第66話
Slimy
小平を救えなかった……。やはり、前の人生とは随分と歴史が変わっていることを思い知らされた。なぜなら、もしこのような事件が起きていたら、オレとて知らないはずがない。もっとも、前の人生ではすでに小平が家出をしており、オレの通う中学とは無縁……というか、父親とは離れていたために、事件に巻きこまれることすらなかったのかもしれない。
ただ皮肉なことに、オレの「英雄」との評価はうなぎ上りだった。何しろ、トラブルのある部屋に単身でとびこみ、暴れる父親をノックアウトして、母親と娘を救ったのだから。
小平は学校で、オレに話しかけてくることはほとんどなかったので、オレたちの関係も知られていない。彼女は緊急時に「英雄」のオレに助けを求めた……。周りにはそう受け止められている。
それもまた悲しい話ではないか……。彼女は、オレを利用するためにエッチをしていた、といった。でも、本当にそうだったのか……? あれだけ嬉しそうな声を上げて感じていたのも、演技だったのか……?
その答えはない。もう引っ越してしまった彼女に、尋ねることもできない。恐らく尋ねたところで、答えてもらえないだろう。彼女はそうやって、オレを忘れようとしている……そう思った。
その日は、幣原 真清の家に呼ばれた。一つ上の中学三年生で、私立に通う。自分も今日は一日フリーで、両親も朝から出かけていて、夕方まで帰ってこない、というエッチが大好きで、だからずっとオレと関係をつづける彼女にとって、何とも最高の一日である。
珍しく玄関からふつうに訪ねると、出てきた幣原はすぐに手を引いてオレをお風呂場に連れていく。待ち切れないようにオレにキスを求めながら、彼女は服を脱ぎ捨てると、湯もはっていない風呂桶にオレを押しこみ、その上から跨ってきた。
彼女の家は築何十年という古い家で、お風呂場もユニットバスのようなものではなく、洗い場も広くて、風呂桶はヒノキでできていた。
ただ、どうしても木製の湯船は、湯を張っていないと少しヌルッとする。彼女は自宅なので慣れているのだろうが、オレは背中とお尻に感じるぬめりと、もう十分にとろとろになった彼女の中のぬめりと、何だか濡れてもいないのに全身ぬるぬるな感じがする。
「ねぇ、お湯を入れてみない?」
「え? つながったまま}
「もちろん!」
彼女はこちらの同意がないまま、お湯の蛇口をひねっていた。自分勝手なエッチが好きなのが彼女なので、ため息をつきつつも、文句は言わない。お湯がオレたちの腰までつかってくると、ちゃぷ、ちゃぷッと、いつもと違う音がするようになり、さらにお湯がオレのにまとわりついてきて、急に滑りが良くなったように感じられた。
「あぁん♥」
彼女も足が浮くような浮遊感と、滑りがよくなったことで高速による律動が可能となり、未体験の高速エッチで、すぐにイッた。
ただ、彼女が一度で満足するはずもなく、湯船にお湯が溜まってくると、その浮遊感を愉しみつつ、ゆっくりと動く。逆に今度はお湯が抵抗となるので、ゆっくりとしか動けないのだ。
「あぁ……、こういうのをやってみたかったのよ」
そう言いつつ、すぐにオレを伴って湯船からでると、ボディーソープを全身にぬりたくり、それで体をこすりつけてくる。
彼女は中学三年、まだそんなものに頼らずとも肌はすべすべだし、みずみずしさをたもっている。むしろ、そういう体験をしたい、ということだろうと、オレもぬるぬるのボディコンタクトを愉しむことにした。彼女は中三としてもかなり大きな胸であり、要するにエッチな体というのがぴったりの表現だ。
ふだんはめがねをかけ、真面目なイメージであり、実際に本人はそういうタイプである。
ただ、勉強で溜まったストレスをエッチで吐きだしてくる。しかも、今のところオレとのエッチに満足しており、逆にオレ以外とはエッチしない。彼氏ではないけれど、セックスフレンドとしての任は満たしており、だからこうして家にも誘ってくるし、小学生のころからの付き合いだ。本当に彼女はエッチについては貪欲で、色々な体験をしてみたいのである。
そしてふたたび、湯船へと誘ってくる。
彼女とエッチをしても、オレは出すことがないので、そのお湯には彼女の潤滑油だけが含まれている。またぬるぬるか……。オレも苦笑いを浮かべた。
お昼ご飯はオレがつくることにした。小さいころから料理をしているし、彼女はしたことがない、という。
ただ午後からもやる気満々なので、彼女は裸エプロンで、ダイニングで待つ。ある意味それも、やってみたかった体験だろうが、何かちがう……。オレは油撥ねを気にして、Tシャツとパンツだけは穿いてキッチンに立つのだから。
簡単に焼きそばをつくって彼女と一緒に食べる。そのときふと、彼女に尋ねてみることにした。
「そんなの、嘘に決まっているじゃない」
小平のことを相談すると、言下にそう断言する。
「女の子はね。好きな男のためには平気で嘘をつくのよ。相手に幸せになって欲しいから」
「男だってそうだと思うけど……」
「男はダメよ。すぐに嘘がバレる……というか、女が見抜くもの。ま、できた女はその嘘に乗っかって、男の顔を立てるんだけど」
彼女は社会の動きや、男女の機微についても冷徹な目を向けるタイプで、その言は信用できた。
「やっぱり、彼女は嘘をついたのかな……」
「この前の事件の子、でしょう? これは推測だけれど、アナタに助けを求めた時点で、彼女はそれが今生の別れになる、と気づいていたのではないかしら? 多分、父親の暴力を堪えてきた。そうできたのはアナタがいたから。アナタという相手ができて、そんなツライ状況でも心のよりどころになっていたのではないかしら?
でも本当に父親が壊れてしまい、母親は離婚するだろう。そうなるとここにはいられない。そうじゃなかったら、もし死ぬことになったとしても、アナタには頼らなかったかもしれないわ」
あの部屋で呼びかけたとき、彼女がつぶやいた「ありがとう……」の意味を、それは説明するのかもしれない。
「オレはどうすればよかったのかな……?」
「あら、アナタにしては珍しいわね。いつも鉄砲玉のように、自分の考えで突っ走っていくのに……。もし彼女を引き留めるにしても、彼女は苦しむと思うわ。それは負い目を感じて、生きていくようなもの。恋愛のドラマだと、引き留めた彼女が、泣いて喜んでエンドロール……かもしれないけれど、それは男目線ね。一度、女がこうと決めたら、やっぱりそこは貫かせてあげないと……。
引っ越しをして、遠距離になってまで貫ける愛だったのかどうか……。お互いがぎりぎり踏みこめなかった時点で、やっぱりそこには壁があるのよ。それを乗り越えるイベントで、吊り橋効果でくっついても、どうせ長続きはしないわよ」
彼女はまだ、本気で人を愛したことがない。憧れた人は、自分を利用して関係を迫ろうとした人で、オレが助けたのだけれど、まだ小学生だったこともあって、その後はきれいさっぱり忘れてしまった。
そんな彼女のシニカルな意見だけれど、心が軽くなるのを感じた。
「それより、午後もお風呂場でしましょう」
ドロドロの愛憎劇ではなく、ぬるぬるの水中で体が軽くなる方は、まだまだ続きそうだった。
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