第157話 穂乃花さんの部屋での集まり

 二人の教授としばらく話をした後、風花と一緒にキャンパスの中を出口に向かって歩いている。


「ねえ、どう思う?」


「遠野教授の腕が立つのは確か。それにボクの実力も見抜かれていた」


 色々と話を聞かせてもらってわかったんだけど、遠野先生は教育学部の教授のかたわら、実家の道場でいろいろな武術の研究をしていると言っていた。

 そして、北原先生の方は武術をしているわけではなく、失われた武術や剣術について調べることを生きがいにしていて、暇を見つけては古い文献や資料を探し回っているみたい。そして見つけてきた資料を遠野先生に渡して、実践可能かどうか検証しているらしい。


「悪い人たちでは無かったよね」


「うん、ボクたちの事を心配してくれたのは分かる」


 確かに風花は、仲間たちに危険が迫った時に度が過ぎる反応することは分かっていた。もしそれが、正当防衛であっても相手に危害を加えることになったら、その後普通の生活が送れるかわからない。


「どうしたらいいか、みんなに聞いてみよう」


「うん」


「それで、これからどうする? 夕方まで時間あるけど」


 夏さんから夕食までに帰って来るように言われているので、それまでは自由に行動することができる。

 元々竹下と話していたのは、駒場キャンパスを見学した後にお昼をみんなで済ませ、そのあとは二手に分かれて行動する予定だった。まあ、お昼前にばらばらになっちゃったけどね。


「ボクは樹と一緒ならどこでもいいよ」


 そういうと思っていた。


「それじゃ、原宿に行ってみようか。近いみたいだし、面白いものもあるかも」


 僕たちはスマホのアプリを頼りに原宿まで向かう。


「風花は引っ越してくる前は東京に住んでなかったっけ。この辺は詳しくないの?」


「東京に住んでいたのは小さい頃おばあちゃんの近くにいた時だけだよ。そのあとは神奈川県だからそんなに詳しくはないかな」


 東京とばかり思っていたら違ったんだ。地方にいるとこのあたりの感覚が分かんないよね。


「樹だって、隣の町に何があるかなんて詳しく知らないじゃん」


 それもそうか、それじゃ、二人でお上りさんらしく都会を楽しんでみよう。






「あ、樹。ちょっと行きたいところがあるんだけど、いいかな」


 あれ、風花、急にどうしたんだろう。

 僕たちは今、大きな放送局の前にいる。


「もちろん大丈夫だよ。どこに行くの」


「確かこの辺りだったと思うんだ」


 風花はスマホで場所を探しているみたい。


「あった、ついて来て」


 風花と手を繋ぎ、井の頭通りを代々木公園に向かって歩いていく。


「どこに連れて行ってくれるの?」


「ふふふ、内緒」


 着いてからのお楽しみってやつかな。 


「えっと、ここを左の方が近いのかな」


 風花はスマホのアプリを見ながら進んでいるけど、どうも行ったことが無い場所に行きたいらしい。


「遠いの?」


「もうすぐだと思う。あれかな……」


 風花に連れられて来た場所は


「八幡様?」


「うん、ここでお参りしたいと思って」


 僕は神社やお寺は好きだけど、風花が神社って珍しい。


 参道をのぼり、手水舎でけがれを落とし、社殿の前でお参りをする。


「ねえ、風花。何を……」


「あ、樹。ちょっと待ってて」


 風花が熱心にお祈りしていたので、何をお願いしたのか聞こうと思ったら、慌てて社務所の方まで行ってしまった。


 そして、手に一つの袋を大事そうに抱え戻って来た。


「はい、これ!」


「開けていいの?」


 風花がうんと言うので、中を開けてみる。


「安産祈願!」


「ここの神社、ご利益りやくがあるっておばあちゃんが言ってたの思い出して……」


「う、うれしい!」


 まだはっきりとはわからないけど、織物部屋のみんなは心配しなくても大丈夫だって言ってくれている。でも、初めての経験だし不安に思っていたのは間違いない。


「ソルも子供も元気でいて欲しいから」


 ありがとう、風花。初めての経験だけど、もう怖いものは無いよ。






 その後原宿を探索し、時間になったので、夏さんの家に戻ると竹下に出迎えられた。


「おかえりー」


「ただいま……って、もういるし。今日は帰らないかもって思っていたのに」


「いや、さすがにそれはしないよ。夏さんに怒られちゃう。明日からはしばらく一緒にいることができるからね」


 僕たちは明日東京を離れる。夏休み中の穂乃花さんも一緒に来る予定だ。


「ただいま。竹下君、お姉ちゃんは?」


 そこの角で、近所のおばさんに呼び止められていた風花も戻って来た。


「風花もおかえりー。穂乃花さんなら水樹さんと買い物に行っているよ」


「そうなんだ……。私、おばあちゃんを手伝ってくる」


 風花は台所へと向かって行った。


「どうしたの? 何かあった?」


「うん、まあね、穂乃花さんにも聞きたいから、食事が終わってから話すよ」






 夕食後、寝る前に穂乃花さんと風花の部屋に集まって、今日のキャンパスでの出来事を話した。


「北原先生の講義は受けているけど、わかりやすくていい先生だぜ。ただ、学生の名前と顔を全部覚えているみたいでさ、代返したらすぐばれて、直接メールが来てレポート提出させられるらしいぜ」


 全員の名前と顔を覚えているのかそれは凄い。というか、来年受かったら先生の講義受ける可能性もあるんだ。気を付けておかないといけないかも。


「それで、入学したら俺たち三人で遠野教授の道場に通うってことになるのかな」


「竹下はどうしたらいいと思う?」


「俺としては、いいと思うけどな。今のままだと上達も頭打ちだと思うし、風花が危ないのは……確かにそうなんだよな。風花もそう思うよね」


「うん、ボクたちだけで鍛錬してもこれより上に行くのは難しい。他の流派の指導を受けるのは正しいと思う。それに自分がいざというときに止めれる自信がない……」


 テラでは自分たちの命を守ることが第一なので、そのためには相手の命を奪うことも仕方がないこととされる。しかし、地球ではそれがたとえ正当防衛であっても、相手を傷つけたというレッテルはなかなか消えない。出来るだけ、相手にケガをさせないようにする必要があるのだ。


「風花は自分の流派が人に知られるのは大丈夫なの?」


「自分の流派だなんて思ったことないよ。命を守るために必要だから教わっただけだからね。ボクたちの敵じゃないならいくらでも教えていいよ」


「遠野教授が敵かどうかはわからないけど、大人が助けてくれるっていうのなら、甘えておこうぜ」


 遠野先生たちは風花の武術を知りたいから、僕たちに優しくしてくれるのかもしれない。たとえそうでも、それが僕たちの未来のためになるのなら利用しない手はない。


「それでよ、その武術ってパルフィも使えるんだろう。あたいも練習したらできるようにならねえか」


 穂乃花さんはパルフィの夢を見ているのならやり方は分かっていると思うけど、体を使って無いからいきなりはできないかもしれないな。


「練習したらできるようになるよね。風花」


「うん、お姉ちゃんは運動神経もいいからすぐできるようになるよ」


「それじゃ、お前たちがこっちに住むようになったら教えてくれよな。痴漢を撃退したいからよ」


「「「痴漢なんているの!」」」


 みんなで穂乃花さんに詰め寄る。


「いるな。あたいは気配で分かるから、やられる前に睨み付けるから被害はないけど、怖えもんは怖えな」


 気配で分かるんなら、武術もすぐにでも覚えそうだな。


「許せねえ! 俺の穂乃花さんを怖がらせるなんて、八つ裂きにしてもしたりない!」


「ねえ、竹下君。さっきボクがやりすぎないようにって話していたの、覚えている?」


 こっちに来ることになっても、賑やかになりそうだぞ。


「ははは、剛。ほどほどにな。さて、もう遅いからそろそろ寝るか。明日は帰るからな、よろしく頼むぜ」


「「それじゃ、二人ともお休みなさーい」」






 僕と竹下は穂乃花さんの部屋から客間へと向かう。


「さあ、明日はあっちでもテムスが帰ってきそうだから、賑やかになるね」


「あ! ……そうだった、俺、眠るのやめようかな」


「ダメだって! ファームさんも一緒に来ちゃうかもしれないけど、お婿さんの役割を果たしなよ。それにラザルとラミルに構ってユーリルの相手してくれないかもよ」


「そうか、ラザルとラミルに会いに来るんだった。俺の事なんて気にしないか。それなら安心だ。それじゃお休み、樹」


 言いたいことを言って、さっさと布団を敷いて寝てしまった。

 ……ファームさんはユーリルのことをたいそう気に入っているから、構わないということは無いと思うけど、わざわざ起こしてまで言うこともないか。


「お休み、竹下。いい夢を……」


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あとがきです。

「樹です」

「風花です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「風花の武術のことが分かるかもしれないね」

「うん、バーシのおじいちゃんと隊商の頭ぐらいしか使い手はいなかったし、きちんと話を聞く前に二人とも死んじゃったから、詳しいことはわからないんだ」

「じゃあ、唯一使えたのはリュザールだけだったってこと?」

「たぶんね。他に使っている人を見たことが無いよ」

「そうなんだ。北原先生も何か知っていたみたいだし、言い伝えとか残っているのかもしれないね。それでは次回のご案内です」

「次回はテラでのお話になります」

「いろいろと賑やかなようですよ」

「「それでは次回もお楽しみに―」」

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