第5話 綿花のことを知っているの?
朝食の後、お墓参りセットを持ってお父さんとお母さんと一緒にお寺まで向かう。歩いて10分くらいかな。
「ねえ、お母さん。
横を歩くお母さんに聞いてみた。お母さんって顔が広いから、意外とこういうことも知っていたりするんだよね。
「樹、いつものことながら突然ね。私はあまり知らないわよ。なにか始めるの?」
残念、あてが外れちゃった。でも、唐突に思われるのは仕方がないかなあと思う。だってあれ以来、テラのことを直接話すことは無くなったけど、あちらで見た病気の症状とか薬草のこととかは事あるごとに聞いていたからね。
「
おや、頼みのお母さんはダメだったけど、お父さんが教えてくれるかな?
「確か山岡先生の娘さんが、オーガニックコットンのお店を開くとか言ってなかったかな」
山岡先生の娘さんと言えば
「先生に聞いておこうか」
「ありがとう。山岡先生だったら直接聞いてみる」
山岡先生は同じ町内の外科医院の先生で、祭り命の熱い男だ。去年はうちの町内が七年に一度のお祭りの当番の年で、山岡先生は中心になって動いていた。祭りは三日間しかないけど、準備期間まで含めると半年近くになるんだ。去年は僕も最初から手伝ったから、自然と町内の人とも仲良くなったんだよね。
山岡先生の家には何度か行ったことあるし、もちろん紗知さんとも話したことがある。
「ねえ、樹。そのお店興味あるから山岡先生に会ったら詳しく聞いてきて」
お、さすがお母さん、オーガニック好きなだけはある。さっそく興味を示してきたよ。
お墓参りを済ませ自宅に戻ると時間はまだ午前10時前。休みの日に山岡先生のところに行くには少し早いかな。……そろそろ市民図書館が開く時間だから、先生の家に行く前にいい本がないか探してみてもいいな。よし、思い立ったが吉日、早速出かけよう。
市民図書館は、家からだとお寺と逆方向に歩いて10分ほどの位置にある。
図書館の前の横断歩道で信号待ちをしていると、後ろの空き店舗だった場所から金づちの音が聞こえてきた。新しいお店ができるのかなと中を覗いてみると、10坪ほどの小さな店内で二人の女性が作業しているのが見える。
一人は見覚えがある。山岡先生の所の紗知さんだ。
「紗知さんおはようございます」
僕は作業中のお店の中に入り挨拶をする。
「あら、樹君じゃない。おはよう。こんなところでどうしたの?」
紗知さんともう一人の女性は、作業の手を止め、振り向いてくれた。
「お忙しいところごめんなさい。図書館に行く途中見かけたので……。父から聞いたのですが、オーガニックコットンのお店をされるのですか?」
「そう、今はその開店準備中なの。樹君は興味があるの?」
「オーガニックは母が気にしていました。僕の方は綿花について知りたくて図書館で調べようと……」
「綿花ってコットン生地の方じゃなくて植物の方よね……。樹君は渋いことに興味あるのね」
「ははは……、渋いでしょうか。綿花の栽培方法と糸の紡ぎ方を知りたくて」
「前から思っていたけど樹君って本当に男子中学生? 謎だわ。……まあ、それならそこの優ちゃんが詳しいよ。優ちゃん、樹君が綿花について知りたいんだって」
優ちゃんと呼ばれた女性はこちらに近づいてきた。
「初めまして樹君、山岡
「立花樹です。よろしくお願いします」
優紀さんは紗知さんのいとこで、オーガニックコットンに興味があり、綿花の栽培から加工までやっているそうだ。
その後少しの間だったけど、優紀さんからは綿花についていろいろと教えてもらうことができた。それに、今度綿花畑と作業小屋も見せてくれるって。これでテラでの綿花の栽培もうまくいくかもしれない。
「じゃあ、来週金曜日に開店するから、真由美さんに伝えておいてね」
「わかりました、必ず伝えておきます。今日はありがとうございました。またお邪魔しますね」
思わず実際に栽培している人から綿花のことを聞くことができた。時間もあることだし、図書館にも寄って資料を探してみよう。
フェルガナ盆地の資料を手に取る。主な産物は綿花と絹。鉱物資源も豊富だけど、ほとんど手付かずの状態らしい。
これを見ると、テラでも綿花と絹が作れそうだけど、これまで見たことが無かった。でも、気候的に作れるはずだと思って、綿花をセムトおじさんに頼んでいたんだ。
綿花を栽培することが出来たら
次に絹。これは高級品なので急ぎはしないけど、あったらいいなって程度で探そうかと思っている。原料の生糸を手に入れるためには繭を吐く蛾が必要みたいで、その蛾を手に入れる手段がわからないというのもあるんだけどね。
そして鉱物資源については、それをどうこうできるほどの知識や技術を僕は持っていないから、これは後回しでいいと思う。正直いうと、詳しい埋蔵場所がどの資料にも載っていないので、どこを掘ったらいいかわからないというのが本音。
今は自分のできる範囲のことをやっていこう。少しでもテラの人たちの生活をよくすることができるのなら、それが
そうそう、綿花の資料を見つけなきゃ。植物のコーナー、それとも園芸かな……
さてと、そろそろ帰ろうかな。お腹がすいてきた。
今日は、本当によかった。優紀さんたちに綿花についての話が聞けたし、図書館でもいくつか綿花の栽培法についての本を借りることができた。あとは、セムトおじさんが種を持ってきてくれるのを待つだけだ。
でも、できるだけ実践して覚えたいと思っている。だって地球からテラへ運べるものは、ただ一つ記憶だけだからね。
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あとがきです。
「ソルです」
「樹です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「ねえ、樹。綿花のこと調べてくれた?」
「うん、思わずいい先生に出会えたよ。いろいろと教えてくれた上に、実際に作っているところも見せてくれるんだって、ありがたいよね」
「教わるのはいいけど、覚えてくれないと私にはわからないから頑張ってね」
「そうなんだよなー、調べるのは図書館でもインターネットでも調べられるんだけど、ほんと覚えるのが大変で参っちゃうよ」
「樹がぼんやりとしか覚えてないことは、私もぼんやりとしかわからないから、こっちも大変なんだよ」
「そんなときはどうしているの」
「とりあえずやっちゃえーって感じ、だめでもともとだから」
「そんなのでいいんだ」
「でも、綿花はあまり手に入らないかもしれないから、失敗したくないな……」
「わ、わかった。何とかやってみる」
「さて、そろそろ時間が来たようです」
「「皆さんこれからも『おはようから始まる国づくり』よろしくお願いします」」
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