灰色の廃人による這い上がる為の反撃〜最果てにたどり着いた冒険者はどうやら最強らしい〜
ない
第一話 「世界からの追放」
目の前に広がるのは、荒野。
銃で戦闘をすればさぞ見栄えが良くなるだろうと思わせるほどの、広大な荒れた土地。
俺はその中を疲労し切った足を動かして歩く。
風は生ぬるい、全身に浴びるその風は少しずつ俺自身の気力を削いでいく。
「はぁ……はぁ……」
激しい息切れをして前へ前へと俺は進む。
手には錆びた
多くの怪物はこの
そうして俺の腹の足しとなっていった。
「…………」
一度歩みを進めて、ここ数日間は足を止めていない。錆色の長剣を杖にして果てなきゴールへ目指す。
「腹が、減ったな。ここらで狩りにするか」
腰から下げていた水筒もどきを開けて水分を含んだ後、妙に砂が乱れた場所へ歩いていった。
「縄張りに入ってやったんだ。とっとと出てきてくれ」
俺の声に応じたのか、それとも微かな足音を聞いてきたのかは分からないが、そいつは赤い地面の中からボコボコと這い上がり侵入者を認識する。
巨大なサソリは姿を現し、敵意剥き出しで俺を見た。
「さて……俺はあと何年お前らを殺し続ければいいんだろうな」
俺は極限の精神状態の中、不敵に笑いながら斬れ味が無いに等しい錆剣を片手にサソリと対峙する。
「――ああ、誰か……」
誰か助けてくれ。
心の奥底で、可能な限りの救いを求めている。
《――キングスコーピオンを確認。プレイヤーはただちに戦闘体勢へと移行して下さい。レベリングシステムを開始します》
**
――俺はユート、新人冒険者だ。
新人と言っても、2年間続けてきて新人層から出られない、才能が無かった者。
今、クエストを受けて洞窟へやってきている最中なのだが……。
「パーティーから抜けてくれ。ユート」
「は?」
その言葉に俺は耳を疑った。
パーティから抜けろ、その突然の強制退去を強いられている。
「ど、どうしてだ!?」
「……今のお前じゃこのダンジョンのレベルに合っていない。言い方はキツイかもしれないが、俺達の足手まといになっているんだ」
そう言ってくるのはパーティーリーダーである俺の幼馴染、美男子代表のような青年キョウマ。俺と同じ時期に冒険者になり、遥か先の実力を持つ天才である。最速で上位に並ぶ実力派パーティー『
俺はその中のメンバーで、雑用兼荷物持ち、時と場合で前衛だ。
「そうよ。あなた、自分が思っている以上に役立たずだって事理解してる?」
キョウマの横から出てきて嫌な顔をする彼女は、同じパーティーメンバーのサナ。
俺に指を突きつけてサナは言う。
「だいたい、あなた何もしてないじゃない。いつも私やキョウマに任せっきりで後ろで見てるだけ……正直目障りよ。報酬だけは山分けなんて納得できないわ」
「…………」
その通りすぎて何も言えない。
俺はキョウマに甘えて同じパーティーに入った。俺も時間をかければ中堅にはなれるだろうと考えていた。
でも、現実はそうはいかなかった。
「これからのクエストは難しいものが多い。お前を守りながら戦うのは骨が折れるんだよ」
「こっちの身にもなってくれる? キョウマは天才なのに、何であなたは戦えないの?」
二人からの苦情の言葉が痛い。俺の弱々しいメンタルに強く突き刺さってくる。
それが正論である事が、何よりも悔しい。
「ま、まあまあお二人とも落ち着いて……。ユート君も好きで荷物持ちになってるわけじゃないでしょうし」
「なによレン。レンだってそう思うでしょ? “スキル無し”の奴に、このパーティーにいる資格はないって!」
「そ、そんなことは……」
強い擁護はしないパーティーメンバーのレンに、レナは睨みつけて言い放つ。
このパーティーは五人構成であり、キョウマにサナ、レン、フリジア、そして俺だ。
フリジアというのは、先ほどから無言を貫いてこちらの様子を見ている少女の事。フードを深く被り、腕を組んで壁に寄りかかっている。
今までもこのメンバーで、いや主に俺以外のメンバーでダンジョンの攻略をしていた。俺も以前は戦ってはいたが、次第に戦闘に出ることが無くなるほど皆に置いていかれてしまった。
「スキルも授かってない、魔法も使えない、出来るのはみすぼらしい剣術だけ! あなたがこのパーティーにいること自体恥ずかしいのよ」
簡潔に言うと無能と言いたいのだろう。
確かに、さっきの戦闘ではっきりした事がある。
モンスターの強さが上がっている。先日に潜ったダンジョンよりも全体的に見て格段に
「戦ってみて分かったんだ、ユートはこの先のクエストについていけないと。荷物持ちになる始末だし、もう一緒にパーティーは組めないと判断した」
横目に倒したモンスターを見る。
俺を見て一目散に突っ込んできて、キョウマに一撃でやられた。それは俺が一番弱いと認識して最初に殺そうとしてきたのだと思う。
俺一人でコイツを倒す事はできない。それ故に、皆は役立たずだと言うのだろう。
「ユートには今日をもって
キョウマはそう吐き捨てて、身を翻し前へ歩いていく。
「あなた、もう必要ないから。早めに抜ける用意はしておいてね?」
笑みを浮かべながらサナは手を雑に振る。ようやく邪魔な奴がいなくなって、清々するというように。
皆が、俺から遠ざかっていく。
レンとフリジアは何も言わず、
「…………いつかはこうなるとは思ってはいたんだが。はあ……」
広い洞窟の空間にはあっという間に俺一人。
寂しさと虚しさが俺の心に残った。
「もう仕方のない事だ! 早めに切り替えて行こう。また新しい仲間も、きっと……」
俺は冒険者として生きる事を決めた身だ。
剣術学院をギリギリで合格し、半年も経たずに中退した。キョウマ達のような学校に通いながらの冒険者ではなく、もうお金を自分で稼ぐ人生なのだ。
「親ももういないんだ。何とかしてヒメナの学費を……!」
ヒメナは俺の妹であり、兄妹とは思えないほど俺とかけ離れた才能を持っている。
俺と同じような道に来てはならない。だからこうして学校に通い続けられるお金を日々稼いでいた。
「だけど、これからどうしようか。キョウマ達のお情けで報酬を貰っていた人間が、一人で立ち直せるだろうか……」
薄暗い洞窟を歩き、来た道を戻っていく。
なるべく早く出よう。じゃないとモンスターがまた湧いてくる。
今のところはモンスターの気配はない。
「…………ん?」
ふと、妙なものを見つけた。
道の端っこに“本”が落ちている。
暗くて分かりづらいが、この場所には似合わない綺麗な模様の本だ。
「なんだ、あれ。本?」
俺は興味本位でそれに近付く。
モンスターがいないか周囲をキョロキョロとして、罠ではないかと警戒して本を拾い上げてみる。
「なんだってこんな所に。通った時には無かったよな?」
黒色の花模様の、
「美しいというか不気味というか……。誰かの落とし物か? レンのやつとか」
レンは上級の魔術師だ。これくらいの本を持ち歩いていてもおかしくはないな。
「今からでも届けに行くか? はぁ……アイツらに嫌な顔されんの嫌なんだが」
今から戻って間に合うだろうか。素直に届けるか、ギルドに預けるか悩む。違ったら違ったで面倒だからな、確実性を求めたい。
「……魔術の本、か。一体どんな内容だろう」
ちょっと気になるな。
俺が読んでもどうにかなるものではないだろうが、中身は見てみたい。そんな意思が俺に芽生えた。
「ちょいと読ませてもらおう」
俺は本を片手で支えて、目次となるページをめくって…………………………………………。
「…………何もないんか〜い……」
誰もいない中、一人でそう呟いてしまった。
白紙であった。何も書かれていないつまらない1ページを眺めてがっかりする。
見事なまでの騙された感が生まれた。てっきりびっしりとした文字達が出てくるかと思ったが、真っ白な見開きのページ。
「なんだよ、期待させやがって――」
――俺はそこで思考が止まった。
なぜなら、目の前に広がる光景が変わっていたからだ。暗い洞窟ではない、どこか見知らぬ場所。
俺が立つ地面はざらざらとした、赤い砂の上。果てしなく広大な、荒れた大地。ギンギラと輝く、奇妙な赤黒い太陽。
「……………………はっ?」
間抜けな声を出して立ち尽くす。
視線を外した瞬間に、切り替わったのだろうか。中から外に転移したとかそういう話ではない規模の不運に見舞われている。
――俺はこの日、全てがねじ曲がった。
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