。だから、オレたちはその数ヶ月分を、この一日でめいっぱい楽しもう」

 オレたちは互いに一分、一秒を惜しむように体を重ねる。互いにむさぼるよう、お互いのぬくもりを、感触をその体に刻みつけようと……。

 夜が白々と明けてきた。オレたちはまた一緒に湯船に浸かりながら、互いに火照った体を冷やすことすらもったいない……とばかり、まだくっつき合っている。

 最初にエッチをしたときも、彼女とは明け方までずっとしていたことを、今でも思い出す。

「織姫は一年に一度しか会えなくても、彦星と夫婦だったんだよね……。羨ましいな……」

 そう呟くと、リアはぎゅっと抱き着いてきた。今はそれに答えてあげることはできないけれど、オレもその体を抱きしめてあげた。







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