第72話 中山惣菜店
翌日の夕方、風花と待ち合わせをして海渡たちの家へと向かう。
えーと、商店街の総菜屋さんの二階って言っていたから……あった!
ここだ、中山惣菜店って書いてある。一階は休みで閉まっているから、横の階段から上がってくださいって言っていたな。
階段を上がり、玄関の呼び鈴を鳴らす。
「はーい!」
ドアが開き、そこから凪が出てきた。
「先輩たちいらっしゃい。どうぞ上がってください」
凪に促され風花とともにお邪魔する。
「お邪魔しまーす。凪ちゃんこれ。食後にみんなで食べようね」
風花が二人で選んだケーキを凪に手渡す。
「うわー、ありがとうございます! ここのケーキ美味しいんですよね。ここで座って待っていてください。冷蔵庫に入れてきますね」
そういうと凪は奥へと引っ込んでいった。
しばらくして、お茶を持ってきた凪に聞いてみた。
「海渡はどこに行っているの?」
「海渡なら一階で夕食の準備をしています」
「一階?」
「はい、この家狭いでしょう。二階に台所が作れないから一階のお店の厨房でいつも作っているんですよ」
確かに商店街の中にあるだけあって間口も狭く、中もあまり広くは無いようだ。
「凪、出来たから手伝ってー」
下から海渡の声が聞こえてきた。
「はーい、今行く」
「僕たちも手伝おうか?」
「いえ、先輩。ここで待っていてください。狭いのでいろいろとコツがいるんです」
そう言って凪は奥へと行き、次々に料理を運んでくる。
スパゲッティ、とんかつ、餃子にサラダ。そして豚汁。和洋折衷の料理の中でひときわ異彩を放つのはプロフ!
一階から上がってきた海渡に聞いてみた。
「すごいね。プロフまで作ったんだ」
「テラでの第一人者のソルさんに出すのは恐縮しますが、僕もあちらの人間ですからね」
「第一人者って、ただ知っていただけで……」
「わかっていますって、中央アジアの料理でしたよね、米もあちらに合わせてインディカ米で作ってみました」
ホントだ。米が少し細長い。やっぱりプロになろうという子は違うな。
「海渡、おしゃべりはいいから食べましょう」
「「「いただきます!」」」
海渡の料理はどれもおいしく、さすが勉強しているだけあるなと
「どれも美味しいよ。ねえ風花」
「うん、凄い。海渡君」
「ありがとうございます。豚汁もお代わりありますから食べてくださいね」
豚汁はこぼれないように、蓋がしっかり閉まる鍋に入れられていて、最初に海渡がそれぞれによそってくれていたのだ。だから今でも蓋を取った鍋からは湯気が立ち昇っている。
「まだ、熱々だね」
「ええ、二階にはガスが無いから保温鍋に入れているんですよ」
お代わりをもらい、食事を進めていく。
「ねえ、海渡。何かあちらで作れそうなものってないかな」
「そうですね。豚はいないけど、鳥はいるから、チキンカツなんかは出来そうですね。スパゲッティは麵があったらペペロンチーノなら作れそうだし、餃子も玉ねぎはあるから羊と鳥のひき肉で作れるんじゃないですか」
「豚がいないから豚汁は無理だと思うけど、みそ汁は作れないのかな」
「味噌も醤油も麦に大豆があるからできそうなんですが、発酵に麹菌が必要なんですよね。それは手に入れることができないから無理だと思います」
「探したら見つかることはないの?」
「僕も昨日合宿から帰って調べたんですけど、この麹菌って日本の種麹屋が改良して作ったらしく、自然に出来たものではないらしいんですよ」
「改良してできるなら、僕たちでもやれるんじゃないの?」
「数百年かかるみたいですよ」
数百年か、さすがにそれは無理だろう。味噌も醤油もこちらではいくらでも食べられるから、無理して探さなくてもいいか、あちらの人はその味を知らないから欲しいと言われることもないだろうし。
「ありがとう。他の料理で作るときに必要な物があったら言ってね」
「わかりました。何が必要か調べておきますね」
「いいなあー、私だけ仲間はずれで悔しい!」
僕たちの会話を聞いていた凪が話かけて来た。
「大丈夫だって、今日樹先輩が連れて行ってくれるから」
「樹先輩、絶対ですよ! 連れて行ってくれなかったら、連れて行ってくれるまで毎日押しかけますよ!」
そう言われても、確実とは言えないから困ってしまうんだけど。うう、風花の目も怖いし。
「善処します……」
食後のケーキも食べ、片づけを手伝うために一階の厨房まで下りていく。
「へえ、さすが本格的だね」
これだけ道具が揃っていたら料理をするのにも困らないな。
「そうでしょう。親父が道具に凝っていてすぐに母ちゃんから怒られるんですよ。ただ、おかげでいろんな料理が作れるから、お客さんも喜んでいるみたいなんですけどね」
道具を集めたくなるのは男の
片づけも終わり二階に上がると居間に凪だけがいた。
「風花先輩には先にお風呂に行ってもらいました。次は樹先輩入ってくださいね」
ということで、お風呂を交代でいただき、時間が来たので寝ることになった。
「どこで寝るの?」
「私たちの部屋に布団を並べて、ただ、敷布団が三つしか敷けないので、窮屈だけど許してくださいね」
「ごめんなさい。私が無理言ったばかりに」
「風花先輩、気にしないでください。みんなで川の字になって寝るのって隊商宿みたいでいいでしょう」
確かに隊商宿なら、スペースがあれば人を詰め込んじゃうので、身動きとりにくいときもある。それに比べたら三つの布団に四人で寝るくらい大したことないだろう。
「失礼しまーす」
案内された海渡と凪の部屋は6畳の和室で、真ん中はカーテンで仕切られていた。部屋の様子からすると左側は海渡で、右側は凪かな。右側の方が女の子っぽい感じがする。
「カーテンで仕切っているんだ」
「小学生の頃まではなかったんですけど、中学になってから真ん中にカーテンを掛けるようになりました。音は駄々洩れなんですけどね。今から布団を敷くので待っていてくださいね」
海渡と凪の二人はカーテンを移動し、敷布団を三つ敷いて掛け布団を四つ用意した。
これなら四人で寝ても大丈夫だろう。隊商宿よりはかなりましだと思う。
「樹先輩はここに寝てください」
指示されたのは右から二番目の場所。凪が一番右かな。そう思っていたら、そこには風花が寝ころんだ。
そして逆隣に凪が寝て、まだ立っている海渡から声をかけられる。
「電気消しますから、手を繋いでくださいね」
左手を凪と繋いでいると、右手に何かが当たる。風花も手を繋いできた!
風花を見るとクスっと笑っている。と、そのときシャッター音がした。
「いい画が取れました」
「海渡、この!」
「はーい、動かないでくださいね。それでは電気消しますね。おやすみなさーい」
なんかモヤモヤした気分のまま、眠りにつくことになってしまった。
翌朝、いつもの石造りの部屋で目が覚める。ルーミンを起こし、外へ連れ出す。
「おはようルーミン。昨日のことは言いたいことがあるけど、まずはリムンがどうなったか心配。行ってみる?」
「おはようございます、ソルさん。リムンが来ていたなら、こっちに来るはずだから待ってましょう」
……一昨日と違うな。
ルーミンと二人、井戸で顔を洗っていると寮の方から走って来るリムンの姿が見えた。
「大丈夫みたいですね」
そう言ってルーミンは嬉しそうに笑っている。やっぱり双子には私たちにはわからない繋がりがあるのかなあ。
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あとがきです。
「海渡です」
「凪です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「よかったね。凪とリムンが繋がって」
「うん、これで悔しい思いしなくて済むよ」
「前回の終わりに僕が言ったこと覚えている?」
「リムンと繋がったらわかるよって言ったこと?」
「そうそう、それでどうだった?」
「男の子もいろいろあるのねえ。でも、先輩たちと一緒というのはよくわからなかったけど」
「あ、あれは別々にって、どうでもいいでしょう」
「そっちが先に話題にしたんじゃない。それにしても樹先輩が女の子にどうして優しいのかわかったわ」
「え、どういうこと?」
「そうか、海渡はルーミンと繋がってまだ日が浅いんだ。記憶ではあるんだろうけど、体験はしてないのね」
「もしかしてあれのこと? ルーミンの記憶はしっかりあるけど、一緒になってからは、まだ……」
「経験したら樹先輩みたいに女の子に優しくなるわよ。さて、次回予告のお時間となりました」
「なんか進めづらいんだけど……次回はテラでのお話になります」
「その前に簡単な登場人物の一覧を掲載しますので、そちらの方もご覧になられてくださいね」
「「皆さん次回もお楽しみにー」」
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