何かが白銀色にキラリと輝く。
僕の今の状況について、誰か教えてください。心の中でそう願うと、聞こえてきたのはしゃがれた声だった。
「とてもうらやましい。本当に貴方は運がいいようです。楽しそうだ」
天の声? いや、まっさーだ。店の声ということか。この状況をうらやましいとか楽しそうとか、まっさーはドMに違いない。僕にとっては苦痛で、どうしたって楽しめる状況ではない! 真来さんの声も聞こえてくる。
「遊んでないで、さっさと飲みましょう!」
僕はべつに、遊んでなんかない。
「はぁーい!」
「分かりましたーっ!」
「直ぐに撤収しまーす!」
「Sounds good!」
素直な返事は、紫亜たん・咲舞・皐月アナと、青い目をした女子の大きい方。従者さんから「主は『そうね!』と申しております」という訳が添えられる。
姉ちゃんと梨花先生をそのままにしてイベントとか、あり得ないのに! みんなはどうして平気でアイスミルクを飲もうと思えるのだろうか。不思議だ。と、視界が戻り、同時に姉ちゃんと梨花先生の声が聞こえてくる。楽しそうだ!
「じゃあ、とっとと飲みましょうよ、先生!」
「えぇ、裕子さん。折角だしいただきましょう!」
思わず「ふぁっ?」と漏らすが、同時に僕は納得した。2人とも気を失っていたんでも眠っていたんでもない。単にふざけていただけ。2人に対立はなく、むしろ仲よく遊んでいる。なんてこった!
「天太郎様は乗り気じゃないようです。遊び足りないのでしょうか」
まっさー、それは違いますよ。僕は楽しく遊んでたわけじゃなくって、みんなにもてあそばれていたんです。
まっさーが店の奥の倉庫から、古びたテーブルを持ち出してくる。小さくて丸いが、木製で重みがある。まっさーはその真ん中に金魚鉢を置き「銀座のホコ天にこのテーブル1つというのが、この店のはじまりだった」と感慨深げだ。
僕たちもつられてしんみりする。積み重ねること70年。1000万オーダーの歴史を感じながら、僕以下19人でいただきますをする。僕を含めて10人がぐるりとテーブルを囲み、乗り上げるようにして残りの9人が顔を並べる。
壮観な構えだ。
僕の右には咲舞、左には紫亜たん。右上の梨花先生と左上の皐月アナは、おそらくわざと、何か柔らかいものを僕の肩に乗せている。
『何か』なんて表現したけど、たしかに昨日までの僕だったら何か分からなかっただろう。だけど本当は今は違う。もう分かっている。この柔らかいものの正体は、2人の胸だ。何度もこの柔らかさに悩まされている。
みんなに揶揄い半分にもてあそばれるのなんてもう懲り懲り。どうせだったらモテたい。一生に1度訪れるというモテ期が今、来ればいいのに!
いやいや。今でも僕にしては充分なモテっぷりだ。紫亜たんと咲舞。2人との関係をもっと真剣に考えることにしよう!
あっという間にアイスミルクを完飲した。味も最高だし、何よりも19人で飲んだ思い出は決して忘れない! まっさーが「真来、裕子さん。2人も試写会に行くといい」と言い出した。
試写会のチケットはプレミアもの。思いつきで入場できるとは思えない。だけど紫亜たんを見ると頷いている。映画の主演で芸能界のサラブレッドの紫亜たんが一緒だったら、入れるのかもしれない。これは楽しみだ!
「店番はこの儂がする。久しぶりにこの格好をして腕がなるんだ」
まっさーはそう続けて、機嫌よく身体をきびきびと動かす。とても90歳とは思えないほど機敏だ。これなら店番はできそう。折角だからみんなで行きたいという気持ちが僕にもある。ここはお言葉に甘えて……。
「いけないわ。曽祖父ちゃんは引退したんだから。私が店を継いだんだから!」
……と、真来さん。本当に健気に、引き継いだものを必死に守ろうとしている。何という責任感だろう。僕と同い年とは思えない。一方の姉ちゃんは……。
「それは違うわよ、真来店長。遊ぶときは遊ばないと!」
……と、仕事を放棄、既に私服だ。他のみんなも姉ちゃんの意見に賛成で、一緒に行こうと真来さんを誘う。それでも真来さんは断り続ける。血統だけでは名店の2代目は務まらないのだろう。真来さんは実に凛々しい。
だけど僕だって折角だから一緒に行きたいと思わなくもない。
姉ちゃんはつまらなそうにポケットに手を突っ込む。さすがに年下の店長を置いて自分だけ遊びに行こうとは思っていない……というふりをして言う。
「しかたがない。真来店長、どうしても行かないというの?」
こういうときの姉ちゃんは我が強いというか、諦めが悪い。何か策を弄するに違いない。何を仕掛けてくるのか僕はドキドキしながら姉ちゃんの手元を見る。ポケットの中にある何かが白銀色にキラリと輝く。
__________________________________
姉ちゃん、何か仕掛けてくるんでしょうか⁉︎
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
この作品・登場人物・作者が少しでも気になる方は、
♡やコメント、☆やレビュー、フォローをお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます