時代遅れの王国
@dantuzidou
時代遅れの勇者
遠い昔、栄華を誇った王国があった。
懸命な王、屈強な戦士、聡明な賢者、伝説の勇者、不世出の魔術師
すべてがそろっていた最高の王国
今は昔その王国は滅びに瀕していた。
「もうだめだこの国は終わりだ」
民は口々に話す。
その国の王すらもどうしてよいかわからない。
「もう私にできることは何もない」
幼い王は俯き、若き臣下も苦々しくうなだれる
そんな玉座に白いマントの若い男が現れ
ゆっくりと王の近くに近づいてきた。
「誰だ!」
剣に手をかけてその白マントの前に立ちふさがる近衛騎士
「誰だだと?」
白マントは無礼を受けたような表情を浮かべた後に卑屈な笑い声を上げた。
「ひっひっひっひ」
ゾクッとする笑い声に幼き王は気づいた
「そなた、白の賢者様か?」
その声にはっと気づいたように
玉座の間にいた一同は白マントを凝視した
「ほほう、覚えておられましたか」
にやりと笑って帽子をとると深々と頭を下げた
「白の賢者だと!?」
若い臣下は信じられないといった具合で改めて白マントを見た
白マントはどう見ても20を超えていない青年にしか見えなかった
青年というよりは少年に近いにおいを残しているように見え
噂に聞く白の賢者の年齢とはかけ離れていた。
「覚えてはおらなんだが、赤子の時に会っていると祖父から聞いた」
「そうですか、あのくそジジイは元気ですかな?」
「くそジジイ!?」
近衛兵の一人が激怒の声を上げた
騎士団長がそれを制止した
「白の賢者様だぞ」
小さな声で兵士を諭しなだめた
「まああのくそジジイはうまくやったもんだ」
「そこら中にファンがいやがる」
ひっひっひと笑い王に向き直った
「王よ、このくたばりぞこないに妙案がございます。」
「妙案?」
「さよう」
「古の英雄たちを蘇らせるのです」
皆、歓喜に沸いた
4名を除いて
賢者は自分以外の3名の表情を見逃さなかった
その表情をみて微かに笑うと
実行の許可だけもらい足早に玉座を後にした。
その準備の中、
「賢者様、少々お待ちを」
臣下の一人が賢者に声をかけた
「なんじゃ?」
「旅に同行させていただきます。」
「なんのために?」
「王への報告と賢者様の身の周りのお世話のために」
「おぬしの様な若い娘さんに耐えられるかのう」
「そこをどうかお願いいたします。」
頭を下げ王からの令状を渡してくるそのお嬢さん
「まあ良いか」
「ありがとうございます」
「しかし仕事を一つ追加じゃ」
「どのような」
「たった今から起こったことのすべてを記録してくれ」
「記録ですか」
「そうじゃ一日の終わりにわしに見せてくれ」
令状を受け取りさっさかと部屋を出る賢者
お嬢さんはそれを追うように小走りでついていった
「教会じゃな」
「教会・・・」
王の都の市場を歩きながら二人は最初の目的地を話し合っていた。
「そうじゃあのバカを呼び戻す」
「バカ・・・」
「やはり知らんか」
「も、申し訳ございません。」
「いやいい、それもわれらの過ちよ」
お嬢さんはよくわからないように首を傾げた
「お嬢さん名前は?」
「メグと申します」
「そうかメグお前さん昔この国が栄えていた頃の話を聞いたことがあるかい?」
「噂程度ですが、」
「そうかい、、、」
前を向いたまま必死についてくるメグを振り返りもせず歩く賢者
乾燥し灼熱の太陽の日差しも意に介さないように
果物をほうばりながら歩く賢者
「じゃあ今の現状はわかっているのかな?」
「ええっと」
「現在我が国は敵国と戦争中であり敵国に敗北寸前です」
「まあ間違っちゃいないな」
「敗北は嫌だよな?」
「嫌です!」
「なぜ嫌なんだ?」
「何故って敗北したら負けてしまうじゃないですか!」
「・・・お嬢さんホントに王の命令で来てるのか?」
「そうです。」
「・・・木陰に入り今後の行動について説明しよう」
街を出て荒野に入りゴソゴソと荷物から賢者が物を取り出した
「じゃあ頼む」
丸い金属の玉をメグに放り投げた
その球は光を放ち翼となってメグに装備された
メグはその翼の美しさに目を奪われながらも
予定通り賢者を抱えて敵砦を空中から超えた
たどり着いた古い教会
そこに伝説の勇者がいた
勇者は年を取り教会の外の階段に座り込み
うなだれていた
傍らには一頭で国を亡ぼすほどの竜が切り刻まれて死んでいた
「こいつを倒したのか」
賢者はあきれたような声を上げながらその老人の隣に座った
「おお、賢者か久しいな」
「なんじゃい元気ないのう」
「昔はわしに会うたびに殺さんばかりに食って掛かってきておったのに」
「ふん、昔の話じゃ」
「お前さん伝説になっとるぞ」
「知っとるよ」
「なぜここにいる」
「なぜってここの教会を守っておるのよ」
「なに?」
振り返ると協会の中には子供たちとシスターが楽しそうに遊んでいた
「こいつはたまげたw」
「すごいじゃろ」
「この調子で世界を救ってくれ」
「・・・」
「どうした?」
「わしゃもうおいぼれじゃ」
「今の時代は今のものに任せるよ」
「・・・」
「どうしてですか?」
メグが声をかけた
「お嬢さん、わしをご覧よ、もう手も震えて何もできん」
「何もできないってこんなに大きな竜を倒して敵地のど真ん中の教会で」
「これだけの人を守っているじゃないですか」
「・・・」
「どうして戦ってくれないんですか?」
「じゃあ逆に聞くがどうして戦わないといけないんじゃね?」
「・・・」
「わしが世界を救う理由はなんじゃ」
「わしがこんな世界をっ!!」
声を荒げ体を震わせていた
「やはりだめか」
子供たちと楽しそうに話をしている老人を
遠くで見つめながら賢者がいう
「もうおかえりいただけませんでしょうか」
シスターの女性が話しかける
「彼はもう疲れたのです、自分で世界を背負うことに」
「個人の幸せのために生き、死にたいのです」
「わかるなぁー」
腕を組み深々と言う賢者
そんな賢者の横をすっと横切りもう一度
勇者に向かうメグ
「おいぼれって何ですか?」
「おいぼれはおいぼれよ今の時代は今の時代の者が何とかせんと」
パシン
「なんなんですかその態度、あなたまだ生きてるじゃないですか」
{やめろ}
「今の時代の者ってあなただって今の時代の人でしょ」
{やめろ}
「自分の力で守れるものだけ守ってそれで満足なんですか?」
{やめてくれ}
「こうしている間にあなたが救える命が消えて行ってるんですよ」
ドクン
パシ
メグをはたこうとしたシスターの手を老人が止めていた
そのシスターに笑顔でありがとうというと
もう一度メグに向き直った
「いってくれるのう若いの」
「そうなら貴様はどうなのじゃ」
「おぬしは人を救うために戦わんのか」
「私にはできない」
竜の死体を指さし堂々と言い切る
「だからできるあなたを呼びに来た」
「おうわしならできる」
勇者はにやりと笑った
「まった」
賢者が言った
「俺たちが求めているのはこんなちっぽけな竜退治じゃない」
「ヒコ」
「勇者よ我がすべて準備しておる」
玉座には敵魔族が迫っていた
「くだらんな王よ」
近衛騎士も倒され王の首に剣が向けられている
「あれほどの強国がたった数百年でこの様か」
「人間とはちっぽけな種族よ」
「貴様が逃がしている民たちも殺さずすべてさらってやるから安心いたせ」
「家畜として生きてもらわねばならんからな」
「離れよ下郎が」
王の首に向けられた剣をはじいて勇者が銀のマントを翻す
「な、どこから湧いて」
何も言わずに魔族に剣を入れ続ける
「!!貴様もしや勇者」
黙って剣を振り続ける勇者
「このおいぼれがいまさら何を」
「かるい軽いぞこの剣こんなものではいくら切っても」
剣を振り続けながら勇者はシスターのことを思い出していた
「本当に勝手な人ですねあなたは」
「いつも私を置いていく」
「魔族である私を置いていくのは人間ではあなたぐらい」
「いつも去っていく、私を置いていく」
「そんなあなたの帰りをずっとまっていました」
涙を流しながらいうシスター
「おかえりなさい勇者」
「そして行ってらっしゃい勇者」
「すごい剣技だ」
魔族の攻撃をすべていなし
自身の攻撃をすべて当てていく勇者の剣技
「違う」
{なんだ急に重く}
「こんな剣じゃない」
勇者の白髪がグレーになっていく
「師匠」
漆黒の髪が美しくたなびく
「勇者の剣は」
「いいか小僧勇者ってのは」
「一撃で圧倒的でかっこいいんだ!!」
その瞬間玉座まで迫っていた敵軍はその先の町ごと消し飛んだ
ポカーンとした王の前に
服のサイズが合わなくなった髪が黒く
短髪で小柄な少年が困ったように笑っていった
「やりすぎちゃった?」
時代遅れの王国 @dantuzidou
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