初恋

hibari19

第1話

 いつもの駅にいた。

 3年間通った駅だ。


 でも今日は反対側のホームに立っている。

 彼女を乗せた電車がやってきて止まる。

 開いたドアから乗り込んだ。

「おはよ」

 彼女が笑顔で言う。

「良かった。寝坊しなかったんだね」

 照れ隠しで、そんなことを言ってしまったのに、怒った風でもなく

「遊びに行く時は、目覚ましより早く起きれるんだよ」

 不思議だーと笑う。

「授業中、良く寝てたもんねぇ」

「ホントホント、よく卒業出来たもんだ」

 あははーと、豪快にまた笑う。


 そう、私たちは先月末、高校を卒業した。

 制服とジャージ以外の彼女を見たのは初めてだ。

 初めて2人で出掛けるのだから当たり前だ。


 じっと見てたら

「変?」と聞く。

 Tシャツにジーンズ、ダウンコート、スニーカー、彼女らしい。

「変じゃないよ、動きやすさ重視だね、綾らしい」

 私も同じようなものだけど。


 目的地に着いたら、綾がチケットを買ってきてくれた。

自分の分の代金を払い、「広いんだねぇ」と感想を漏らすと

 ちょっと首を傾げて「もしかして、初めて?」と驚く。

「遊園地は苦手で」

「じゃ、なんでココにしたの?」

「デートといえば遊園地かなって」

ぷはっ

「チャレンジャーだなぁ」

 また派手に笑ってる。


「よし、行こう!案外楽しくて今日から好きになるかもよ?」

 そういう、綾のポジティブなところが好きだ。

 綾と一緒なら高いところも怖くないかもな。


「まずは、ジェットコースターだね」

 と言われ、思わず立ち止まる。

 2〜3歩前に歩いた綾が気付いて振り返る。

「大丈夫だから」と手を差し出す綾。

 ヨシ!気合いを入れて

 数歩の距離を自らの意思で縮める。



「うぅぅ」

「ごめん、いきなり激しすぎた?気持ち悪い?」

「だいじょう..ぶ。少し..休ませて」

 ジェットコースターは綾と一緒でも、もう乗りたくないと思った。


 しばらくの休憩後

「ごめん、もう落ち着いたから、何か乗ろう」

「ホントに大丈夫?じゃ、次は級長の好きなやつにしよ」

「もう〜級長はやめてよ。だいたい級長なんて1年の時しかやってないし」


「じゃ、なんて呼ぼう?」

「ねぇ、私の名前知ってる?」

「知ってるよ、祥子でしょ?」

「良かった。本気で知らないかと思ったよ」

「じゃ、“しょう”でいい?」

 なんかカッコいいね、と嬉しそう。

「うん」

 みんなは祥子って呼ぶから、ちょっと新鮮だし、特別な感じだ。


 気分を良くして

「じゃ、次はアレね」と指差したら

「マジで〜」と絶叫された。

「いいじゃん、行こ!」


「わお〜コレ思ったより面白い〜」

 馬に跨り上下する綾。

 メリーゴーランドではしゃぐ、もうすぐ女子大生。

「こっち向いて〜」

 面白いから写真撮ってみる。

「なんで、しょうの馬は動かないの?」

「動かないのもあるんだよ」

「だから、なんで動かないのに乗ってるの?」

「動いたら酔うから」

「まじ?」


「じゃ、次は乗り物じゃないやつにしよ」

 綾について行くと

「え?」

 小声で言ったのに、聞かれてた。

「え?怖いの?」

 ニヤニヤして聞くから

「そんなことないよ」

 思わず言ってしまった。

「私は怖い」

「はっ?」

「だから、しょうが前を歩いてね」

「えぇー、ちょ、まって」

「なんで?怖くないんでしょ?」

 むー

「よし、作戦考えよう」


 お化け屋敷の前で作戦会議だ。


「全力で走り抜ける!は?」

「せっかくお金払って入るのに?」

「フリーパスじゃん」

「暗いから危ないよ?」

「じゃ、目をつぶるってのもダメじゃん」

「危険過ぎる」

「じゃあ、どうするの?」

「諦めて普通に歩こ」

「あれは?お祈り呟きながら・・・しかも英語で」

「日本のおばけに効く?」

「あわふぁざふぅあぁといんへぶん」

「あぁ、なんかお経っぽくていいかも」

「シスターに怒られるね」

「間違いない」


 こんな風に戯れるようになるなんて、三年前は思いもよらなかったな。

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