第20話 コルカ到着とクトゥの隊商宿
コルカにはお昼すぎに到着した。聞いていた通り大きな町だった。
ここで一旦隊商の人たちと分かれることになる。隊商は行商の準備のため街の市場へ、私たちは臨時診療所を開設するために隊商宿へと向かう。
診療所はバーシのような村では
コルカで父さんたちがいつも使っている隊商宿は町の北の方にあり、宿の主人はカイン村の出身。実はこの人ラーレのお父さんの弟さんなんだって。私が生まれる前から村を出ていて、15年ぐらい前から隊商宿をやっているみたい。
「おー、アラルクか、大きくなったな」
父さんは馬を私に預け、隊商宿の横で薪を割っている体の大きな少年(だよね)に声をかける。
「あ、タリュフさんお久しぶりです。この前お会いしてからまだ一年もたってないですよ。たいして変わってないでしょう」
うん、少年だ、手を止めこちらを見た表情はまだあどけなさを残していた。
「一回り、いや二回りは大きくなったように見えるよ。それで、クトゥはいるかい」
「ちょっと待っててください。すぐ呼んできます」
アラルクと呼ばれた少年は宿の入り口まで行き、中に向かって大きな声を上げる。
「父さん。タリュフさんが来たよー」
間もなく宿の中から大柄の男性が出てきた。
「タリュフさんお久しぶりです。もうそんな時期ですかい」
この人がラーレのおじさんになるのかな、そういえばラーレのお父さんも大きな人だった。
「早いもんだね。クトゥ、今回もお願いしたいのだか大丈夫だろうか」
「ええ、場所はいつものところが空いてます。今回もセムトさんたちと一緒ですかい」
「ああ。セムト兄さんは今市場に行ってるから、終わったら来ると思うよ」
父さんたちが話している間、何したらいいか分からず戸惑っている私の元に先ほどの少年が近づいてきた。
「いらっしゃい。タリュフさんのとこの人だよね、荷物をほどくの手伝うよ」
近くまで来た少年の背はかなり大きく、ガタイもいい。目の色は私たちと同じ茶色、目鼻立ちもしっかりしているイケメンさんだ。
「ありがとう。何をしたらいいか分からなかったんだ。私はソル」
「俺はアラルク。よろしくね」
大きな体に似合わず、人懐っこい笑顔だ。
「ソルはタリュフさんの娘さんなの? 似てるね」
「うん」
「いいなーカイン村、父さんの生まれた場所だって聞いてるけど、行ったことないんだよね」
荷物を二人で降ろし、馬を馬小屋まで連れていく。
「アラルクさんは、ラーレのいとこになるんでしょ」
「アラルクでいいよ。そういういとこがいるって聞いてる。ラーレと仲良いの?」
「うん、同じ年だし狭い村だから」
馬を馬小屋に繋ぎ、
「そうだ、この前ここに来た子がカインに行くって言っていたけど、どうしている」
ユーリルたちのことだろうか、セムトおじさんがここに連れてきていたのかもしれない。
「ユーリルとコペル? セムトおじさんと一緒に来た子供たちだよね。うちの工房で働いてもらってるよ」
「男の子と女の子、そんな名前だったかも。家が無くなったって聞いて心配していたんだ。それよりも、工房って何?」
「工房って言うのは……」
「ソル、ここに来なさい」
馬小屋の前でアラルクに工房について説明しようとしていたら、声がかかった。慌てて、お父さんのところまで向かう。
「娘のソルだ。色々と頑張ってくれているから今回連れてきた。よろしく頼むよ」
「初めまして、ソルです。クトゥさん、よろしくお願いします」
「よく来たなお嬢ちゃん。ジュトの代わりだってな。たいしてお構いもできねえが、よろしく頼むぜ」
クトゥさんは大きな両の手で私の手を握ってきた。って、力が強い! ふ、振り回さないでー。父さんも笑ってないで止めてよ。
「父さんやめなって。ソルが困っているよ」
私がクトゥさんになすがまま揺さぶられているのを見て、アラルクが助け舟を出してくれた。
「いやーすまん。こんなかわいいお嬢ちゃんが、わざわざカインから来てくれたのがうれしくてな、つい」
体の大きなクトゥさんがポリポリと頭をかいている姿はなんだか可愛らしい。
「クトゥもアラルクがたくましくなって心強いだろう」
「そうなんですぜ、タリュフさん。こいつはここ最近でまたでかくなりやして、背は兄貴を越えてますし、力でもこの辺りで
「ほお、そいつは楽しみだね。それでマルトゥはどうしたんだい」
あとで聞いたら、マルトゥさんはアラルクのお兄さんで、宿の跡取りさんだって。
「あいつは今、町の連中と北の水が枯れたところを調べに行ってましてね。水が戻っていれば、ここにきている連中も返すことができるかもしれねえですし」
「水を調べに……こちらはそんなに大変なのかい」
「カインでも引き受けてくれたから今は落ち着いているんですけどね、もし難民がまた増えたりしたらどうなるかわかりゃしません。というわけで、マルトゥがいない間の用事はこのアラルクに言ってくだせえ」
「タリュフさん、ソル、なんでも言ってください」
私と父さんはアラルクの後を付いて宿の中を奥へと進む。案内されたのはいくつかある大部屋の一つだった。ここで私たちとセムトさんの隊商が一緒に寝泊りをして、昼間、隊商がいない間に診察をここでやるらしい。その時には目隠し用に絨毯を上から垂らして、一応プライバシーに考慮しながら診察を行うみたい。
私たちは運び込んだ荷物を広げ、診察の準備を行う。
「そろそろいいだろう。ソル、アラルクにセムト兄さんが行ってる市場を聞いて、診察の準備ができたと伝えてきてもらえないか」
薬を分かりやすいように並べていた私に父さんからの指令が下った。そのことを宿の入り口でクトゥさんと話をしていたアラルクに伝える。
「それなら連れて行ってあげるよ、最近人が増えて何があるかわからないから。ねえ、父さんいいでしょ」
「そうしてやりな。それと鍛冶屋のじいさんから、薬師が来たら教えてくれって言われてるから伝えてきてくれ。なんでも薬が切れそうなんだと」
宿の主の了解もでて、二人で市場まで向かうことになった。
市場はコルカの町の中を東西に通っている街道の南側にあり、町の中心部より西側にあるらしい。宿からまっすぐ南に向かい、街道に出たら西に向かえばわかるいうことだ。
馬で行くほどの距離じゃないということで二人で歩いている。さっきも思ったけど改めて横に並ぶとアラルクはかなり大きい。私は彼の肩ぐらいまでしか身長がないので、話すときは見上げている。地球、テラも含めて、今まで周りにここまで大きな人はいなかったので、見上げて話すとか新鮮。普通の女の子ならドキドキしていたかも。
地球の樹の身長が165センチ。こちらではそれより10センチ低いかなって感じだから、私の身長は155センチほどだと思う。アラルクはそれから頭一個分以上、30センチぐらい高いように感じるからすでに180センチ以上あるんじゃないだろうか。さらに年齢を聞いてみると私よりも二つ上の16歳、ということはまだまだ伸びる可能性があるということだ。
市場までの間、アラルクにコルカの町について聞いてみた。
コルカは盆地の出口付近にある街道沿いに出来た町で、北と南には標高の高い山がそびえている。北の山の手前には大きな川があってその周りには畑が広がり、南の山との間には放牧地があってそこで羊や馬を育てているみたい。北の方から来た難民の人たちは、畑の農作業や放牧を手伝って生活しているらしい。
ただ土地には限りがあるから、これ以上来られても困るということで、アラルクのお兄さんたちが水が戻ってないか調べに行っているわけだ。
そしてコルカの人口は1000人くらい。カインが100人ちょっとだから10倍弱。
これだけの人がいると、カインにはいない鍛冶屋さんとか器とかを作る陶芸師の人とかの専門の職人さんたちもたくさんいて、その多くが市場の近くに工房を構えているんだって。というのも、職人さんが作った商品はコルカでしか買えないかというとそうではなく、セムトさんのような行商人を通じて他の村にも運ばれる。また、商品を作るための材料も行商人を通じて手に入れていて、そのやり取りを行っているのが市場というわけだ。だから、職人さんは必然的に市場の近くに集まって来るんだね。鍛冶屋のおじいさんの工房も市場の西側にあるということなので、セムトおじさんへの用事をすませた後に行くことになっている。
そしてアラルクからはカイン村の工房について聞かれた。
「それじゃあ、ソルがその工房をやっているということになるの」
「父さんから、お前が言い出したのだから責任もってやりなさいって言われてるんだ」
「ソルが言ったことにみんなが協力しているのがすごい。どうしてそんなことができるの」
「どうしてと言われても……」
確かに私が言ったことをみんなが信じ、手伝ってくれたから糸車もできたし工房もできた。一笑に付されていたらそこまでのことだった。
「ソルには信じてみようと思わせる何かがあるかも。まだ少ししか話してないけど、俺も何か手伝えないかなって思ってる」
「自分ではよくわからないけど、ありがとう」
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お読みいただきありがとうございます。
テラでは未婚の男女が二人っきりでいることをできるだけ避けるようにしています。今回ソルがアラルクと一緒に市場に向かうのは双方の親の了解があるのと、やはり女の子一人では危険だという考えがあるからだと思います。
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