怖い……。

 戻った僕を集子さんがキツイひとことツンとした表情と共に出迎える。


「ったく。あんた、写真1枚撮るだけにどんだけ時間取らせるのよ!」

「ひっ、ごめんなさい……」


 怖い……。カメラさんより怖い!


「ったく。本当に鈍臭いのね、君!」


 集子さんの言う通りだ。怖がっていてはダメだ。カメラさんの言う通り、褒めて活路を見出すしかない。タイミングをはかるのは難しいけど、もう1歩を自分から踏み込まないと。




 緊張しっぱなしの身体をほぐすため、高笑いをしてみる。


「あはははははっ」

「何よ、キモいわね!」


 相変わらずツンとしている集子さんだけど、僕の方はいくらか落ち着いた。


「ごめん、ごめん。集子さんがあまりにも美少女過ぎて、つい」

「はぁっ? ななな、何を急に、い、言い出すのよ……」


 色白な集子さんの顔がゆでだこのようにみるみる赤くなる。言葉のキレも悪くなる。これが、褒められた女子の姿なのか。だったら今こそ髪だ! 髪を褒めるんだ。


「髪の雰囲気とかも大人っぽくって、いいなぁって思ったんだ」

「そ、そう。髪型、そんなに似合ってるかしら」


「それはもう。世界中の男が集子さんの側にいたいと願うだろうね」

「側だなんて、そんなこと……」


「いいや。集子さん自身が気付いてないだけ。みんな君にメロメロだよ」


 褒めるのに、褒め過ぎということはない。集子さんは「メロメロって何よ。言葉が古過ぎるわ」と文句を言いながらも、目を虚に変化させていく。カメラさんが褒めろと言った意味がよく分かる。


 ここは、たたみかけるしかない!


「メロメロはメロメロ。1番集子さんの近くにいる僕が1番メロメロ!」

「あ、あんたもメロメロなのね。困ったわ、写真撮らなきゃいけないのに」


 ここでカメラさんがはなしに入ってくる。集子さんも僕も、カメラさんの注文通りにポーズを撮り、2ショ撮影は大成功となった。撮影後も集子さんとはかなり仲良くなった気がする。




 集子さんの次は慶子さん。無難にこなせた。カメラさんのいう褒めを実践したのが奏功した。撮影中という束の間のことではあっても、2人とは上手くコミュニケーションがとれた。これは、女子が苦手な僕にとっては勝利と言っていい!


 さて、お次は皐月アナとの2ショ撮影。そのあとに紫亜たんとの2ショも控えている。ここは3連勝で弾みをつけたい。よし、頑張ろう! と、息巻いた直後だったせいか、皐月アナが現れたときは世界中がスローモーションになった。


 競馬場でビキニ水着のコスチュームは反則だって……。


 皐月アナはまず全身を180度回転させる。次に上半身を屈ませながら左に直角によじると、右手を膝にあて、お尻を突き出す。最後に首から上をさらによじり、ジトッとした目で僕を見る。


「どう、イダテンくん。この戦闘服、とっても気に入ってるの。脚がきれいに見えるでしょう! 褒めて、褒めてーっ!」


 水着を戦闘服と呼ぶだけあって、皐月アナの本気がうかがえる。まさにビキニアーマー! ビーチでならまだしも競馬場のスタンドでこんな格好するなんて、見ている僕の方が恥ずかしくなる。頭が沸騰しそうだ! 


「どうって言われても、目のやり場に困っちゃいますよ」


 そう言いながらも、しっかり見るものは見る。もちろん、今晩のおかず用だ。ローレグライズのパンツの紐がきれいに蝶々結びされているのも、丸みを帯びた腰まわりも、目に焼き付ける。この際、皐月アナに悩殺されるなら本望だ!


 皐月アナは「えー、もっと見て欲しいのに!」とつまらなそう。


 いやいや、見てます、見てますよ。本当はしっかり見てますからね。競馬場にビキニの水着なんて似つかわしくないはずなのに、これもありだという説得力のある皐月アナの戦闘服、見ないはずがありません。


 トップスのひらひらした布が豊満な胸を充分に包んでいるし、ぶらりと下がった左腕が胸を隠しているのはもったいない。いや、胸の大きさを忍ばせるからこそ、ひたすらに美脚のみが強調されている贅沢な水着姿、ともいえる。


 景子アナといい皐月アナといい、お台場テレビはどんな基準で女子アナを選考しているんだ。見ているだけでこんなにも体力を消費するだなんて、はじめての経験だ。息がどんどん荒くなる。もう、限界。頭が破裂しそうだ!


「水着とか、反則ですって。刺激が強過ぎます。普通に服着てくださいよ」


 本心にもないことを言う僕を文字通り尻目に見て、皐月アナが動く。左手をぐっと背後に逸らし、パンツの紐をくるくるとまわす。これは反則だ! チャラチャラと動きまわる紐に、僕の目は釘付けになる。


 皐月アナはしょんぼりした顔をして「それだと、見ているのは服って感じでしょう……」と、寂しそうに呟く。


 いやいやいや。服以外、何を見ろとおっしゃるの! くるくるまわるパンツの紐がいつ解けるか心配4分の1、期待4分の3だ。でもそこはダメだ。禁断の花園じゃないか。僕、どうすればいいんだろう……。


「……私はね、イダテンくん。内なる私を見て欲しいのよ」


 一体、何の内側を見ればいいのでしょうか……。

__________________________________

内なる私、神秘的な言葉ですね。


ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。

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