第26話 ドローン輸送(2)
プレゼンの後半戦は、
「今回は視聴者の代わりに、3人のアイドルから質問を用意してもらった。この放送を見る者の多くはすでに知っておろうが、念のため紹介させていただく」
ブレンが促すとカメラは左に旋回し、3人のゲストを映し出した。
シャイルは警備・保安の観点から、セナは市民目線で、マリーは技術者の立場からそれぞれ質問をすることになっている。
「そうさな、まずは市民を代表して、セナよ。聞きたいことはあるかの?」
「はい、もちろんでシカ!まずは誰もが真っ先に聞きたいことから!」
セナは元気よく立ち上がると、モニターの前に出てきた。準備の良いことに、手には指し棒を持っている。
「とりあえず、この塔って何でシカ?これから建てるのでシカね?」
「左様。我がサリオン通販は、街の東西に1本ずつ倉庫兼ドローン発射塔を建設する予定じゃ。まずは試験的に、向こう3か月で
こちらの世界、というかスチールフロント周辺は、少なくとも200年以上大きな地震が発生していないらしい。それ以前の文献にも地震の記載は無いそうだ。
そこにドワーフの建築技術と魔法が加わり、建造物は信じられない早さで建っていく。
ちなみにこれまで高層建築が行われてこなかった理由をブレンに聞いたところ、「建物は地下に伸ばした方が楽しいじゃろう?」とのことだった。
「ということは、街の中に建設予定地を買収済みでシカ?」
「いや、それぞれの塔は城壁の外に用意する。大型の倉庫が併設され、それなりの数の職員が中で働くことになる故、遠からずその周辺も発展していくとは思うがの」
そこまで説明して、ブレンは画面を切り替えた。
「こちらの補足資料に、具体的な用地を記載しておる。西のベルガー門と、東のダイニンガー門の外側あたりじゃな」
「なるほど、分かりやすいでシカ。建築は2本同時に始めるのでシカ?」
「いや、まずは西門の半塔から開始する。それを使って、ある程度の運用実績を蓄積したい。それに応じて設計を修正し、東の塔を立てていく想定じゃ」
「市民がこのサービスを使えるようになるのはいつからでシカ?」
「全ての準備が整うまで、早くても4か月はかかるじゃろう。遅くとも6か月以内には始めたいと考えておるよ」
「サリオン通販の会員、全員がドローンによる配達を受け取れるのでシカ?」
「残念ながら、最初は100名ほどに会員を限定して始める予定じゃ。対象地域の中から抽選で選ばせていただくことになるじゃろう。もちろん、準備が整い次第順次拡張していくぞい」
他にもいくつかのやり取りをした後、セナは満足そうな素振りで自席へ戻った。途中から台本ではなく本気で質問していたように見える。いや、それも含めて演技派なのか?
「んー、とりあえずこんなところでシカね」
「セナ、良い質問をありがとう。続いてシャイル、警備・保安の観点から聞きたいことはないかの?」
「ええ、予め警備局の方々から質問を預かっているわ。順に確認していくわね」
言いながら、胸元から手帳を取り出した。
今日は真面目な場ということで、シャイルとセナの二人はリクルートスーツのような衣装を身に着けている。セナはいかにも背伸びしていますといった感が強いが、シャイルは立ち振る舞いが綺麗なこともあり、見事に着こなしていた。
「警備局としては、まずドローンが墜落しないかを心配しています。この点、どのような安全対策が取られているのでしょうか」
「うむ。今回の開発で、そこは特に力を入れたところじゃ。一言に安全対策といっても、『どの段階で何を担保するか』を細かく考える必要がある。
とりあえずここでは、ドローン内部に3系統の独立した機構が内蔵されていることだけ述べておこう。これらをもって、万が一にもドローンが自由落下しないように制御しておる。
その他には、製造から帰還後の整備まで、安全への取り組みを細かく説明した資料を公開予定じゃ。気になる者はそちらを読んでほしい」
「なるほど。次ですが、試験飛行中にドローンが攻撃魔法を受けた事件がありました。これらの犯罪行為に対しては、何か講じているのでしょうか」
「それに関しては、実際に見てもらった方が早いの。スタッフよ、準備してもらえるかの」
言いながらブレンは手元にあるドローンを起動させ、天井付近に待機させた。
「さて、誰か試しにこいつを攻撃してほしいんじゃが……マリー、やってみてもらえるかの?」
「ええ、分かったわ。念のため訊くけれど、撃ち落してしまっても構わないのかしら?」
「構わんよ。できるものならな」
指名されたマリーはスタジオの中ほどに歩み出た。
デビューから3か月経ち、マジェナ城館の攻略だけでなく、
「じゃあ、全力でやるわね。吹き荒れろ魔力の嵐!“
いつもの初級魔法がドローンに炸裂した……かに見えたが、ぶぅんという鈍い音とともにキャンセルされた。あの程度の威力では、アニエスの設計した防御魔法を貫くことはできない。もちろん、マリーもわかった上での演出だ。
むしろ、わかっているのにあのイキり方は、よくやるものだと思う。
「何ィ!?」
「とまあ、ドローンには強力な防御魔法が施されておる。大抵の攻撃は効かないじゃろう。そして、もう一つ重要な機能がある」
ブレンが言い終えるかどうかというタイミングで、スタジオ中から7、8機のドローンがマリーめがけて殺到した。機首から赤い光を発し、一定の距離を置いて滞空する。
『
「なになに!?どうなってるのこれ!?」
『攻撃ヲ検知シマシタ』『攻撃ヲ検知シマシタ』『攻撃ヲ検知シマシタ』
「怖い怖い怖い!ちょっと誰か助けて!」
やや演技過剰な気もするが、迫力はしっかりと視聴者へ伝わったかな。
ブレンが手を挙げると、ドローンの赤い光が消え、三々五々と解散していった。
「ドローンは、1体が攻撃を受けると周囲のドローンに伝達し、一斉に攻撃者を監視するようになっておる。こちらから攻撃することはないが、警備局へは通報される。結果として、犯罪者の検挙に貢献できる仕組みじゃな」
「なるほど、よくわかりました。ありがとうございます」
そういえば、シャイルは実際にこの光景を見るのが初めてだったかな。やや引き気味の表情で質問を終えた。
「いやあ、えらい目に遭ったわ。最後に、あたしからも技術的な質問をして良いのよね?」
「もちろんじゃ、マリー。何でも聞いてくれ」
「まずそのドローン、往路は高い所から滑空するとして、帰りはどうするの?」
「目的地用の魔法陣が、発進の支援をするようになっておるんじゃよ。この力を借りて、真っすぐ100メートルくらい上昇する。その後は往路と同じように滑空して、倉庫の下層階帰還ドックへ向かうわけじゃな」
「荷物ってどうやって受け取るの?」
「こちらの実演動画を見てくれ。
このドローンは中心部が上下ともに開くようになっておっての。まず荷物を格納する際は、上部の蓋が開いて、倉庫の係員が荷物を入れられるようになっておる。
荷物を入れて蓋が閉まると、中で四方から風船が膨らみ、荷物を潰さない程度に圧迫する。飛行中は結構揺れるんじゃが、これによって荷物が壊れるのを防止しておる。
最後に配達時じゃが、ドローンが着陸すると底面が開いて荷物を魔法陣の上に乗せるんじゃ。ドローンはそのまま上昇して、荷物を置いていくという訳じゃな」
「なるほど。空からぽいって投げたりはしないのね」
「それが出来たら楽じゃったんじゃがの。さすがに無理じゃった」
「次で最後ね。このドローン、どれくらい遠くまで運べるの?東西の塔2本でスチールフロント全域をカバーできる?」
「240メートルの塔が完成したら、片道7キロくらいは十分に往復できる範囲となる。この街の東西がちょうどそれくらいじゃから、2基の拠点があれば概ね問題ないという判断じゃ」
「ありがとう。よくわかったわ」
「こちらこそ、感謝するぞい」
一通り質問が終わり、ブレンはカメラ目線に戻る。
「他にも聞きたいことは多々あろうが、実際に運用しないと結論を出せん要素も残っておる。サリオン通販に専用の質問フォームを設ける故、知りたいことがあればそちらを通して質問してほしい。全てに回答することは約束できんが、できる限りの情報公開に努めることは誓おう」
そう締めて一礼。
最後に
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