見るなと言う方が無理だって。
曖昧に返事をすると、靖子さんには僕に不満があるように感じられたらしい。
「そっ、そう……ですよね。電気、消さないとダメ……ですよ……ねぇ……」
「あらっ。ダーリンは明るいままの方がお好みかしら?」
靖子さんが気を遣ってくれているのが伝わってくる。
僕の好みを尊重してくれる気だ。ありがたい。
けど僕は男として、靖子さんに甘えるのはやめようと思う。
なおかつ、紫亜たんの信頼にも応える覚悟だ。
「いいえ、靖子さんの好きにしてください!」
言ってしまった。ちょっとは甘えておけばと、言ったそばから後悔する。
「じゃあ、遠慮なく。暗くしてからここで脱がせてもらうわ!」
靖子さんは言うなり、メイド服の背中のホックを外しはじめる。
同時にメイドさんが照明を操作して、部屋が暗くなる。
「えっ! こっ、ここで脱ぐんですか!」
驚きだ。いくら暗くしたからといって、真っ暗になるわけじゃない。
うっすらとだが灯がある。それが、幻想的な景色を生み出す。
映画でも観れない究極の美がそこにある。
「お風呂に入るんだもの。脱ぐわよ!」
平然と言う靖子さん。
そうなんです。僕だって、着衣のまま入浴してくださいと言うつもりはない。
脱衣所で脱いでくれればそれでいい。だけど問題なのは、ここで脱ぐこと。
あと1枚を脱いでしまえば、本当に丸裸なんだから!
靖子さんはまだ下着姿で、丸裸になったわけではない。
今ならまだ間に合うという思いがある一方、
心のどこかでこのまま全てを脱ぎ捨てて欲しいという気持ちにもなる。
観たくないし、観たい。観たいし、観たくない。
そんな思いが、僕の発声を狂わせる。
「いやっ。ででで、でも、それじゃあ……」
ありがたいことに、丸見えだ! よからぬ妄想をする余地はなくなる。
その代わりに、脳裏によからぬ映像がこびりつくことだろう。
『悶絶地獄』の狂想曲とともに!
「ダーリン、おねがい! ここで脱がないと……服が濡れちゃうから!」
靖子さんがしおらしい。僕にはもう、こくりと頷くことしかできない。
メイドさんがパネルを操作すると、ウィーンと、モーター音が響きはじめる。
カーテンだ!
僕の正面にあったカーテンが左右に別れていく。
もう、模様を数えることができない。踏んだり蹴ったりだ。
そして、床側から徐々に奥にある部屋の灯が漏れはじめる。
暗いリビングにまばゆい光。これはこれで見事な映像美だ。
靖子さんの今の姿ほどではないけど。
だから僕は、奥にある部屋が何なのか、しばらくは気付かなかった。
奥にある部屋、それは浴室!
リビングと浴室を隔てる壁はガラス張りになっている。
浴室内の湿気のせいか、結露した水滴が一面を覆っている。
ここへきて、靖子さんは本当に楽しげだ。
「あらーっ。残念ねぇ。ちょっとくもっちゃってるわ!」
くもりのせいで、浴室の細部まではよくわからないが、
広さ的には数名でご一緒できそう。
靖子さんに『どうぞ、お入りください』と言われたら、
いつだって入る準備はできている!
それを見透かしてか、咲舞は怒り気味。
「もう、あまちゃん。Hな妄想してるでしょう!」
はい、しておりますとも。5人での入浴シーン、背中のながしっこ。
こんな立派なお風呂を見せられたら、誰だって妄想するって。
まるで、夢のようだ!
そうとは言えずに曖昧な返事をしたつもりが、若干、妄想が混ざる。
「いやいや、広いからみんなで入りたいって思っただけさ。あはははははっ」
「サイテー。背中流しっことか、しないから!」
でしょうね。咲舞に見透かされているのを見透かしていてのあえての発言だ。
「冗談だって、咲舞。あはははははっ」
「いいえ。冗談ではないと思うわ! 私たち、この状況ですもの」
紫亜たんが手を挙げる。僕の手も同時に挙がる。
手錠がジャラジャラと音を立てる。そういうことだ!
「紫亜、本気? あまちゃん、男の子だよ!」
ごめんなさい。男の子でごめんなさい。
女の子同士だったら、一緒に入れたのに!
今日ほど男の子に生まれたことを後悔した日はない。それを隠して。
「そうだよ。もう中学生だし、さすがに僕がご一緒するのはムリだって!」
決して強くはない僕だけど、精一杯の強がりだ。
「だったら私に、お風呂を我慢してって言うわけ?」
「それもそうね。私もお風呂に入りたいわ」
「じゃあ、私の残り湯を3人で楽しんだら」
残り湯ですとっ!
靖子さんはいつのまにか全部脱いでしまったようだ。
代わりにタオルを巻いている。
お風呂、僕だって入りたい。でも、手錠で繋がってるからそれはできない。そんなことをしたら、今の靖子さん以上に丸見えだ。
「……僕は……いいけど……」
ガン見しながら言う。靖子のタオル姿は充分にエロい! 刺激的だ!
「何よ。人のママをいやらしい目で見ないでちょうだい!」
紫亜たん、ごめんなさい。でも、誰だって見てしまうよ!
見るなと言う方が無理だって。
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たしかに、観てしまいますね。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
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