八【組織本家】

「うぅわ、この山一つ持ってるのかよ。ここがボスの居るアジトか。マフィアがまたすげぇ所に……」


 ボスの屋敷を上空から眺めながらクロウは驚き騒ぐ。

 すると、エドガーが真剣な表情でクロウに忠告を始めた。


「良いか?ボスに何言われてもうろたえるなよ?大丈夫だとは思うけど暴れるなよ?何か思い出しても知らないフリをしろ。その方が何かとが良いからな」


「都合が?……分かった」


 クロウは良く分からないままエドガーの忠告を聞き入れた。


 話しが終わると、ヘリコプターも屋敷のヘリポートに着陸。


 降りるとマフィアの一味なのか、警備の人間が待ち構えていた。

 エドガーは胸に入れていた銃を渡し、二人共従うまま身体検査をされる。

 終わると屋敷の中へ通され、ボスの元へ案内された。


 クロウは屋敷の中を見渡し、外も中も豪華な建物だと思い歩いていた。


 何でマフィアが豪邸に……表向きは合法企業か?


 無駄に広い階段を上がり、一番奥の大きな扉をノックし開かれると、そこに男は座っていた。


「……!?」


 男が振り返り顔を見せたその瞬間、クロウの脳裏に映像が映る。


 この男に指示を出された俺が何かをしている……。


 誰かがこの男に銃殺されている……。


「よう、初めまして……になるのか。

 話しは聞いたぞクロウ。俺がお前のボスだ」


 はっきりとしない何かを思い出せそうになった途端、その男が話し始め映像が遠のいてしまった。


「お前、何もかも覚えていないとは本当なのか?」


「あぁ……あんたの事もこの場所も知らねぇ」


 クロウはボスの問いかけに素直に答えた。

 するとボスは少し笑みを見せたと思いきや後ろを振り返り、エドガーに一任すると言い渡し話しが終わった。


「余計な事を考えずしっかり働け」


 ボスはそれだけ言うとクロウは部屋を出され、エドガーだけが部屋に残され部下も外へ出された。

 何かクロウについて話しているのだろう。


 特に何も言われんかったな。俺は組織の実験体だってのに訳分からん。余計な事……。


 クロウはボスの"余計な事"と言う言葉に対して考えながら屋敷の外に出てエドガーを待とうと歩き始めた。


 すると、


「おいクロウ!お前記憶飛んだんだってな!」


 階段を降りようとすると呼び止められ、次々に屋敷の部下が集まりクロウの前に立ちはだかった。


「……悪ぃけど、あんたらの事も覚えてねぇ。

 煙草吸いてぇんだ、どいてくれねぇかな?」


 そう言いながらクロウが歩き始めた瞬間、一番前に立つ部下の一人が、クロウの額に笑いながら銃を突き付けた。


「ッハー!

 エドガーはボスと話してんだろ?しばらくは出て来ないはずだ!こっちに来ーい!」


「はぁ……」


 記憶がないってのは迷惑なこったな、前の俺。


 ため息を吐きながら仕方なく同行し、クロウは後頭部に銃を突き付けられながら部下達について行った。


 外へ出ると屋敷の広大な庭。

 そこでクロウは膝裏を強く蹴られ強制的に膝まつくかされてしまった。

 クロウは黙ったまま抵抗せずに睨みをきかす。


「おい、お前ボスに何言われたか知らねぇけど、今まで通り仕事するんだろ?

 ボスへの上納金とは別にこれから俺の所に五万ドル入れろや?それで今までの舐めた行動はとりあえず勘弁してやる」


 クロウはボスの部下達に何をやったかも分からず、これから仕事の度に金を入れろと言われた。


「何でそんな事しなきゃなんねぇの?

 それによ、仕事は分からねぇ、金がどんだけ入るかも分からねぇ、なのにそんなん出来るか?……っつーか、記憶がなくなったのを良い事に俺にそんな事言ってくるって、お前等相当俺にブルってたんだな?(笑)」



 クロウは笑い、臆病だと思った部下達を馬鹿にした。

 クロウの言葉に全員怒りで言葉を失っている。

 これは普通には帰れないとクロウは思いつつも、エドガーに言われた通り何もする気はなかった。


 片腕はギプスで固定されて使えない。

 頭には銃を突きつけられている。


 恵華とやり合って完全に戦い方は忘れている事も分かっている。

 どうしようかと考えていた瞬間、


[ガンッ!]


「調子に乗んなオラァ!

 てめぇなんか普通のになっちまえばただのドチンピラと変わんねぇんだよ!!」


 ――はぁ!?


 クロウに銃を突きつけていた部下に顎を思いきり蹴り上げられ倒れてしまい、口の中を切ってしまったため、大量の血を吐き出してしまった。


 それでもクロウは痛がりながらもゆっくりと起き上がり、部下の気になる言葉に血を腕で拭いながら質問をする。


「おい……今"人間"ってどういう意味だ?説明してくれ」


 その質問に部下達は笑い、クロウを蹴り上げた部下が小馬鹿にするような口調で答えた。


「そんなことも忘れたのか?てめぇはなぁ、――」


[ッパーン!]


 何かを言いかけた瞬間、大きな銃声と共にクロウの目の前の部下が痛そうに手を支えている。


「っ痛〜……てめぇ、何で銃持ってんだよ!」


 持っていた銃を弾き飛ばされたようだ。


 銃声の聞こえた方を見ると、そこには銃をこちらに構えるエドガーが。


 銃を部下達に構えたままクロウに近づき、口の周り血だらけでしゃがんでいるクロウを立ち上がらせ、部下を脅し始めた。


「馬鹿共が、ここには俺の銃が何丁でもあるんだよ。

 ボスに連絡した時点でお前等がクロウに接触してくるのは予想ついていた。

 クロウが色々思い出したらまた遊んでもらえ。

 それまでちょっかい出すんじゃねぇ!

 余計な事を言うな!じゃなきゃ全員殺す。

 分かったな!!」


 さすが組織の最高幹部の一人。

 エドガーの脅しに部下達はタジタジ。

 その中一人の部下が怯えながらも口を開く。


「思い出したらって……それでまた何度も殺られる思いすんのが俺等じゃねぇかよ」


「だったら今のクロウにちょっかい出すんじゃねぇ!!

 正面からぶつかる覚悟もねぇのにまわりくどいちょっかい出すからだろうが!!

 お前等が過去にやった下らねぇ事は全部クロウに話しとくからな!次会う時は気を付けることだ!……クロウ、帰るぞ」


 部下はエドガーの気迫に何も言えなくなってしまった。

 クロウも先ほどのエドガーとの豹変ぶりに驚く。


 エドガー先輩……怖いっす。


 そのままエドガーはクロウを連れてすぐにヘリに乗り込み、ボスの屋敷を後にした。


 帰る途中でクロウがエドガーから聞かされた話しによると、クロウが組織内で嫌われているのには色々と事情があるようだ。


 一番はボスがクロウのやる事に関して、何故かほとんど口を出さない事。

 普通なら殺されてもおかしくない事をしても、クロウはおとがめなし。


 もちろん誰もが面白くはないはずだ。

 そのため、組織全体でいくつかに派閥化している中、基本は組織の仕事とは違う動きをしていたクロウおかげで同じ組織でもほとんどの一派がクロウファミリーを嫌っているようだった。


 しかしクロウは特殊な力を持ち、隣には最高幹部のエドガーもいる。

 どこも手を出せないはずなのだが、仕事を完遂出来ないように邪魔を入れてきたり、過去に他の一派による拉致監禁事件もあったようだ。


 誰が何をされたなどの詳細はまた改めてとエドガーは言うが、今回の事で組織内での記憶が戻ってもあまり良い事はないだろうとクロウは少しどうでも良くなってきている。


 ただ、さっきの部下の話しでどうしても気になる事がクロウの中で引っかかっていた。


 "じ"……あいつ何て言おうとしたんだろ?


「なぁエドガー……」


「何だ?とりあえず血を拭け」


「俺は……人間じゃねぇのか?」


「……人間だ。

 それも自分で思い出せ。いずれ嫌でも分かるさ」


「……」


 人間だが、人間とは異なるところがあると言っているようにしか聞こえなかった。


 クロウはヘリの窓に映る自分を睨む。


 しばらくするとヘリが飛行場に着き、車に乗り換え屋敷へ戻った。

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