第3話

「綾、覚悟はいい?」

「いいよ」


 結局、普通に入ることにしたお化け屋敷。

 私が前を歩く。

 突然の音とか、風とか。

 内心、ビビりながらも

 ビクリとして立ち止まると、すぐ後ろに綾がいる安心感。


 怖さも限界を超えるとハイテンションになるもので、途中からはケラケラと笑いながら。

 でも、いつの間にか腕を掴んで綾の隣を歩いてた。

 しまった! どさくさに紛れて手を繋げば良かったな。

 と、思ったのは出口が見えた時だった。

「はぁ、なかなか面白かったね」

「うん。あぁ、お腹すいた~」

 外に出た解放感か、伸びをしながら綾が言う。

「さすが、早弁の綾!」

「げっ、知ってた?」

「当然。2時間目終わったら食べてたでしょ?いつも、お昼は購買に行ってたじゃん」

「だって、朝練するとお腹空くんだもん」

 なぜか自慢げだ。


「今日はお弁当作ってきたよ!食べよ」

「まじでー!!」

「うん」

 ちょっとした広場に腰を下ろし、お弁当を広げた。

「凄い!実はずっと食べたかったんだよね、しょうが作ったお弁当」

「え?」

「めっちゃ美味しそうだったもん」

「は?」

「いつも横目に見てたの、知らなかった?」

「知らないよ、言ってくれたら・・・」


 そういえば、あの時・・・



 教室で、一美や朝子たちとお弁当を食べていて。

「祥子のお弁当、美味しそうだねぇ」って褒められて。

「美味しいよ、だって自分の好きなものばっかり詰めてくるんだもん」って言ったら

「え?自分で作るの?」って二人に驚かれ。

「うん」って答えたら。

 突然、背後から「まじで?」って声が聞こえて。

 振り向いたら、綾がいたっけ。


 あの時じゃないかな?

 初めて、綾から声をかけられたのは。

「ごめん、つい。聞こえちゃって」と恥ずかしそうに言って、購買へ走っていったね。



「言ってくれたら?作ってくれた?」

「かもね。いや、ないか。そんなことしたら綾のファンに殺されるわ」

「なにそれ…面白いね。そっか、言えばよかったな」

「いまさらだけどね」


「では、今日は味わって、いただきまーす」



「わっ、美味し。なにこれ」

「なにこれって、卵焼きだけど?」

 お弁当には、てっぱんだ。

「それは、見ればわかる。じゃなくて…普通の卵焼きより濃厚じゃない?」

「あぁ、マヨネーズいれたからかな」

「へぇ、隠し味?なんかプロっぽい」

「そんなことないよ」

 と言いつつ、顔がにやけてしまう。


「唐揚げも食べていい?これの隠し味は?」

「うん、いっぱい食べて!お肉、多めにしたから。これは普通だよ。お酒とお醤油で下味付けて片栗粉まぶして揚げただけ」

「え?普通って、唐揚げ粉使うんじゃないの?」

「そうなの?」

「わかんないけど」

 会話しながらも、気持ちのいい食べっぷりだ。


「でもさぁ、自分でお弁当作るって、凄いなぁ」

「別に凄くないよ、親が作ってくれなかったから仕方なくだもん」

「3年間、毎日だよ?凄いよ」

「綾だって、毎日、朝練してたじゃん」

「ん?部活?あれは好きだから。あ、お弁当作り好きなの?」

「毎日作ってたら、だんだん好きになった」

「そっか」


「綾も、毎日毎日、跳んでたね」

「そう、毎日毎日飽きもせずね」

「ねぇ、跳んでる時って、どんな感じなの?」

「う~ん、なんていうか。贅沢な感じかな」

「ぜいたく?」

「跳んでる時はさぁ空しか見えないから、空が自分だけのものになるって感じ」

「ふぅん」


「今日も良い空だねぇ」

 お弁当を平らげた綾は、手を広げてそのまま芝生に寝転がった。

 子供か!

「寝ちゃわないでよ」

「寝るかも」


 私はお弁当箱を片付けてから、空を見上げた。

 綾と同じ空を見たくて。



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