剣と魔法とネット通販 ~元勇者ですが、ネットアイドルのプロデュース始めました~
高山瑞希
第1章 通信販売、始めました
第1話 プロローグ
「ご覧いただけますでしょうか!あちらに見えるはスケルトンの群れ!いちに……合計6体います。
少女のハイトーンな声がダンジョン内に響き渡った。
肩ほどまで伸ばされた山吹色の髪からは、鹿のような角がすらりと伸びている。
画面は少女から50メートルほど奥にズームインし、佇むスケルトンの一団と、そこに歩み寄る女剣士の後ろ姿を映し出した。
「そしてこれに挑むは我らが赤毛の双剣士!もう数歩でスケルトンの感知範囲内に……今入りました!スケルトンが一斉にこちらを向きます!弓持ちは4体いますね!それぞれに構えて射撃開始です!残る2体はカラカラと音を立てて近づいてきます。独特な動きが気色悪い!」
今回は安全な役回りの担当となったこともあり、少女の声は元気いっぱいだ。他の魔物が寄ってこないかと一瞬心配になるが、それも考慮してアンデッドしかいないダンジョンを選んでいるのだ。生物の体から漏れ出る
「ご覧ください!普通の冒険者なら、射られた矢は避けるか盾で防ぐしかないでしょう!避けていては行動が制限されますし、盾は持たないスタイルの戦士も多いことと思われます!」
一方、赤毛の剣士は射かけられた矢をひらりひらりと躱しながら、両手に1本ずつ持ったショートソードで2体のスケルトンの攻撃を同時に防いでいる。決してレベルの高い敵ではないとはいえ、安定して捌く姿からはまだまだ余裕が感じられる。
「そこで!初級から中級の冒険者にお勧めしたいのがこちらのアイテムです!シャイルさん!あれを使ってください!」
画面の中で、シャイルと呼ばれた剣士が大きく後退した。剣を鞘に納め、足元にある黒い塊を両手で持ち上げる。
「じゃじゃーん!まるぞこなべー!今シャイルが持っているものと同じものがこちらにあってですね。見てくださいこの艶と重厚な質量感!」
そこに、解説の少女が再びカットインしてきた。手には直径が肩幅くらいある中華鍋を持っており、あれこれと角度を変えて視聴者向けのアピールをしている。
「こちらの鍋はドワーフ王国の名門、グラジール工房の協力を得て特別に開発した合金を使用していてですね!強度を落とすことなく大幅な軽量化に成功していて、しかも熱の伝わり方が」
「セナ!解説はいいから話進めて!あと語尾!」
興に乗って商品紹介を始めた少女――セナを遮り、シャイルが話の先を促す。それはそうだ。
「ご、ごめんでシカ!とにかくこの鍋、軽くて硬いので、殴ってヨシ!」
台詞に合わせて、画面の奥でシャイルが文字通り鍋を振るう。2体のスケルトンはまとめて粉砕され、残骸がその場に崩れ落ちる。
「そして、防いでヨシ!」
セナがタイミングを合わせて叫ぶと、シャイルは飛来した矢に向けて中華鍋をかざす。4本の矢は小気味良い音を立てて弾かれた。
「おおっ!見ていただけたでシカ!丸底鍋ならでは
「りょうかーい!あと語尾忘れんなー!」
ようやく台本から解放されたシャイルは、律義に中華鍋を使って矢を弾きながら、残るスケルトンを撲殺しに走った。この後はセナに思う存分商品紹介をさせれば、今回の取れ高としては十分だ。
「いやでもマジで、この語尾って必要でシカ?セナ、十分にキャラ立ってると思うんでシカ・・・」
俺が持つ魔導カメラの向こうでは、セナがメタな愚痴をこぼしている。確かにキャラ付けのために語尾つけようなんてラノベ的発想から始めたことだが、これで結構な数のファンはできてしまったのだ。今更なしにしようという判断も難しい。後で動画のコメントをチェックしながら考えよう。
スケルトンの殲滅を終えたシャイルの合流を待って、俺は今回のロケを締める指示を出した。
「んじゃ、最後に二人で締めのセリフお願いしまーす。3、2、1」
「次回の動画ではこの鍋を使った料理の紹介をしていきますシカ!」
「鹿鍋、鹿炒飯、鹿の丸焼き!皆さんが冒険中にする料理のリクエスト、待ってまーす!」
「いやセナの前で鹿料理の話はやめるシカ!あんたサイコパスでシカ!?」
実際の冒険やダンジョン探索なんて大抵陰鬱なものだが、この二人の掛け合いを見てもらえれば少しは気も紛れるだろう。こちらの世界で動画配信を始めて200日。視聴者も順調に伸び、本業である通販ビジネス成長の原動力となっている。
「今回の万能丸底鍋、気になるお値段は398ゴルド!398ゴルドと大変お買い得になっています!限定1,000個にて売り切れ御免!」
「安いっ!これはもうパーティにひとつ買っておくシカ!?」
人類を救う冒険から12年。
再びこの地に戻ってきた俺は、ネットアイドルをプロデュースしていた。
「この動画の概要欄に、商品の購入ページリンクを貼っておくでシカ!」
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