第23話

     Ma-Boy


 富士見家のお風呂――。いつも帰りが遅くなる両親に代わって、二歳下の妹をお風呂に入れている。

 彼女はあまりオレのことが好きではない。前の人生でも、オレとの接触を避けようとしていたし、オレが大学に通うようになり、家を空ける機会が増えると、ほとんど没交渉になった。

 結局、そのまま大人になって、歳を重ねてから両親が亡くなったときに顔を合わせたぐらいで、遺産の話も弁護士を通してきたし、オレが死ぬときにはどこで暮らしているのかも知らないほどだった。

 この時間軸でも、幼馴染の七海と一緒にいたときは、七海にくっついて一緒にいたけれど、七海が引っ越してしまったら、オレとはあまり話もしなくなった。それでもご飯をつくったり、お風呂に入れたり、オレが世話をしている。彼女もオレの世話にならないと、自分一人ではうまくできないことを理解しているので、こうして一緒にお風呂に入る。

 シャンプーハットをかぶせ、髪を洗う。体も自分一人ではできないので、オレが洗ってあげる。

 昔は気にならなかったけれど、この時間軸になって、少女たちと肉体関係をむすぶようになってから、女の子の体をみてしまうようになった。まだ七歳で、決して女性らしくもないし、当然のようにそれは幼女のままだけれど、この子もいつか、大人になっていくんだ……。そう思うと、感慨深い。きっとそこまで、一緒にお風呂に入っていることはないだろうけれど……。


 春休み、最後の日。明日から学校なので、準備に忙しいところだろうけれど、オレは幣原に呼びだされた。

 彼女の自宅には初めて来たけれど、地元の名士といった風格のある大きさと、趣を兼ね備えた家だ。

「午前中、両親がいないの。早く」

 彼女は玄関に迎えにくると、オレの手をとり、すぐに二階の自室へと連れていく。そこは驚いたことに、とても簡素で、味気ない印象をうけた。男友達の部屋にきたときの方が、よほど胸躍るような感動もあったろう。

 囚人室……というほどではないにしろ、ベッドと勉強机はあるけれど、それ以外の家具らしい家具はない。廊下には本棚があって、勉強道具などもそこに置いているのだろうし、そこに勉強机もあったので、恐らく通常はそこで勉強するのだ。そこにある机も、時おり部屋で書きものをするときにつかう程度なのだろう。あまり物が置かれていない。つくりつけのクローゼットに洋服などが入っているだけで、それ以外の自分のものすら、ここに置いていないようだ。

 そんな部屋で、彼女はすぐに服を脱ぐ。部屋着の簡単なトレーナーなので、すぐに全裸となった。オレも求められるまま、全裸となる。

 ただそのとき、意外なことが起きた。服を脱ぐときに外していた眼鏡を、彼女はかけ直す。それは彼女の目が悪く、ぼんやりとした世界で、性的なことをするためだと説明されてきた。

「私……、もうこの関係、終わりにしようと思うの」


 オレも驚く。「え? どういうこと?」

「私は大人になって、いつまでもこんなことをしていてはいけない、と思ったの。頭がとろけて、勉強にも身が入らなくなるような……。こういうことは、いつか止めないといけない」

 それは分かっていたこと。でも驚いたのは、前の人生でも彼女が自殺したその日が近づいている、この段階で言われたことだった。

 そして、オレにはそれを覆すことができないことを思い知らされた。なぜなら、彼女が求めるままにそうしてきただけで、別に男女として付き合っているわけではないし、彼女が止めたいというなら、それで終わる関係なのだ。

「なぜ眼鏡を?」

「今日は、あなたのことを、ずっとくっきりした世界でみていたい。私がしてきたことのケジメとして、どういうことをしてきたのか? ちゃんとそれを目に焼き付けておきたいの」


 オレは頷くしかない。

 彼女は眼鏡をかけたまま、キスをしてきた。こちらのまつ毛が眼鏡に当たるけれど、真清は気にしない、いつも通りの激しいものだ。ただ時おり目を開けて、オレの顔を確認してくる。それは、最初にも言ったように、オレのことを目に焼き付けておこうとするものだろう。

 彼女はオレを自分のベッドに押し倒すと、すぐに跨ってくる。前戯をするタイプではなく、しなくても事前に興奮し、濡れているのだ。

 オレも、全裸でしたのは前回が初めてで、改めて彼女の体をみる。最初からくらべると、大分大きくなった。オレの上で律動をはじめると、昔はほとんど揺れなかったのに、今ではその揺れがはっきりと分かる。間違いなく、こうした行為が彼女の第二次性徴を促したのだろう。女性ホルモンを大量に分泌させ、小学五年生になろうという段階で、大人の女性の仲間入りを果たしたのだから……。


 彼女の一回目は早い。それは事前に興奮していたぐらいだし、オレの大きさにも満足しているから。ただ、その日は様々な体位を求めてきた。それは色々なことを体験しておこう、という向学心?

 これまでは騎乗位が多かったので、バックやサイド、それに立ちなども試してみることにする。

 彼女はその一つ、一つにおいて冷静に観察し、そしてその中で感じる。眼鏡をかけたまま、その行為を目に焼き付けようとするためか、常になく真剣だ。でも、感じやすい彼女は、絶頂までそれを保てず、盛り上がってくる気持ちで相好が崩れ、彼女は目を閉じてしまう。

 それをまた再現しようと「もう一度、もう一度」と求めてくるので、いつもの倍の時間がかかる。ただ、今日は午前中、三時間をつかえるので、とにかく彼女が満足するまで、腰をふりつづける。


 彼女の足腰が立たなくなってきたころ、オレも疲れてへとへとになり、彼女の胸に顔をうずめて横たわった。

 この胸とも最後か……。そう思うと、愛おしく嘗めたり、噛んだりしてみせる。それを彼女は両手で、後頭部を支えるようにしながら「へぇ~……。アナタって、そんな顔をするのね?」

「……ん? 何かおかしかった?」

「まるで母親に甘えるよう……」

「胸は母性の象徴だろ?」

「私に母性を感じる?」

「感じない」

 そういって、その乳首を噛んだ。彼女は「うぅん」とうめく。彼女に母性を感じたことはない。一つ上だけれど、彼女は自分勝手にオレを求めてきて、自分が満足すればそれで終わる。むしろ、オレが父性をもって彼女の相手をしてきた……とすら考えていた。

 でも、それも今日で終わる。彼女がこの後、前の人生のように自殺へと歩んでしまうのか? それは分からないけれど、でも満足そうに横たわる彼女からは、そうしたことは感じられない。ただ、これだけ性欲の強い彼女が、果たして我慢しつづけられるのだろうか……? 一抹の不安を覚えた。

 そのとき、誰かが家に帰ってきた気配がする。

 一応、靴はもって上がっているけれど、幣原 真清も慌てて「は、早く、逃げて」と窓を開けた。

 オレはこの歳で、まるで間男のように窓から出て、こっそりと幣原の家を後にしたのだった。





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